2024年3月11日、東日本大震災の発災から13年となった。

震災の翌年・2012年から3年間、被災地・岩手県のプロバスケットボールチームで指揮をとったのが、琉球ゴールデンキングスの桶谷大ヘッドコーチだ。

「いま自分たちはバスケットを続けるべきなのか」
葛藤の日々と被災地で感じたスポーツの力について桶谷ヘッドコーチが語った。

バスケを続けていいのか?名将が悩んだ時期

魂のこもったプレーで、見る人を熱狂させるキングス。

リーグ制覇を成し遂げ歴史にその名を刻んだ名将にも、“バスケットボールを続けていていいのか”悩んだ時期があった。

桶谷大ヘッドコーチ:
(キングスの遠征で)中部国際空港に着いたときに、東日本大震災があった事に気づきました。ホテルに行ってテレビを見ると、大変な事が起きたとそのとき感じていました

この記事の画像(11枚)

桶谷ヘッドコーチは、当時bjリーグのキングスを指揮。
優勝へと突き進む道の途中であった。

Q.シーズンまっただなかで未曽有の大震災が起きて、当時はどんな心境でしたか?

桶谷大ヘッドコーチ:
そういう状況でバスケットボール、スポーツは意味があるのか。自分たちは何のためにやっているのかということは考えました

仙台からの新加入選手を迎え入れて思ったこと・・・

その後キングスには、被害の大きさから活動休止に追い込まれた宮城県のチームから、地元・仙台市出身の志村雄彦選手がリーグの選手救済制度によりレンタル移籍で加入。

桶谷大ヘッドコーチ:
(志村選手から)話を聞きにくかった。怖かったです。しかし、彼が一言、「何かしようと思わないでいいです。でも忘れないでください」と言いました。こういうことがあった事を忘れてほしくないと、彼はずっと言っていました。中途半端にしたらいけないと思わされました。今やっていることは、当たり前ではないということですね

当たり前ではない日々を積み重ね、2011-12シーズンはbjリーグで2度目の優勝。

岩手で指揮をとる決意 突き動かしたものは

その次のシーズン。
桶谷ヘッドコーチのもとに届いたのは、被災地・岩手県のクラブ、岩手ビッグブルズからのオファーであった。

桶谷大ヘッドコーチ:
サラリー(給料)は、オファーをもらっている他のチームと比べたら低かったです。当たり前ですよね。そういう状況にあったのですから。自分が何のためにバスケットのコーチになったのか。もう一回振り返った時、地域の居酒屋で飲んでいる人たちが、「きょうはなんで負けたんだ」とその地域のチームの話をしている光景が、僕の夢でした。沖縄の次どこに行こうと思った時に、岩手の沿岸の惨劇を見て、そこでバスケットの力で何かできるのではないかと思いました

Q.桶谷ヘッドコーチが岩手に行かれた当時の街は、どんな状況でしたか?

桶谷大ヘッドコーチ:
住んでいたのは盛岡市でしたが、宮古市、陸前高田市に行ってみたら焼野原のように何も無い状況でした。こんなにまだひどい状況なのかと現地に行って思いました

地域愛がある一つの象徴として僕たちのチームがある

目の前に広がる景色を見て、改めて自分にできる事を自身に問うた。

桶谷大ヘッドコーチ:
自分の能力の中で何をすれば人の役に立つのか考えた時に、僕たちができることは、「スポーツの力はすごいんだ」と伝えること。スポーツは人にポジティブな影響を与えられる力があると思ってこの仕事を続けています

その信念のもと、2015年にはbjリーグ史上初の19連勝を達成するなど、夢を与える強いクラブを作り上げた。

桶谷大ヘッドコーチ:
岩手も仙台もキングスと同じ空気で、みなさん地域愛があると感じています。その一つの象徴として、僕たちのチームがあります。エナジーテイカーになるのではなく、エナジーギバーにならないといけないと感じさせてもらいました

「岩手のために頑張りたい」手紙に綴られた思い  

Q.バスケを続けていていいのかと考えたこともあった中で、実際に被災地でもある岩手のチームに居て、心境に変化はありましたか?

桶谷大ヘッドコーチ:
ありましたね。バスケットボールクリニックに参加しました。釜石東中学校かな。プレハブで、バスケットをしたことがない子どもたちに触れ合いみたいな感じでバスケを教えました。何年後かに「岩手にはビッグブルズがいて、ブルズは岩手のために頑張ってくれている。僕はバスケットはできないけど、岩手のために頑張りたいから消防士になります」と手紙が来ました。地域を想うこどもが出てきたのを聞いて、少しは役に立ったのかなと思いました

被災地のクラブを渡り歩き、スポーツの力を誰よりも信じているからこそ、桶谷さんは人の心を動かす。

キングスのサポーターの家族:
(キングスは)私たちの活力で、とても元気になります

Q.どんな時にキングスの試合を見ますか?

ブースターの女性:
落ち込んだ時やもうちょっと頑張ろうと思う時

ブースター女性:
生きる糧です。人生に彩りを添えてくれたのがキングスだと思っているので

桶谷大ヘッドコーチ:
「何かのために」「誰かのために」というところは間違ってはいけない。自分が死ぬ瞬間に、何かを誰かのために残せたら。そういう想いを持ってやり続けたいです

桶谷さんは力強くこう述べてインタビュー取材を締めくくった。

聞き手:沖縄テレビアナウンサー 植草凜                                    (沖縄テレビ)

沖縄テレビ
沖縄テレビ

沖縄の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。