「風当たりは強いが、安倍首相なくして打開できるリーダーはいない」
平井:
いま、安倍政権の支持率が下がって、財務省のスキャンダルとか、トラブルが続出していて、総裁選3選も難しいんじゃないかと言われていますが、これをどう見ていますか?
稲田:
難しい質問です。私も地元に帰ると安倍首相に対する風当たりが強いなと感じます。長くなればなるほど、国民のみなさんも新しいものを望むのでしょうか。今の外交、防衛、経済を考えた時に、また、世界に対する日本の存在感を考えたときに、安倍首相なくして、これを打開できるリーダーは見つからないので、私はなんとか乗り切ってほしいと思います。
平井:
今支持率が、30~35%くらいです。しかし、30%は割り込まない。しかも、衆参で与党でほぼ3分の2くらいある。そうであれば、もちろん政権は維持できるし、予算は通るし、法案も通る。外交もできる。ただ一つできないことがあって、それは、憲法改正が大変難しくなる。安倍さんは今、憲法改正を諦めて、あとの3年間を外交を中心にやるのではという人もいるが、憲法改正を諦めてもいいと思いますか?
稲田:
いいと思いません。一昨年の7月、G7の後に解散の話がでましたが、そこで(安倍首相が)解散を見送られたのは、憲法改正をしたいから。3分の2を維持したいから。昨年は勝ったのでそれを維持することができましたが、首相が本当にやりたいことは、私は憲法改正だと思いますので、それを諦めることはないと信じています。
平井:
北朝鮮もいま動いていますが、今後、トランプ大統領が金正恩委員長と会って、もし核廃棄のスケジュールが出てきて、うまくいけば核廃棄とともに制裁や軍事的圧力緩和の方向に行った場合に、日本はどうするのかということが問われています。
稲田:
先日、安倍首相がトランプ大統領と会談したのは大きな成果ですね。拉致問題にしても制裁を弱めない。一致協力するという意味でも非常に大きな成果です。
ただ、金正恩氏は、なかなかの戦略の持ち主ですよね。防衛大臣時代、防衛大臣会合とか、マティス長官との会談の時でも、「北朝鮮が何を考えているのかわからない。戦略というものがあるのかないのか、予期できない」という評価だったのが、このところの外交の態度を見ていると、韓国に宥和的なアプローチをとってアメリカとの間に楔をいれようとしたり、中国をうまく引き込んだりしています。
また、日本とアメリカとの間にもある意味で楔を打って、弾道ミサイルをこれ以上試験発射しないと言いながら、ICBMのことを指しているのか、日本を射程に入れるものまで含んでいるのかについて必ずしも明確にしないなど、非常に巧みですよね。
でも基本は、「先軍政治」と「並進路線」という政策のもとで国民を飢えさせてでも、ここまで核とミサイルを開発してきている。 もちろん再突入技術は身に着けていないので完成ではないですけれど。ここまでやってきて、核を本当に廃棄するのかといったら、私は非常に疑問です。核を廃棄することを前提にして制裁を緩和するとか、日本がどうするかといったことは、なかなか見通せないんじゃないかと思います。
平井:
稲田さんは防衛相時代にマティス国防長官と会っていますが、その時に場合によってはアメリカによる軍事行動もあるという感触はありましたか?
稲田:
それは思わなかったですね
平井:
マティスさんは慎重だった?
稲田:
慎重だと私は感じました。もう1年も前の話ですが。
日本が警戒しているのは、「ICBMはやめるから」ということでトランプ大統領が少し北朝鮮に融和的になることで、日本にとっては安全保障上も問題です。ですから、首相も常にトランプ大統領と連絡を密にして意思を確認していることは私は大変重要だと思っています。
「岸破聖太郎」と稲田氏の違い
平井:
先のことを伺いますが、安倍さんが3選されるとして、それでも2021年には首相を辞めるわけですよね。
では、その後、誰が日本のリーダーになるのか。この企画は、「ポスト安倍は誰だ」です。今は「岸波聖太郎」というんです。
稲田:
岸田さん、石破さん、聖子さんに、河野太郎さんですね。「麻垣康三」(麻生・谷垣・福田・安倍)みたいな(笑)。
平井:
稲田さんは、もちろん首相を目指すんですよね?
稲田:
まあそれは1年生の時から言っていますからね。
平井:
安倍さんとどう違うのかというのを聞きたい。
稲田:
歴史認識は首相に一番近いですね。それから、安全保障に関する考えも近いと思います。財政はどちらかというと、財政再建派。
平井:
では岸田さんに近い?
稲田:
岸田さんが財政再建派だとすればね。私は、しっかり財政再建をやるべきだという考え方だし、ちゃんと数値目標を入れて、政調会長時代にやってきたことが間違っていなかったと自分では思っています。
平井:
そこは安倍さんとの違いですか?
稲田:
そうですね、安倍首相は、私が政調会長時代に作った財政再建の計画に対しては「ちょっとやりすぎ、数字を入れるのはどうなのか」と思っておられたと思います。「1%ずつでも消費税を上げてください」と言いに行ったこともあるので、そこは違っているのでしょう。
野田聖子さんに関しては、女性議員として非常に長いキャリアを持たれ、その中で「女性活躍」ということをおっしゃっています。
今もセクハラ問題であったり、いろんな時に発信をされているでしょう。私はすごく共感を覚えます。どちらかというと、日本は今まで「女性だから」「男性だから」というのに関係なく、能力があれば登用される社会だと思ってきたし、もちろんそうなんですが、女性自身を含めてまだまだ意識を変えていく場面があるんじゃないかなと。
また、LGBTの問題も、政調会長時代に特命委員会を作ったりしました。「人が人らしく」というか、自由に生きられる社会を目指しているので、そういう意味での共通点はあるかなと思います。
「日本の名誉を守るために政治家になった」
平井:
稲田さんが天下を取るためには、誰が一番のライバルですか? やっぱり野田聖子さんですか?
稲田:
そういう目で誰かをみたことはないですね
平井:
稲田さんは、実際に会うと、すごく小さくてかわいらしいからみんな好きになるんですけど、その舌鋒の鋭さとのアンバランスですごく人気が出たんだと思います。打撃力があるので、ぜひ、楯も矛も準備して・・・。
稲田:
そうですね。少し幅を広げていかないとね。
そもそもなぜ政治家になったかというと、それは、日本の名誉を守るということです。
例えば、慰安婦の問題、南京の問題にしても、東京裁判史観から脱却するという話にしても。そこが出発点で政治家になっているので、その原点は忘れたくないと思います。
ただ今回、防衛大臣もやって痛感したことは、東京裁判と異なる客観的事実は何か、ということと同時に、政治的にこの戦後の世界の中で、何を正しいとされているかということの間のギャップというものはありますよね。その中で、日本が本当に日本らしく発信しようと思えば、ある程度強くないと。強さという意味では、経済力だけではなく防衛力を持っていないと、言えないことはたくさんあるし、やりたくてできないことも実はたくさんあるんだなということを痛感したんですね。
そういう意味においては、自分の政治の原点として、憲法改正もそのひとつかもしれません。私自身は、2項(戦力の不保持)削除じゃなくて、置いておくという方が正しいと思っています。身の丈に合った防衛、身の丈に合った憲法改正というのが、いま現時点での日本においては必要だと思っているので、そういうことをおいた上で、女性としてというか、男性、女性ということを、私は今まであまり感じてきていません。
平井:
不思議なのは、他の女性首相候補と言われる小池百合子さん、野田聖子さんと稲田さんの3人を比べると、稲田さんが一番女っぽいんですよ、立ち居振る舞いは。だけど、言ってることは一番男っぽいね。
稲田:
例えばLGBTの問題にしても、女性活躍にしても、型にはまらないで「自分らしく」ということはありますよね。「女性だからこうすべき」というのは、私はまったく自分の中にない。「人らしく」というか、そういう社会は息がしやすい。ジェンダーフリーではないんですけど。いろんな人がいていいし、いろんな生き方があっていいと思っています。
平井:
そうすると、やっぱりもう一度、防衛大臣をやったほうがいいんじゃないですか?
稲田:
いやいやいや(笑)。別に何がやりたいとか、そういうことではなくて。
もちろん、安全保障と歴史認識の問題は密接不可分だということを、今回は非常に感じましたね。
「自分がやりたいことを追及できる人は偉い!って子どもたちは応援してくれている」
平井:
こうやって首相を目指して、男勝りに頑張る母親を見て、お嬢さんはどう思っていますかね?
稲田:
本当に全然いい母親じゃないんですよ、私は。
子育てをちゃんとしたということもなくて、ひどいですよ。けっこう自分がやりたいことをやってきました。だから、自分勝手な母親として見えていると思う。
平井:
仲いいですよね?
稲田:
仲いいですよ。休日は娘とショッピングに行ったりしますよ。服を選んだり、散歩したり。
でも、娘も息子も、そうやって自分がやりたいと思うことを追求できる人は偉いって思ってくれてるのね。応援はしてくれています。
平井:
尊敬されているのはいいじゃないですか。
稲田:
尊敬しているのか、ある意味迷惑だと思いつつも、ここまで頑張れる人について、一種の認めてくれているというのはあります。
平井:
野田さんや小池さんは女性であることを前面に出してくるけど、稲田さんはそうではない。
稲田:
私は、女性であることで限界を作っちゃだめだなと思う。だけど、おしゃれは好きだし、そういう意味では女性的かも。
女性らしい恰好をしたり、ひらひらしたり、そういうのは止めろというアドバイスも沢山もらいました。そうかもしれないですね、政治家としては。
でも本当は、どんな格好をしているかとか、どんなアクセサリーをしているかとか、おしゃれかどうかというのは全く関係ないと思います。
平井:
欧米の女性政治家ってものすごく派手ですよね。
稲田:
フランスの防衛大臣は、真っ赤なミニスカートのスーツでした。女性の防衛大臣がヨーロッパは結構多くて、みんなブーツを履いたり、ショールを巻いたり、カーリーヘアーだったり。それぞれおしゃれをしていることで批判されているわけではないです。
だからそこは、日本はもう少し意識を変えてほしいなと思います。そう言われるからといって、地味にするのは私らしくないないと。
平井:
やはり、自分らしさを失わないことですね。
稲田:
例えば、ファッションでもTPOが大事ということは分かっていますよ、もちろん。でも、日本は少し窮屈なんじゃないかと。ただ社会のありようについて言えば、LGBTをはじめとして一人ひとりが自分らしさを失わず、それぞれお互いの自由も尊重される思いやりのある民主的な国、その方がいろいろな発想がわいて、いろいろなイノベーションが生まれる。そういう国を私は創りたいと思います。もう一つは、本当の意味での主権国家を一体何年かかるかわからないけれども創っていきたい。
平井:
稲田さんが辞めたときに、蓮舫さんがたしか同じ時期に代表を辞めた。あの時に思ったのが、左の人が稲田さん降ろし、右の人が蓮舫さん降ろしをしていると。2人とも、もしかしたら少し下駄を履いて、実力以上のポストについたかもしれない。だけど、日本はこれまで逆だったから、多少下駄を履いてもいいんじゃないかと思った。せっかく女性のいい政治家が育ってきているのに、それをお互いに潰し合うというのは、すごく効率が悪いですよね。
これまでは女性が生きにくかった世界ですよね、昔は国会に女性トイレもあまりなかったですからね。
稲田:
今でも本会議場は女性トイレは少ないですよ。
もう一つの大きな問題は、配偶者の財産を公開するでしょう。あれは多分、配偶者は女性であるという前提で、そして配偶者が経済活動をしていないので、大臣が奥さん名義で財産を作っているという発想だと思うんです。女性が大臣になれば、夫は経済活動をしています。夫の財産を私は知りません。男にとって、財産を出せというのは、人前でパンツを脱げと言われているのと同じだとすごく抵抗したんです、夫は。私もそう思いました。夫だってちゃんと経済活動をして、それなりに財産を築いていて、それを全部出せと。やはり女性政治家が大臣になって、ということをあまり考えていないんじゃないかなと。男性が大臣で、女性が経済活動している場合でも一緒ですよね。
平井:
そういう社会はおかしいと思いますか?
稲田:
おかしいと思います。
平井:
あまりにも政治の世界って遅れていませんか?
稲田:
ものすごく感じました。
女性政治家に対しては、蓮舫さんと私にだけではなくて、非常に厳しい面もあるなと思います。下駄に関しては、私も下駄を履かせてもらって迷惑とか、下駄を履かせてもらっているんだろうと言われることが迷惑という気持ちはずっとありましたけれど、そうでもしないとなかなか女性が活躍していく社会が実現していかないのも事実なのかなと思います。この間の選挙でも、私と豊田真由子さんと山尾志桜里さん、連日(報道されていた)でしたものね。
内閣人事局は普通の会社なら当たり前のこと
稲田:
もう一つ、今回の森本・加計問題で出てきた内閣人事局がおかしいという意見ですが、あれはちょっと違うんじゃないかと思います。
国家公務員制度担当大臣として非常に苦労して、政治家も含めていろいろな批判を受けながらも作りました。だから、内閣人事局が、非常に悪者にされているなと感じます。
内閣人事局を作るということは、横串を刺して人事をやっていくということですが、普通の会社だったら当たり前のことですよね。むしろ、縦割りで人事をやっていることが、省益あって国益なしで、改革を進める官僚が、なかなか偉くなれない。内閣が進めようとしている政策をしっかりと各省が進めていくためにも、人事権は大臣にあるんですが、そうやって横串を刺す形で、内閣が言えるということは、重要なことだと思うんですね。
勝手に人事をやるというものではなくて、その評価もしっかりやって、説明責任も内閣側に負わせてということで、いいことがたくさんあるのに、悪い面だけを取り上げられるのはいかがなものかと思います。
平井:
あれは、野党およびマスコミが、政治家が嫌がる官僚に圧力をかけて行政を歪めたという図式をつくりたいがためにああいうことを言っているんですよ。官僚ってそんなヤワいタマじゃないですよ、あの人たちは。みんな言ってる、政治家なんか怖くないって。すぐ代わるから。
稲田:
2年に1回、1年に1回変わる大臣の方は見ていないと。かつては内閣だって1年に1回は変わっていたんだから、首相も見ない。やはり次官を見るということになりますよね。
平井:
だから今回のこのストーリーは、官僚にとってはすごく都合がいいですよね。被害者みたいだもの。だけどそんな生易しいものじゃないですよね。別に彼らが悪いというわけではなくて、彼らは自分たちが作った政策を実現するために政治家を利用しているというか、政治家に協力してやっているだけのこと。別に上でも下でもないです。被害者扱いするのはおかしいなと思います。
稲田:
どうかなって思います
平井:
でしょう?そう思っている人はいっぱいいるんだけれども、それはサイレントマジョリティです。ほとんどの人が黙っている。一部のうるさい人たち=ノイジーマジョリティが、ガーッと大きな声で言っているから、ものすごく批判が多いように見えるんだけれど、実はそれはちょっとしかいなくて、だからマジョリティの意見は表に出てこない。
稲田:
テレビ見てるとそういう風にみえちゃいますよね。
平井:
その構図の方が面白いからね。でも実際はそうじゃないでしょう。
稲田:
そういうことも感じました。
まあ、でも私も、最初の頃に比べるとどんどん強くなって、免疫がついてきていると思います。
平井:
あれだけ言われればね、もう怖いものはないですね。
稲田:
怖いもの、批判に関してはかなり免疫はできたなと。そのへんには強くなったかなと思います。
平井:
頑張ってください、これからも。
稲田:
ありがとうございます。
(対談日:平成30年4月24日)