世界中から高く評価され、売れる陶器を生み出してきた福岡の陶芸家のもとをベトナムからの研修生が訪れた。現地の環境保護と生活向上のため「途上国の陶器に価値を」と、日本の技術を伝えている。
伝統を守るだけでなく…新たな挑戦も
「これは今、ちょうど京都の銀閣寺で使っていただいている茶わんです」と語るのは、鬼丸碧山さん。福岡・東峰村小石原地区にある鬼丸雪山窯元の陶芸家だ。
世界遺産、銀閣寺で使われている茶わんなど400年以上前から主に茶器を作ってきた高取焼の窯元のひとつなのだが、伝統を守るだけではない。
鬼丸雪山窯元 鬼丸碧山さん：
これが“香るカップ”です。使っている粘土が香りをすごく立てる効果があるということと、薄く伸びる効果がありまして、口元を薄くできる
鬼丸雪山窯の鬼丸碧山さんは、飲み物の香りや口当たりがよくなる「香るカップ」や、中高音の響きがいい陶器のスピーカーなど、現代の生活用途に合わせた新しい製品づくりにも挑戦。世界中から高く評価され、売れる陶器を生み出してきた。
ベトナムの村の文化や生活を支えたい
2024年2月20日、陶芸が盛んなベトナムの北部・フーラン村の陶芸従事者たちが、鬼丸さんの窯元を訪れた。
高取焼の洗練された陶器の作り方を学ぶために約10日間、東峰村の他の4軒の窯元も参加しての研修に訪れたのだ。
ブイ・ヴァン・ファンさん（34）：
日本の作り方、釉薬（ゆうやく）のかけ方なども勉強して、ベトナムに帰ってからベトナムの焼き物を発展させたい
鬼丸さんは2年前から、他の日本の陶芸家たちとフーラン村に通い、日本の技術を伝えるほか、現地のものよりも高性能な窯を建設するなどしている。
フーラン村は、昔から「陶芸の村」として知られているが、近年、水がめなどの大型陶器の大量生産ばかりが優先された結果、商品が余って価格が低下。フーラン村の陶芸従事者は、他と比べて収入が低い状況となってしまっている。
また、大量生産によって資源の枯渇や環境破壊も懸念されている。
その一方で、ベトナムの市場では高品質のサービスが求められる動きも出てきていて、鬼丸さんの窯元などが関わって「小さくて高品質の陶器」を作る技術を伝え、フーラン村の文化や生活を支えたいと活動しているのだ。
鬼丸雪山窯元 鬼丸碧山さん：
今は大型陶器で、しかも安いんですね。一生懸命稼ぎたいので、たくさん作る。そうすると資源がどんどんなくなっていくという状況なので、小さい器で高付加価値のモノができれば、現地の人たちの環境を守ることにもつながるし、生活がもっと向上していくということにもつながるので
小さくても洗練された器を作れば、資源を無駄遣いせずに世界で高く売れるはず。鬼丸さんは、迎え入れたベトナムの研修生たちに自らの作品を見せた。
鬼丸雪山窯元 鬼丸碧山さん：
僕が作ったものだけど、きれいでしょ。ベトナムでもこういうのをやりたいんです。器の高級感というのを人が感じるのは、粘土の細かさなんですよ。だからこれは、フーランのよりだいぶ細かいでしょ。それで高級に見えるでしょ
高級な器がどんなものか理解すれば、フーラン村でもそうした製品を作っていくことは十分可能だと伝える。
鬼丸雪山窯元 鬼丸碧山さん：
ベトナムのフーラン村の粘土は結構、比較的ここの粘土に似てるので、同じようなものもできると思ってます。研究さえすれば、世界でベトナムでしかできない作品ができると思います
「地域の繁栄に役立ててくれたら…」
もちろん、フーラン村の陶芸にはない技術も教える。
鬼丸雪山窯元 鬼丸碧山さん：
手でやると線が曲がるので、腕で引くような感じで。いい？ 見てね
鬼丸さんが実際に手ほどきしたのは、すり鉢の溝のつけ方だ。
鬼丸雪山窯元 鬼丸碧山さん：
今回は滞在時間が短いので、この技術だけ覚えてください
実際に研修生にもやってもらう。「もっとすーっと。そうそうそうOK、OK、OK」と指導する鬼丸さん。研修生の表情も真剣そのものだ。
ブイ・ヴァン・ファンさん：
技術を学んで、高級な焼き物がどんなものかも教えてもらったから、これから自信を持って収入とか上げていくことができると思う
鬼丸雪山窯元 鬼丸碧山さん：
焼き物の技術とか見てもらったんですけど、すごく感動してくれてるので。田舎の方の集落もいつまでも繁栄できるような地域づくりだったり、そういうのに役立ててくれたらうれしいなと思いますね
鬼丸さんは、「ほぼボランティアに近いが、今まで職人と言われる立場の者がこういったプロジェクトを企画、発信したことはない。そのパイオニアになりたい」と力強く話していた。
型にとらわれない鬼丸さんたちの思いが、いつか形になる日がくることを願う。
（テレビ西日本）
