米・ミシガン州で2月27日に行われる民主党予備選挙で、バイデン政権に対するアラブ系アメリカ人の不満が高まっている。イスラエル支援を打ち出すバイデン氏への失望と怒りが広がっているためで、一部団体は事実上の「白票」を投じるよう呼びかける事態となっている。
こうした動きが広がれば11月の本戦で勝敗を左右しかねず、バイデン政権は難しい対応を迫られている。
“イスラエル支持”バイデン氏に失望と怒り
ミシガン州は大統領選のたびに勝利政党が変わる、いわゆる「スウィングステート」の一つだ。中でもアラブ系アメリカ人の有権者の割合が約2%(21万1405人)と全米で最も高く、彼らは4年前の大統領選ではバイデン氏の勝利を後押しした。
しかし今、アラブ人コミュニティでは、ガザ侵攻を続けるイスラエル支持を明言するバイデン政権への失望と怒りが渦巻いている。
この記事の画像(5枚)2020年の大統領選挙では、ミシガン州でのバイデン氏とトランプ氏の票差は15万4000票余りで、アラブ系アメリカ人の多くがバイデン氏を支持したとされる。この票差は決して侮ることは出来ない。うねりが一層大きくなれば、アラブ系や若者の票が逃げる可能性もあるため、バイデン氏の再選への道のりは一層厳しさを増してくるのだ。
※2020年大統領選ミシガン州:
バイデン氏50.55%(280万4045票)、トランプ氏47.77%(264万9864票)
バイデンチームが警戒する「白票」の影響は
アラブ人コミュニティの中では、バイデン氏への不満を表明しようと行動に打って出る団体も現れた。ミシガン州のアラブ系アメリカ人で組織する「Listen to Michigan(ミシガンの声を聞け)」は27日の民主党予備選で、投票用紙上の「該当者なし」に印をつける事実上の「白票」を投じることで、バイデン氏に抗議の意を示すことを決めた。
団体の目標は1万票から1万5000票と決して大きいものではない。しかし今回の予備選挙は、その影響力が初めて数字となって現れる機会でもあるため、バイデン陣営は注視している。「Listen to Michigan」は政治色が濃く、州内の影響力も決して小さくはない。
バイデン政権はこうしたアラブ系アメリカ人の不満を和らげるような対応を始めている。
2月1日、バイデン氏は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸でパレスチナ住民への暴力に関与したユダヤ人入植者らに制裁を科す大統領令に署名した。その直後、バイデン氏の選挙チームはミシガン州に幹部を派遣し、「Listen to Michigan」のリーダーを含むアラブ系アメリカ人と会談した。
また翌週の2月14日、バイデン氏は、ガザで続く戦闘などを踏まえて、アメリカ国内に滞在するパレスチナ人に対する国外退去命令を1年6カ月間、一時的に免除すると表明した。いずれもアラブ系アメリカ人社会からの強い圧力を受けた措置だ。
さらに、ミシガン州予備選挙前日の2月26日、バイデン氏は記者団に対し「来週の月曜(3月4日)までには停戦を実現したい」と述べて、予備選挙が集中するスーパー・チューズデー前での停戦に言及し、アラブ系アメリカ人へメッセージを送った。
しかし、アラブ系アメリカ人によるバイデン政権への不満は根強い。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘をめぐっては、バイデン氏が真っ先にイスラエル支持を前面に打ち出したことで、足下のアラブ系アメリカ人の支持は急落している。
米アラブ研究所の2023年10月の調査では、バイデン氏を支持する人は17%と、2020年の59%から大幅に減少した。今後、イスラエルが、100万人以上の避難者が滞在するガザ南部ラファに侵攻すれば、多くの民間人犠牲者が出るのは避けられず、さらなる“バイデン離れ”にもつながりかねない。
「Listen to Michigan」の動きは、バイデン政権がイスラエル支持にこだわり続けることへのリスクを露呈させている。一方で、同時に大きな資金力と影響力をもつとされるユダヤ系アメリカ人も考慮せざるを得ないため、バイデン政権は難しい対応が迫られている。
(FNNワシントン支局長千田淳一)