「静かな退職」という言葉をご存じだろうか?

「静かな退職」とは、仕事に全力投球するのを止め、必要最低限の業務をこなす働き方のことで、退職・転職するつもりはないが、積極的に仕事に意義を見出さない状態。

アメリカのキャリアコーチであるブライアン・クリーリーが2022年に「静かな退職(Quiet Quitting)」を説明する動画を公開したことをきっかけに、この言葉が広まったとされ、現在では若手中心の働き方トレンドとして日本でも認知されつつある。

「静かな退職」実践者の約3割が若手

この「静かな退職」に関して、「Great Place To Work(R) Institute Japan(以下GPTW Japan)」が今年1月、企業に勤める20~59歳の男女6998人を対象に調査を行ったところ、「静かな退職」を実施している人のうち約3割は若手(34歳以下)だったことが分かった。

静かな退職を実施している人の約半数は「プライベートの時間が確保できる」ことをメリットと感じていることも明らかになった。

「静かな退職」実践者のうち約3割が若手(提供:GPTW Japan)
「静かな退職」実践者のうち約3割が若手(提供:GPTW Japan)
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「静かな退職」を実施している人に「いつからこのような働き方をしていますか」と聞いたところ、働き始めてから静かな退職を実施するようになった人は71.0%。

「静かな退職」を選択したきっかけは、「仕事よりプライベートを優先したいと思うようになったから」(38.2%)が最も多く、次いで「努力しても報われない(正当に評価されない・給与に反映されない)から」(27.3%)が多かった。

「静かな退職」実践者のうち約3割は若手ということだが、企業はどのような対応をすればよいのか? また、「静かな退職」を選ぶ若手をこれ以上、増やさないためには、どんな対策が必要なのか?

「GPTW Japan」の代表・荒川陽子さんに聞いた。

「静かな退職」実践者の割合は2.4%

――「静かな退職」に注目し、調査を行った理由は?

多様な働き方の模索が続く現在、子育てや介護などの事情で一時的に仕事をセーブするということはありますが、プライベートの事情に関係なく、かつ一時的にではなく恒久的に、必要最低限の業務しか行わないと決めており、積極的に仕事に意義を見出さない状態を選択している若手がいます。

そんな働き方を「静かな退職」と定義し、アメリカのZ世代を中心に広がりつつあるという情報に接し、日本でも今後、そうした働き方が増加していくのではないかという危機感を覚えました。

そこで、「静かな退職」の実態を明らかにして、対策の検討に繋げたいと考え、調査を実施しました。


――今回の調査で分かった「静かな退職」実践者の割合は?

今回、GPTW Japanで行った調査では、現在勤めている企業で長く働きたいが、仕事に対して必要以上の努力を行わない回答者を「静かな退職」実践者と定義したところ、「静かな退職」実践者の割合は2.4%でした。

(画像はイメージ)
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――「静かな退職」を選ぶ人が出てきた理由は?

GPTW Japanが行った調査から「会社に入ってから静かな退職になっていった」という人が7割以上、存在することが分かりました。

つまり、過半数の人は「最初から静かな退職を望んでいるわけではない」ということを示しています。

プライベート重視の志向もありますが、「努力しても報われない(正当に評価されない・給与に反映されない)」ということをきっかけに静かな退職を始めた人も少なくありません。

頑張って働いてもインセンティブがないので、プライベートの時間を充実させようという方向に傾く若手が一定数存在するのだと思います。


――「静かな退職」実践者の約3割は若手という結果、どのように受け止めた?

自ら、「静かな退職」という働き方を選択する若手がいることは、企業にとって無視できないことだと思います。

まだ爆発的に増えているわけではありませんが、自身の能力開発が十分ではなく、成長の余地が大きい若手にこのような働き方が増えていくことは看過できません。

本人にとっては自らの可能性にフタをしていることであり、会社にとっては新しいチャレンジを任せられる人材が減っていくことを意味しています。


――「静かな退職」を選ぶのは若手が多いということではない?

「静かな退職」実践者はすべての年代に存在します。若手も例外ではありません。

「企業が手を打たなければ増える可能性は高い」

――「静かな退職」を選んだ社員に対して、企業はどのような対応をすればよい?

GPTW Japanの調査では、「勤め先で変化があっても変わらない」と回答した人は40.9%でした。

このことから、「静かな退職」を選択した後に企業側がその選択を覆そうと働きかけても、効果は小さく手遅れ状態であることが分かりました。従業員の貢献意欲を維持するには、「静かな退職」を選択する前の段階から企業は改善に取り組む必要があります。

では、「静かな退職」を選択してしまった社員に対しては、どうするか。

「静かな退職」が増えると、企業は成長曲線を描けないため、「静かな退職」を選んでしまった人を許容し続けるのであれば、まだ絶対数が少ないうちに、「静かな退職」を選んでいる人たちとそうでない人たちを分けて、仕事のアサイン(仕事の割り当て)をすることが有効だと考えます。

同じ職場に混在することで、「静かな退職」を選んでいる人たちが周囲に悪影響を及ぼすことを避けることが狙いです。なお、「静かな退職」を選んだ人たちに対しては、そういう働き方でも成果を上げられる定型業務、仕組化された業務を設計することは考えられます。

ただし、そうした仕事は外注・機械化される対象になることが多いため、長くその仕事を任せることができない場合もあります。

その場合は、今後のキャリアをどこでどのように形成するのか、主体的判断をその社員に求めつつ、働き方の転換を粘り強く要望していくことが必要です。

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――「静かな退職」を選ぶ若手は、今後、増えていく?

「静かな退職」は徐々に注目を浴びています。企業が手を打たなければ、日本においても増える可能性は高いと見ています。

職場環境を従業員の声を取り入れることが有効

――これ以上、増やさないためには、どんな対策が必要?

貢献意欲や成長欲求がある人たちに対して、金銭・非金銭のインセンティブを提供することのみならず、経営に組み込んでいくといったことも含めて、“期待を伝えていくこと”が大切だと考えます。

多様な価値観を受容し、プライベートの充実を確保できる働きやすさは担保しつつ、やりがいを喚起する。すなわち、その会社ならではの働きがいにあふれた会社を作るということに他なりません。

働きがいにあふれた会社をつくるためには、まず、“働きやすさ投資”を惜しまないこと。職場環境を従業員の声を取り入れて作り上げていくことが有効です。

次に、やりがいに火をつけること。会社が目指すビジョンや、従業員に求める行動基準に照らして、一人ひとりの働きぶりをよく見て、タイムリーにフィードバックを行い、会社からの期待・本人の良い点・改善点を会社と従業員とで適切に合意することが大切です。

そして、評価や報酬の公正さを説明したり、仕事の成果を基準に照らして褒めたりすることが、「静かな退職」を選択することを抑制すると考えています。

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今回の調査では2.4%と「静かな退職」実践者の割合は少ないと感じるが対応は必要。職場に「静かな退職」実践者がいる場合、実践者とそうでない人を分けて、仕事の割り当てをしてみてほしい。

またこれ以上、「静かな退職」実践者を増やさないためには、働きがいにあふれた会社を作ることが大事だ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。