災害時に起こりうる問題のひとつが、水不足。1月1日に発生した能登半島地震でも、水道の損傷などによって広範囲で断水が発生。いまだ生活用水が不足しているところもある。

衛生環境の悪化なども心配される中、自社技術を生かして、こうした状況の解決に取り組む企業がある。それが、水の再生・循環利用を可能にするシステム開発の事業を手掛ける「WOTA」(東京)。

「WOTA BOX」
「WOTA BOX」
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使った水を浄化して繰り返し再利用できるテクノロジーを搭載した、ポータブル型の装置「WOTA BOX」約100台、手洗いスタンド「WOSH」約200台を、石川県内の7市町(2月9日時点)に展開し、被災者が利用できるような、シャワーや手洗いの場を提供しているのだ。

「WOSH」
「WOSH」

「WOTA  BOX」は箱型で、大きさは幅が82cm、奥行きが45cm、高さが93cm。「WOSH」はドラム缶型で幅が約70cm、奥行きが約60cm、高さが約106cm。

被災地における「WOTA BOX」の設置例
被災地における「WOTA BOX」の設置例

どちらもフィルターやUV、塩素などの水処理フローを経て、排水の98%以上を再生でき、繰り返しの使用を可能にしているのが特徴だ。能登半島地震では避難所などに設置され、「WOTA BOX」はシャワーテント・脱衣テントと一緒に個室シャワーとして、「WOSH」は施設の入口や仮説トイレ近辺での手洗い場として使われているという。

被災地における「WOSH」の設置例
被災地における「WOSH」の設置例

地震発生から1カ月が経過したが、被災地はどのような状況なのだろう。現地での活動も行っているWOTAの担当者に、水関連の実情、これからの支援に求められることを聞いた。

水はあっても「生活用水」が足りない

――「WOTA BOX」「WOSH」で、被災地の支援をしている背景は?

私たちは「被災地で水に困らない環境を作る」ことをテーマのひとつとしていて、西日本豪雨をきっかけに、主に断水エリアでの支援をしてきました。今回の地震でも、発災直後に石川県から連絡をいただき、(協力会社を含めると)1月4日から、シャワーや手洗いスタンドを提供しています。

個室シャワーの内側はこのようになっている
個室シャワーの内側はこのようになっている

――能登半島地震の被災地は水関連でどんな問題を抱えている?

避難所では「飲用水は十分あります」という張り紙を見ることもよくあります。ただ、生活用水の量は不十分です。例えば、飲用なら1人1日3Lあれば生活が可能ですが、1人がシャワーを浴びると50L以上が必要になります。断水の状態でその量を給水し続けるのは困難になります。

手洗いにおいても、現状は皆さんがポリタンクに入った水を毎回開けて手洗いをし、排水は地面に垂れ流しているような状態でした。生活用水は水があればいいということではなく、大量の水・排水処理設備・水回りの利用設備の3要素が揃っていなければならないため、水があっても飲用以外の利用に落とし込むことが難しいのです。

シャワーや手洗いは衛生面・精神面で重要
シャワーや手洗いは衛生面・精神面で重要

――被災地において、水はどの程度重要なもの?

避難生活が長期化すると衛生環境や感染症の拡大も心配されます。シャワーを浴びる、十分に手を洗えることは、被災者の衛生面・精神面において非常に重要です。さらに、エッセンシャルワーカーや“支援をする側の方々”にとっても水は重要です。医療従事者が衛生的な処置をするためにも、瓦礫を撤去されている方々などにとっても、生活用水を確保し、衛生環境を構築することが、持続可能な支援体制を構築していくには重要です。

現地の人たちによる自律運用

――「WOTA BOX」「WOSH」は被災地支援において、どんなメリットがある?

ひとつは排水の98%以上を再生して循環利用できることです。シャワーを例にすると、100Lの水があれば、通常の方法だと2人で使い切ってしまいますが、我々のシステムは、100Lあれば100人分のシャワーを提供できます。

もうひとつは、ユーザー自身がメンテナンスをできることです。「WOTA BOX」や「WOSH」は、インクのトナー交換に近いレベルで、フィルターの交換時期を「青・黄色・赤」の色で“見える化”し、ワンタッチで脱着するなど簡単な操作で済みます。使い方やメンテナンス方法をレクチャーすれば、現地の人たちで「自律運用」が可能となります。

今回の地震支援においては、断水が広域かつ長期化すると想定し、支援の持続性、拡張のスピードをあげるため、支援当初から、設置場所では現地の方々に運用をご依頼しています。

現地の人たちに運用を依頼
現地の人たちに運用を依頼

――設置場所はどのように決めている?

水道の復旧状況ならびに、避難所の状況や設置要望も踏まえた上で、国・市町の方々と相談の上で決めています。「WOTA BOX」「WOSH」は持ち運びができるので、給水状況に応じて設置場所の変更もできます。

装置のメンテナンスもしている
装置のメンテナンスもしている

――支援を通じて感じた課題はあった? 

飲用水はコモディティ化できていますが、トイレやシャワー・手洗いなど生活用水の需要を想定した備えが進むような状況の構築が必要だと感じています。

「地震の発生から初めてひとりになれた」

――支援に、被災地ではどんな反応があった?

1週間以上ぶりのシャワーに喜んでいただけるのはもちろんのこと、手洗いができる環境だけでも多くの喜びや安心の気持ちを伝えていただきましたし、設置したことで、避難所の「衛生環境の意識が向上した」という声をいただきました。

避難所の初期段階では、土足で入るような環境でしたが、シャワーなどを利用できたことで、身の回りの衛生環境の意識向上につながり、土足を禁止した避難所もありました。

また、避難所はオープンな場所でもあります。個室シャワーによって「(地震発生から)初めてひとりになれた」という声もあり、個室空間があることの重要性も認識しました。

シャワーを利用した人は笑顔に
シャワーを利用した人は笑顔に

――発災から1カ月が経過。今後はどんな支援が求められそう?

断水は生活そのものを難しくします。短期的には、被災者をはじめ、エッセンシャルワーカーや支援をする方への支援が必要です。中長期的には仮設住宅への給水をどうするか、地域の水インフラをどう復旧させていくか。小さな集落が点在している場所もあるので、水道インフラを分散化させるようなことも、検討しなければならないのではと感じています。


――支援全般で、これからの目標は?

まずは「WOTA BOX」「WOSH」の配備で、能登半島全域をカバーしつつ、給水の復旧状況や設置要望を踏まえて適切に配備していくことです。その後は仮設住宅を意識した持続的な給水手段、長期的には復興における水インフラのあり方などを整理していく上で、我々がお役に立てることがあれば全力で取り組む所存です。



シャワーや手洗いができることで、被災地では活気を取り戻し、衛生環境の改善にも役立っているようだ。限りある水資源の有効活用はSDGsにもつながるだろう。
(画像提供:WOTA)

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。