「コミュニティーに還元することは“DNA”」

こう語るのは、ポルシェジャパン株式会社の代表取締役社長フィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ氏だ。

グローバル企業である同社は、“海外から来た企業”でありながら、千葉・木更津市と共同し、地域の人々とさまざまな取り組みを展開し、“還元”している。

2021年、世界で9番目となる「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」が木更津市に誕生。これを機に、ポルシェと木更津市との絆が深まっていく。

なぜ、木更津市を「地元」にできたのか。ポルシェの戦略に迫った。

(聞き手:フジ・メディア・ホールディングス・サステナビリティ推進室・木幡美子)

体験施設が地元との関わりを密に

ポルシェジャパン株式会社の代表取締役社長フィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ氏
ポルシェジャパン株式会社の代表取締役社長フィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ氏
この記事の画像(13枚)

――ポルシェジャパンが地元に根ざす上で起点にしたのが、全長2.1キロのハンドリングコースでポルシェの試乗などが体験できる「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」。2021年に木更津市にオープンしたその施設をどう活用されていますか。

まずは、この施設を受け入れてくださった木更津市、千葉県の皆さまに感謝申し上げます。

私どもは海外自動車ブランドとしては日本で唯一、このような施設を有しています。ここはどなたにでもポルシェを体験していただくことができます。

ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京があることにより、木更津市を訪れる人が増え、観光に貢献できたらと考えています。

施設内には「ポルシェ通り」の標識の展示も
施設内には「ポルシェ通り」の標識の展示も

また、この施設へと続く市道125号線には、1キロほどにわたって「ポルシェ通り」が設けられています。その通りを見に来る人も増えたらと願っています。

――このセンター内のレストランのメニューには地元・木更津の食材が使われているそうですね。

レストラン「906」のシェフが、木更津や近隣の食材を調達しています。

木更津市「有機米学校給食プロジェクト」に参画
木更津市「有機米学校給食プロジェクト」に参画

それとともにポルシェジャパンは、たとえば「有機米学校給食プロジェクト」(=有機栽培のお米を小学校・中学校へ提供する活動)に参加しています。

未来をつくる子どもたちに貢献し、木更津市の「オーガニックなまちづくり」に参画したいと考えたからです。

――ハンドリングコースはランニングイベントの会場にもなっていると伺いました。

周回コースや施設を「木更津ブルーベリーRUN」に使っていただいています。

ポルシェジャパンフィリップ社長(左)と木更津市渡辺市長(右)
ポルシェジャパンフィリップ社長(左)と木更津市渡辺市長(右)

去年秋に開催された際には、6歳から70歳まで約3000人もの人にご参加いただきました。

イベントでは、参加者はコースを走るだけでなく、無料で地元のブルーベリーを楽しむことができます。

――木更津市と災害協定も締結されているそうですね。

地震などの災害が発生した場合に、このセンターにある車両、人員、施設、そして技術的なサポートを提供することになっています。

私どもは、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京によって価値ある経験を提供するだけでなく、木更津市の緊急対策に不可欠な存在となることで、コミュニティーとの関係を育んでいくことを考えています。

「自然」を生かして「地元」とかかわれる場所

フジ・メディア・ホールディングス・サステナビリティ推進室・木幡美子
フジ・メディア・ホールディングス・サステナビリティ推進室・木幡美子

――43ヘクタールもの敷地を持つ施設が生まれた背景について教えていただけますか。

いま世界には9つのポルシェ・エクスペリエンスセンターがあります。7、8年ほど前に日本に建設することを考えました。

私たちは「手のつけられない土地」があり、かつ「素晴らしいエクスペリエンス(=経験)を提供するという夢を叶えられる場所」を探していました。

早い段階で木更津市の方々と関わりを持たせていただくことになり、2019年に同市と、そして千葉県と契約を結ぶことができました。

木更津市の起伏のある地形と自然を生かした「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」
木更津市の起伏のある地形と自然を生かした「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」

私たちがまず重視したのは「自然」です。可能な限り自然や景観をそのままにして、建設を行いました。

もともとあった木や勾配がそのまま残っています。春にはコースから桜を見ることもできます。

そして「地元とのかかわり」も重視しました。この施設には(試乗などを目的とした)訪問者が来られますが、それ以外にも、たとえばビジネスの会議をするために訪れる人もいます。

――開かれた施設なのですね。

ここは、お客さまだけでなく、すべての人に開かれています。

ポルシェはどのような形であれ「夢を叶えることをサポートするブランド」ですが、運転免許さえ持っていればポルシェを体験できますし、持っていなくてもシミュレーターで体験できます。

ポルシェ試乗の擬似体験ができるシミュレーター
ポルシェ試乗の擬似体験ができるシミュレーター

日本のみなさまになじみやすいよう、この施設を作る際には、ポルシェ・ブランドのガイドラインに従うとともに、日本文化の要素、たとえば江戸切子をモチーフにした外観デザインを採用したり、日本庭園を取り入れるといったことにも努めています。

ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京は国際的に注目されています。しかしそれが、ここへの注目ではなく、木更津市への注目に変わってきています。

――第3回「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」で、ポルシェジャパンが「地域・コミュニティ活性化賞」を受賞されたそうですね。

輸入車の会社としては初めての受賞でした。授賞式に参加した外国人も私だけです。

これは、木更津市との共同、また、若い世代へのサポートを続けてきた私どもの活動が評価された結果だと考えています。

ポルシェとのwin-winの関係

ポルシェとの信頼関係を結ぶ、木更津市・渡辺芳邦市長は、ポルシェジャパンに対する印象をこう話す。

木更津市・渡辺芳邦市長
木更津市・渡辺芳邦市長

「これまで、私たちの市には海外企業があまりなかったので、ご紹介頂いた時は驚きました。

ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京は、世界に9つしかない体験施設の1つということで、地元のブランド力にも貢献していただいています。

その一つとして、体験施設でのポルシェ試乗は、現在、木更津市のふるさと納税の主力返礼品になり、納税額が倍になっております」

千葉・木更津市のふるさと納税実績
千葉・木更津市のふるさと納税実績

この体験施設は、木更津の自然や地形を生かして作られている。

このことについても市長は「環境に負荷のないように整備をしていただいて、木更津ならではの地形を生かして体験コースを作ってくださいました。

その他にもいろいろなことで協力していただいて、ランニングイベント『木更津ブルーベリーRUN』はあの地形に苦しめられながらも、みなさん楽しんでいました」と述べる。

「木更津市民にはポルシェさんの存在は定着していますが、全国的に見るとまだです。いろいろな方に来ていただいて、ポルシェさんと地域づくりをしていきたい。

そしてポルシェさんとの関係は希望ですので、いろいろなイベントをこれからも作り上げていき、良い関係をこれからも続けていきたいです」

ポルシェは「夢を叶える」ためにある

――ポルシェジャパンはなぜ「地元」を大切にしているのですか。

私たちはビジネスの成功を目指すだけでなく、成功した場合にそれらをコミュニティーに還元したいと考えています。それは戦略ではなく、ポルシェのDNAと言えます。

また、ポルシェの創業者フェリー・ポルシェは、自分のニーズを満たす車を見つけることができず、自分自身で車を作ってしまった人で、それがポルシェ設立のきっかけになりました。

つまり、ポルシェは「夢を叶えるため」に作られ、実際に私たちの企業ビジョンのひとつに『夢を追い続ける人のためのブランド(The brand for those who follow their dreams.)』を掲げ続けています。

私たちはビジネスの成功とともにCSR(=企業の社会的責任)を果たすことも重視していますが、それに加えて、人が夢を育み、夢を叶えていく、それをサポートする義務が私たちにあるとも考えています。

――夢を叶える!素敵ですね。

去年こんなことがありました。私がポルシェ『911』で自宅に帰る機会があったのですが、マンションの駐車場にご家族がいらっしゃいました。

その中にいた9歳の男の子と目が合ったのです。すかさず「乗ってみるかい?」と聞くと、彼は驚いていました。

ですが、私の勧めで、彼は、実際にポルシェの運転席に座り、エンジンをかけ、アクセルに足を触れたのです。

数週間後、彼の父と話す機会がありました。その子は「あれが今までで一番の経験だった」と語っていたそうです。これも、夢を叶えることの一例です。

――最後に、これからの展望について教えていただけますか。

いま自動車業界は変革の時を迎えています。電動化についてももちろん、ポルシェもかかわっています。

環境に対する責任も感じているだけでなく、ポルシェの電動自動車は真のポルシェであり、そのスピリットと独自性を損なうことはないと思っています。

さらに、木更津市との関係、これはフレンドシップ=友情ですが、それらをより育み、ポルシェジャパンチームとして地元に貢献していきます。

【動画を見る】