パリオリンピック・パラリンピックの公式ポスターが3月に公開されたが、フランス国内ではデザインをめぐり、批判が集まっている。“デザイン批判”といえば、東京五輪のエンブレム問題を思い出すが、今回はそれとは少し違う。「アイデンティティとフランスの歴史を否定している」というフランス愛に基づくものだ。
制作に2000時間以上! 細かく描かれた “ニコイチ”デザイン
1912年のストックホルム五輪以来、開催国の組織委員会が大会を象徴するポスターを作るのが伝統となっている。
ポスターは、「大会の特色を世界に伝えるため」という大きな役割を担い、アーティストやデザイナーが腕によりをかけて描く。東京五輪でも、もちろん、そのように制作された。
パリ五輪では、オリンピックとパラリンピックの公式ポスターをつなぎ合わせると、大きな1枚の絵となる個性的なデザインだ。
エッフェル塔や凱旋門など主要な名所のほか、メダルや聖火など、オリンピック・パラリンピックの象徴が描かれ、47競技があちこちに散りばめられている。
また、細かく描かれている選手や観客については、パリ五輪で選手の男女比が同じになったことを表現するため、男女を同じ数だけ描かれているそうだ。
これは、大会のスローガンである「広く開かれた競技大会」を表現していて、イラストレーターのウーゴ・ガットーニ氏は、制作に2000時間以上も費やしたそうだ。
あるはずの十字架がない… 政治家からは「歴史を否定」と批判
細部までこだわり、独創的なデザインで見る人を魅了する一方、このポスターには批判も集まっている。
左上に描かれているドームの頂上に「本来あるべきはずの十字架がない」ためだ。
この建物は、アンバリッド廃兵院で、アーチェリーなどの会場として使われる。
ドーム部分はナポレオンの棺が納められている教会なのだが、ポスターのイラストでは、シンボルである十字架が描かれていないのだ。
これについて、右派の政治家を中心に不満が噴出している。
保守系野党・共和党の男性議員はX(旧ツイッター)で、
「ドームはスーパーマーケットのものではなく、礼拝堂のものだ。公式ポスターは十字架を消すことで、建物のアイデンティティとフランスの歴史を否定している。スキャンダラスだ!」とコメント。
さらに、極右政党・ルコンケットの女性政治家はポスターにフランス国旗が描かれていないことに触れ、「我々の正体を隠してまで、フランスでオリンピックを開催することに意味はあるのか」と批判した。
これに対し、ポスターを手がけたガットーニ氏はフランスメディアの取材に、「頭に浮かんだ姿の建物を描いたまでで、隠れた意図はない」とコメント。
また、組織委員会のデザインディレクターのヨアヒム・ロンシン氏は、「芸術作品であり、エッフェル塔はそもそもピンクではないし、パリはタヒチに面しているわけではない」と反論し、フランスを描いていることは明確だと主張した。
このように、政治的に批判の的となったポスターだが、街中でフランス人に話を聞くと、そんなことはどこ吹く風。好感を持つ声が聞かれた。
―パリ観光中のフランス人
「気に入ったわ。カラフルで、オリンピックもパラリンピックのシンボルが入ってるしね」
「なんだか近未来的よね」
「率直に言って、良いわよね」
遊び心満載! 「フリージュをさがせ!」
ポスターには、遊び心も加えられている。大会マスコットのフリージュが8つ、隠されているのだ。フリージュは、フランス革命の時に、市民が被っていたフリジア帽をモチーフにした赤いマスコットだ。
(参考記事:【パリ五輪】大会マスコット「フリージュ」巡り「ハトにしか見えない」SNSで厳しい反応 パリ市民に知名度は浸透した?)
街ゆく人にフリージュ探しに挑戦してもらったが、これが意外に難しい。
ポスターの中心に1つあるのはすぐに気付くが、この他は、目をこらして探しても3つが良いところ、といった具合だ。
描かれているフリージュは必ずしも赤色ではなく、私の場合、画像を拡大して探しても、全て見つけるまでに1時間以上を要した。
「こんなのあり!?」と思ってしまうフリージュも中にはあったが、全て見つけられた時の達成感は最高だ。
フリージュを探す過程で、競技やフランスの名所など新たな発見もすることができ、とてもワクワクするポスターだ。
一部政治家からは、批判の種として扱われたものの、パリ五輪を盛り上げるのに大きく貢献しているのは間違いない。