石川・七尾市などが舞台となった作品「君は放課後インソムニア」。そのスタッフが制作した能登半島地震の被災者に向けた応援動画が公開された。この作品に登場する喫茶店も今回の地震で大きな被害を受けた一つ。応援動画に勇気づけられ、前を向く店主の思いに迫った。
久しぶりの賑わい 「屋台村」オープン
2月2日。久しぶりに七尾駅前がにぎわった。

七尾市の商業施設「パトリア」にオープンしたのは、その名も「能登屋台村」。店を構えたのは七尾市や穴水町で被災した12の飲食店だ。
その店の1つで、七尾市の喫茶店「中央茶廊」の3代目・窪丈雄さん(57)のもとを常連客たちが訪ねた。

中央茶廊・窪丈雄さん:
久しぶりやね
常連客:
きのうお店行ったんですよ、年末に買った分は全部飲んでしまったし
中央茶廊・窪丈雄さん:
ちょうどいいタイミングやったね
常連客:
(Q. コーヒー豆買えてどうですか?)うれしい~!って思いました。おいしいコーヒーが飲めるって

別の客:
おいしい、久々だ。ありがとうね
地元に愛される喫茶店が地震で“一変”
喫茶店「中央茶廊」は、今回の地震で大きな被害を受けた。

多くのコーヒー豆が散乱した店内。割れなかったものもあったが、案内してくれた窪さんは「棚の方は半分くらいだめ」「ホットケーキの銅板は(無事だったけど)、1カ月くらい使ってなかったからきれいにしないと」と語った。
さらに、厨房(ちゅうぼう)と客席を行き来できる通路も崩れていた。

創業1953年の「中央茶廊」。店内は落ち着いた雰囲気で、窪さんがいれるコーヒーは絶品。七尾の人たちに長く愛されてきた。
しかし、その姿は一変した。

中央茶廊・窪丈雄さん:
震災直後は(店に)来られなくて、夜の8時過ぎに様子を見に来て、表が崩れているのを見て。中に入ってパーティションが倒れていたり、厨房の中もぐちゃぐちゃでガラスや食器が割れていて、足の踏み場がなかった

崩れ落ちて内側がむき出しになった外壁。天井はゆがみ、あちらこちらに亀裂が入っている。修理することができないため、窪さんは解体することを決めた。
窪さんが向かったのは店の2階にある蔵。傾いて斜めになっている中で、あるものを探していた。

中央茶廊・窪丈雄さん:
これこれこれ!コーラの(グラス)!使えそうですよ。(Q. 割れてないですか?)割れてないですね、2セットある

見つけたのは、いずれ使おうと思っていたレトロなグラスだった。そして窪さんは、次々と思い出の品を運び出した。

その理由を尋ねると、窪さんは「お店を復活させることが一番なので、またお店に来たときに、『変わらないね、昔のまんまだね』と言ってもらえればな」と語った。

窪さんに「廃業する」という選択肢はない。店は建て替えるが、店内は昔ながらの雰囲気を受け継ぐという。

中央茶廊・窪丈雄さん:
これはコロンビアの豆、ちょっとずつ色が違うんですよ、あれはブラジル
窪さんは、生き生きとした様子で豆を触っていた。
「自然に涙が…」 応援動画を糧に
再び窪さんを訪ねた。

店ではいれることができないため、キッチンカーでコーヒーをいれる窪さんは「なんかこの膨らみだけで幸せじゃないですか?ちゃんと仕事してるかなって感じがする。大したことないことかもしれない日常だけど、それは大事なことかなと思う」と語った。

中央茶廊・窪丈雄さん:
(取材時の)きょう、2月5日っていうのは4年前に白血病が見つかった日なんです。今の地震はないに越したことはないけど、ショックはショックだけど、その時に比べれば私にとっては大したことない
今回も助かった命。窪さんは前しか向いていない。

さらに窪さんが「これ見たらやばいやつだけど…」と見せてくれたのは、七尾市が舞台となった「君は放課後インソムニア」のスタッフが制作した応援動画だった。
あの頃の能登の風景が漫画、アニメ、映画のシーンに連動して編集され、最後はこのために原作者のオジロマコトさんが書き下ろした「ひとりじゃない。」と言う言葉と共に締めくくられている。
中央茶廊と窪さんは、漫画・アニメ・実写映画にも登場している。

中央茶廊・窪丈雄さん:
(動画を見たら)自然に涙が出てきたし、七尾のことを思ってくださっている方が作品を作る人の中にもいらっしゃるのでうれしい

心を寄せてくれる人の存在が窪さんの力になっている。焙煎(ばいせん)機は奇跡的に無事だったため、窪さんは焙煎した豆をネットやイベントで販売している。
中央茶廊・窪丈雄さん:
(Q. やっぱりすごく楽しそう)焙煎しているときは楽しいです。ちゃんとやらないといけないけど、やっぱり仕事をやっているときは楽しい

そんな窪さんに、店を辞める選択肢はないか尋ねた。
中央茶廊・窪丈雄さん:
ないですね、どうやってやり続けるか。考えたことが今までになかったかと言ったらよぎりますよね、こういう状態になると。だけどお客さんと話すと、なんとかしたいなって思う。(Q. なんとかなりそうですか?)なんとかします
地震乗り越え…“100年”目指す
2月2日に行われた屋台村。窪さんも大好きなコーヒーをやっとお客さんに出すことができる。豆を買いに来た人は「(Q. コーヒー何袋買うんですか?)3袋!ずっと待ってた」と話していた。
窪さんは、楽しそうに常連客たちと話していた。

常連客:
窪さんのところ、もう店やってるの?
中央茶廊・窪丈雄さん:
店できない
常連客:
ですよね、だからやっとね
中央茶廊・窪丈雄さん:
何年振り?
常連客:
よく言う!去年行ってた!
中央茶廊・窪丈雄さん:
1回くらい?
常連客:
違う、2回
中央茶廊・窪丈雄さん:
(Q. 皆さん、窪さんとしゃべりに来ている)多分そっちの方が多いでしょ、味うんぬんよりも。でもそれがうれしいですよ

中央茶廊・窪丈雄さん:
(Q. 新しいファンが増えそう)ありがたい話で、これをきっかけになんでもチャンスになるかなと思う。地震に遭うのは不運かもしれないけど、決して不幸ではない。こういう災害になったけど、お客さんが来てくれるので、また改めて頑張って(創業から)100年まで、あと30年頑張ってみようと思ってます
「喫茶店は自分の天職」。大きな地震があっても、その気持ちは変わることはない。
(石川テレビ)