命を奪ったのは「被害者の願いをかなえるため」。裁判で語られた主張に対し、当事者たちは怒りをあらわにした。

【動画】「怒りと悔しさで震えが止まらない」「この事件はただの殺人」ALS当事者が会見

■ALS当事者団体が怒りの会見「この事件はただの殺人」

全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「ALS」の患者を本人の依頼で殺害した罪などに問われた医師の男に、懲役18年の判決が言い渡された。判決を受け、ALSの当事者団体が会見を行った。語ったのは理不尽な犯行に対する憤りだ。

ALS患者 増田英明さん:
本日の判決を聞いて、怒りと悔しさで震えが止まりません。この事件はただの殺人です。林優里さんの『死にたい』という一面的な言葉や状況だけを切り取る事自体が差別です。

■「林さんの願いかなえるため」という医師の男に“懲役18年”

大久保愉一被告
大久保愉一被告
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5日午後3時半ごろ、紺色のスーツ姿で法廷に現れた医師の大久保愉一被告(45)。2019年に元医師の山本直樹被告(46)と共謀し、難病・ALS患者の林優里さん(当時51歳)の依頼を受け、薬物を投与して殺害した「嘱託殺人」のなどの罪に問われていた。

そして「主文、被告人を懲役18年に処する」。この判決が指摘したのは命を軽視する大久保被告の考えだった。

林優里さん
林優里さん

大久保被告 2024年1月11日:
林さんの願いをかなえるために行ったことです。

全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を患っていた林さん。SNSに安楽死を望む文面を投稿していて、大久保被告が反応し、報酬として130万円を受け取っていた。

大久保被告 2024年1月23日:
(殺害当時の状況について)(林さんが)文字盤を使って『死なせて』と。
(Q.どんな様子でしたか?)目に涙を浮かべてうれしそうに…。自分がやるべきことはやったのかなと思いました。

裁判の中で大久保被告は殺害の事実自体は認めたものの、弁護側は「嘱託殺人罪の適用は、林さんに『望まない生』を強いることになり憲法に反する」などとして、無罪を主張した。

これに対し5日の判決では、「わずか15分程度の面会で軽々しく殺害している。被害者のためを思って犯行に及んだものとは考え難く、利益を求めた犯行であった」と指摘してその主張を一蹴した。また京都地裁は、大久保被告が否認していた、山本被告の父親に対する殺人罪を認定し、「計画性が高く、医師としての知識がないと思いつかない犯行で汲むべき事情はない」などと非難した。

その上で、「本件は、家族間の事情等でやむを得なく嘱託殺人を犯してしまった事案とは一線を画している。生命軽視の姿勢は顕著」として懲役18年を言い渡した。

■ALS当事者「生きようと思わなくても“自然に生きられる社会”を」

この判決を受けて、これまで裁判を見つめ続けてきたALSの当事者の人たちは…

ALS患者 増田英明さん:
林優里さんにはやっぱり生きてほしかったと強く思います。今回の裁判で明らかにされたことは、私たちALS患者は生きていなくていいと、この社会に必要ない存在だと思う社会、思わせる社会があるということです。誰もが当たり前に生きたいと言わなくても、生きようと思わなくても、自然に生きられる社会をどうつくるのかに目を向けて考えてほしいです。

弁護人によると大久保被告は控訴する方針だ。

(関西テレビ「newsランナー」2024年3月5日放送)

関西テレビ
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