中国一の大富豪が販売する「農夫山泉」のミネラルウォーターに不買運動が起きている。

発端となったのは、日本を連想させるボトルのデザインだが、ここまでの騒ぎに発展する背景にはどういった国民の不満があるのか。

東京財団政策研究所の柯 隆さんに話を聞いた。

ボトルが「日の丸」を彷彿

ーーなぜ不買運動が起きた?

「農夫山泉」は中国最大手のドリンクメーカーです。

創業者でCEOの鍾氏は、中国ナンバー1の富豪に選ばれたこともあり、それに対するジェラシーも背景にあると思います。

東京財団政策研究所・柯 隆さん
東京財団政策研究所・柯 隆さん
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また今、中国経済は非常に減速していて、若者の失業率が上がっているため人々の不満は高まっています。

そんな中、農夫山泉のミネラルウォーターのボトルのキャップが赤く、真上から見た時「日の丸」を彷彿させるという理由から、愛国主義の若者が「親日だ」と言いがかりをつけました。

スーパーに並ぶ農夫三泉のミネラルウォーター
スーパーに並ぶ農夫三泉のミネラルウォーター

「反日」は中国では無難な話題なので、いろいろな人の不満が農夫山泉に集まり、全く関係のないドリンクメーカーが攻撃を受ける形となりました。

政府も民営企業の創業者に対する攻撃を見て見ぬふりをしています。

今は農夫山泉が標的になっていますが、ほかの多くの民営企業の経営者は次は自分ではないかと戦々恐々としていると思います。

赤いキャップが日の丸に見えるとの理由で不買運動に
赤いキャップが日の丸に見えるとの理由で不買運動に

ーー「親日に見える」は単なる言いがかり?

日本の国旗によく似ているというのは、あくまでも言いがかりであって、本当の原因は国民の不満です。

失業率が上がる一方、給料は下がり、不動産バブルも崩壊して、不動産に投資した人は大損しています。

中国政府を批判すると逮捕されますが、民間の企業を攻撃しても捕まらないので、不満をぶつけるには1つ便利な方法だったと思います。

溜まった不満が一気に爆発

「農夫山泉」のミネラルウォーターは、飲食店で見ない日はないほど中国国内に浸透しているという。

創業者の鍾氏(70)は、資産総額が約9兆4500億円に上り、「中国一の富豪」として知られている。

農夫山泉の創業者・鍾氏(70)
農夫山泉の創業者・鍾氏(70)

ーーなぜこのタイミング?

農夫山泉は昔から赤いペットボトルを使っていて、デザインを一度も変えたことがありません。

たまたま今の社会の不満のはけ口になってしまい、一気にガスが吹き出したような感じです。

ミネラルウォーターを捨てる中国国民(中国SNSより)
ミネラルウォーターを捨てる中国国民(中国SNSより)

ーー中国経済に影響を及ぼすことは?

今は一大事になっていますが、中国の実体経済にどれだけのダメージを与えるかについては、まだ判断するのは早すぎると思います。

なぜかというとこれは瞬間的な話です。
私が不思議に思うのは、なぜ農夫山泉のCEOの人権が守られないのかという点です。

道端に捨てられたボトル(中国SNSより)
道端に捨てられたボトル(中国SNSより)

全く事実無根の話で、例え日本の国旗に似ていても何の罪もありません。

暴力的に手あたり次第、無関係の経営者を個人攻撃することに政府が介入せず放置すれば、中国社会が歪んでしまう可能性があり、今の対応に疑問を感じます。