バイデン大統領が「TikTok」にアカウントを開設。初投稿では、スーパーボウルをめぐり、トランプ氏の支持者が主張する陰謀論を取り上げた。一方、TikTok使用には中国への情報漏えいの危険性が懸念されており、野党・共和党から批判の声も上がっている。

「大統領が中国に情報を売り渡している」

11月のアメリカ大統領選挙に向け、バイデン氏の選挙陣営は11日、中国系の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」のアカウントを開設。初めての投稿では、アメリカンフットボールの王者決定戦「スーパーボウル」などに触れた上で、大統領選挙にも言及した。

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TikTokは若者の利用者が多く、バイデン氏の陣営としては支持の拡大を狙いたい思惑がある。

一方で、中国への情報流出の懸念から、ホワイトハウスはスマートフォンなどの公用端末でのTikTokの使用を禁止しているほか、連邦議会からは一般利用も全面禁止を求める声もあり、野党・共和党からは「大統領が中国に情報を売り渡している」との批判も上がっている。

1969年「アポロ11号月面着陸」生中継以来の視聴者数

バイデン大統領が、かつて自分が使用を禁じたTikTokを解禁。その背景について、取材センター室長・立石修がお伝えする。

バイデン大統領が開設したアカウントのプロフィール画像は、目から赤いビームを出している。なかなか攻めている印象だが、このようなアカウントを作った背景には、“テイラー・スウィフト現象”があるようだ。

11日、アメリカ・ラスベガスで行われたアメリカンフットボールの王者決定戦・スーパーボウル。試合は延長残り3秒の逆転劇で、テイラー・スウィフトさんの恋人が所属するチーフスが2年連続の優勝を果たした。

試合の行方と共に、応援に訪れたテイラーさんが観客席で一喜一憂する姿が何度もカメラで映された。

そして優勝決定という最もドラマチックなシーンで、テイラーさんとケルシー選手が抱き合って喜ぶ姿にカメラがフォーカスし、この試合を象徴するような瞬間になった。

この試合の全米での視聴者数は約1億2300万人と、日本の人口とほぼ同じ。これはスーパーボウル歴代最高視聴者数で、1969年の「アポロ11号の月面着陸」生中継以来の視聴者数と歴史的なイベントになった。

経済的にも影響は大きく、スーパーボウルの30秒のテレビ広告費は10億円にも上った。特にテイラーさんの影響か、女性向けの広告が増えたという。

背景に“テイラー・スウィフト現象”

ここまで全米の関心が集まったことについて、有力紙であるウォールストリート・ジャーナルも「魅力的な対戦カードであることに加え、テイラーさんとケルシー選手の関係を巡るファンの関心がある」としており、“テイラー・スウィフト現象”というのが背景に根強くあると考えられる。

また、アメリカでは応援疲れもあってか、推計で1600万人が翌日は仕事を休んだという報道もあった。

異例づくしの今回のスーパーボウルだが、テイラーさんが反トランプの姿勢を前回の大統領選で鮮明にしていたことから、トランプ氏の熱烈な支持者などはスーパ-ボウルで彼女に注目が集まることが気に入らなかった。

そのためテイラーさんが応援に行くことは「バイデン政権の陰謀だ」などの反発が上がっていた。

この陰謀論について、バイデン大統領はこれまで目立った発言をしていなかったが、新しく作ったTikTokで早速、スーパーボウルに乗っかる形でこのネタを取り上げた。

しかもバイデン氏のTikTokの最初の動画が投稿されたのは、スーパーボウルの試合中。

動画は一問一答形式になっており、テイラーさんの応援するチーフスと49ersのどちらを応援するかと聞かれたバイデン大統領は次のように答えた。

「難しいが『イーグルス』と言わないと一人で寝ることになるんだ。妻が『イーグルス』の本拠地出身だからね」

バイデン大統領は、今回対戦する2つのチームではなく、妻の故郷のチームを応援しないと怒られると述べて軽くはぐらかしたのだ。

そして、トランプ支持者が主張する陰謀論についても話が及んだ。

「テイラーさんが応援するチームが出場できるよう不正操作した?」と聞かれると、バイデン大統領は「それを答えたら困るだろう」と返答。また、「トランプかバイデンか」と聞かれ、「冗談だろ?バイデンだ!」と答えた。

バイデン大統領が陰謀論に触れるのは初めてで、「テイラーさんの応援するチームを大統領の権力でスーパーボウルに出場させた」という一部のトランプ支持者の陰謀論についても「答えるわけにはいかない」と余裕を見せてはぐらかし、そのあと目から赤いビームを出した映像を流していた。

今回のスーパーボウル人気、テイラーさん現象にバイデン大統領もうまくあやかりたいというのが見てとれる。服装もラフな感じで、高齢であることを問題視する声もあるバイデン大統領だが、やはり若者を取り込みたいという意図も感じられる。

トランプ支持者はテイラーさん陰謀論を主張

TikTokは音楽や動画に強いSNSで、若い世代を中心に人気が集まっている。

アメリカでは1位のフェイスブック(74.2%)、2位のインスタグラム(60.7%)に続き、TikTok(42.4%)は3番目にユーザー数の多いSNSという調査結果がある。

特にアメリカでは、TikTokは12歳から20代前半の若年層、つまりZ世代に人気があり、将来的には、この世代ではインスタグラムの人気を超えるとする予測もある。

高齢批判をかわすためにもこの世代層にアピールしたい狙いもあるが、この世代はまさにテイラー・スウィフトさんの熱烈なファン層。トランプ支持者の主張するテイラーさん陰謀論を取り上げ、バイデン大統領陣営も注目を集める狙いだと思われる。

ちなみに、テイラーさんのTikTokフォロワー数約2400万人に対し、バイデン陣営フォロワー数は約8万人とまだ遠く及ばない。

ただTikTokについては、中国の企業が運営していることから情報漏えいの危険性も指摘されていて、バイデン政権は2023年から政府機関について公用の端末での使用を禁止している。

今回の「バイデン・ハリスHQ」というTikTokアカウントは、大統領選挙のための選挙陣営のアカウントであり、大統領業務とは関係ないという立場をとっている。

しかし、トランプ氏を抱える共和党はTikTokへの規制論が強く、既に攻撃の材料にしている。
(「イット!」 2月13日放送より)

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