東日本大震災の津波で被災し、一時、廃棄処分となったイタリアの名車「ランチア・デルタ」が、震災から13年が経った今年、修復された。3月には、当時所有していた宮城県石巻市の男性とも再会、今後は震災を伝える”証人”として全国各地を回る。
伝説の車「デルタ」津波で被災
3月、宮城県名取市にあるカーショップに運ばれてきた1台の車。到着したのは、イタリアの自動車メーカー「ランチア」が開発した名車「デルタ」だ。
津波で被災したデルタを修復したのは、イタリア車を中心に販売修理を行う東京のカーショップ。社長の寺島誠一さんは、「（被災したデルタの）元のオーナーに見ていただくということが感無量」と喜んだ。
始まったデルタ再生プロジェクト
「ランチア・デルタ」は、世界的に有名なレース「WRC（世界ラリー選手権）」の参加を目的に開発された車で、1987年からは6連覇を達成した伝説の車。
東日本大震災の発生から数カ月経ったころ、名取市の知人のカーショップの社長から、被災したデルタの廃棄処分と引き取りをお願いされたことを聞いた寺島さんは、自分の会社で引き取らせてほしいと申し入れる。
実は寺島さん、若いころ「WRC（世界ラリー選手権）」にデルタで参戦した経験を持つほどデルタには強い思い入れがあった。しかし、東京に持ち帰り、修復にはデルタ3台分の金額が掛かることなどが判明。デルタをよみがえらせるのは無理だろうと断念した。
それから数年、会社の倉庫の片隅に置きっぱなしとなっていたデルタを眺め、震災を伝える車として保存できないか考えるようになった。
「ゼロベースになっても、頑張ってもう1度復活できたよというところを（車を見てもらって）伝えたい」という思いから、震災から7年後の2018年3月、修復を決意。デルタ再生のプロジェクトがスタートした。
ひどいさび 5年経ってようやく
そうして始まった修復だが、水没したデルタはさびがひどい上、車体の生産がおよそ30年前に終了していたため、必要な部品探しも簡単ではなかった。何万点もある部品から一つでも作動しないと、ちゃんと走ることはできない。
プロジェクトが動き出してから5年経った去年12月、ようやくエンジンを組み上げられるまで作業が進み、寺島さんは修復に協力してくれた仲間と「点火式」を行った。
元々、このデルタは宮城県石巻市に住む門間正明さんが所有していたが、ＪＲ石巻駅の近くにあった倉庫で、震災の津波の被害に遭った。1メートル以上の津波が襲い、「どうしようもない」と修復を諦めて手放したという門間さんだが、車が再生したことを知り驚いたという。
13年ぶりに...デルタとの夢のような時間
「もう二度とない」と、諦めていた愛車との再会。3月、門間さんにも現在のデルタを見てほしいと、寺島さんが再会の機会を作った。
門間さんが乗っていたデルタは、1995年に限定250台で日本国内だけで販売された「コレツィオーネ」と呼ばれる特別な車種。状態の良いものなら、1500万円以上で取り引きされる希少な1台だ。
13年ぶりに愛車との対面となった、門間さん。あの時と全く変わらない状態の愛車が目の前にあることに驚くと同時に、「よくここまでやられましたね」と感激している様子だった。
修復されたデルタは3月、車検に合格。ターボを搭載した独特のエンジン音に、4WDならではの特徴的なコーナリング。13年ぶりにステアリングを握った門間さんは懐かしみながら、夢のようなデルタとの束の間のひとときを楽しんだ。
「夢のような話ですよ。こんな経験をさせてもらえるなんて」と、デルタを走らせる門間さんの顔から笑みがこぼれた。
世界中の人に デルタで伝える震災
震災から13年を経て果たした再会。寺島さんはこれから、修復したデルタで全国の展示会などを巡り、震災を伝えていきたいと考えている。
最終的には、このデルタをイタリアの自動車博物館に寄贈し、100年、200年と世界中の人に東日本大震災を語る車として後世に残す大きな計画も立てているという。
「今年も元日から能登半島地震が発生して、どこでも起こり得ることなので（デルタを見て）自分たちのこととして捉えてくれるといいかな」
（寺島誠一さん）
よみがえったイタリアの名車「ランチア・デルタ」。東日本大震災を伝えていく車として再び走り出した。
（仙台放送）
