様々な人が悩み相談に訪れる“話せる古本屋”として親しまれてきた、富山・高岡市伏木にある「なるや」。能登半島地震で被災した店舗は取り壊しが決まったが、それでも、人とつながりたい店主は、再開を目指し動き出した。

「人の役に立ちたい」と店をオープン

高岡市伏木にある「古本なるや」の店主・堀田晶さん。6年間の思い出とともに、荷物の整理を進めていた。能登半島地震で被災し、堀田さんの生活は一変した。

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古本なるや店主・堀田晶さん:
ようやく人が集まって楽しくやっていこうってタイミング。神様っておらんのかな、みたいな…

滑川市出身の堀田さんは「孤立をなくし、人とつながれる場所を作りたい」と6年前の春、高岡市の伏木駅の近くに念願だった古本屋をオープンした。人の役に立ちたいと始めた古本屋。堀田さんは、なるやを訪れる多くの人たちの話に耳を傾けてきた。

生きづらさを抱える様々な人の相談を受けてきた堀田さん
生きづらさを抱える様々な人の相談を受けてきた堀田さん

生活困窮者や不登校、DV被害者…。生きづらさを抱える様々な人の相談を受けたり、月に一度、自殺について考える会を開いたりと、なるやは人が集う“話せる古本屋”として親しまれてきた。

元日の地震 家と仕事を同時に失う

年が明けた元日、生活困窮者との出張面談を終え店に戻った堀田さんを、激しい揺れが襲った。

古本なるや店主・堀田晶さん:
2発目が来たと思ったら、アスファルトが目の前で波打って。おっと思った瞬間に、足元から急にひび割れがパキパキパキと。参った

地震により、伏木地区は深刻な液状化の被害に見舞われた。なるやも建物全体が傾き、床や壁がひび割れた。

地震から1カ月がたった2月、堀田さんは、なるやで荷物をまとめていた。引っ越しをするのだという。「なかなか寂しい」と胸中を明かした。

築50年以上になる建物の取り壊しが決まり、2階に住んでいた堀田さんは、家と仕事を同時に失った。7000冊ほどあった本のほとんどを同業者に買い取ってもらい、堀田さんは新たな場所で「なるや」を再開することを決めた。

この場所から離れたくない気持ちからだろうか。「ゆっくり片付けてるけど、あまり進んでないような気がしないでもない」と話す堀田さん。

古本なるや店主・堀田晶さん:
現実を受け入れたくなくて、違うところに意識を向けて逃避しているような感じ

失意の中、堀田さんを支えてくれたのは、これまで相談を受けてきた人たちだった。震災後、多くの人がなるやを訪れ、「こういう僕で良かったら手貸しますよ」、「なんかやることあったら教えてください」と店の片付けを手伝ってくれたと言う。

古本なるや店主・堀田晶さん:
僕が泣きそうになる。うれしいですよね。今まで動けてなかった人たちが、よっしゃ、今度は俺たちの番だって。グッてきます

新しい店舗の候補地として、知り合いからいくつもの物件を紹介されたが、堀田さんは多くの人とつながれた“伏木”でなるやを再開することを決めた。幸い、移転先の建物に大きな被害はなかったという。

堀田さんは「液状化の被害が出た土地ではあったが、建物そのものは頑張って耐えた。『奇跡の一本松』ではないけど、何かできるやろ」と話した。

これまでできなかったことにも挑戦

今も液状化の被害が残る伏木では、この地を離れる人も少なくない。

酒店の倉庫として使われていた空き家
酒店の倉庫として使われていた空き家

堀田さんが移転先に決めたのは、酒店の倉庫として使われていた2階建ての空き家。店を訪れる人が利用しやすいよう、伏木駅からは徒歩10分の場所だ。これまで同様、店の2階でミミ(飼い猫)と新居を構えることになった。

飼い猫の「ミミ」ちゃん
飼い猫の「ミミ」ちゃん

以前の店舗よりも広いスペースをどのように使うのかこれから考え、これまでできなかったことにも挑戦していくことにしている。

古本なるや店主・堀田晶さん:
生活困窮者に向けた家具や家電を引き取って届けに行ったりとか。そういうこともできるかなと。また金にならんことばっか考えとる。あかんね、稼がないといけないのに

変わらないのは『人と人をつなぐ場所』ということ。それが堀田さんにとって大きな支えになっている。

古本なるや店主・堀田晶さん:
何よりも、「大丈夫?」「どうしてる?」って声かけてもらうって、こんなに心強いことなんだなって、身をもって。だからこそ、今後自分もいろんなところで「最近調子どう?」ってつながっていけたらいいなと思ってる

早速、近所の人が店を訪れた。

堀田さん「お世話になります」
近所の人「開店するの、とても楽しみにしてます。うちすぐそこなんで、ちょくちょく寄りますね」
堀田さん「よろしくお願いします」

オープン予定は、6年前になるやを始めた同じ日の4月27日。新しい「なるや」でまた、新たな『つながり』が生まれていく。

堀田さんは生活のために続けてきた早朝のスーパーでの仕事を辞め、高岡市内のリサイクル会社で午前中だけパートとして働きながら、店の再開を目指している。

『話せる古本屋』は被災地で再び歩みを始める。

(富山テレビ)

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