正月の眠気を吹っ飛ばすような米国によるベネズエラ攻撃で不穏な幕開けとなった2026年。さらに高市首相が通常国会冒頭の解散を検討しているという。今年はどんな年になるのか。
「ザ・独裁者」
1月3日にベネズエラ攻撃のニュースが入って来て「これ、前にもあったな」と強烈なデジャブ(既視感)に見舞われて日記などを調べてみたら、36年前、1990年の同じ1月3日に米軍によるパナマ侵攻でノリエガ将軍拘束という似たようなことが行われたことを思い出した。
当時の私はまだ20代の外信部記者で、前年末にルーマニアでチャウシェスク大統領処刑というなかなかハードなニュースを取材して疲労こんばいし、臨時支局にしていた隣国チェコのプラハで骨休めしていたところ、確かBBCラジオのニュースで聴いて知った。
あの時も米国に対し国際法違反という批判が起きたのだが、当時の欧州は東欧が社会主義から解放された歓喜に満ちており、しかもチャウシェスクという「ザ・独裁者」を民衆が倒した直後でお祭り騒ぎだった。
だから当時よく読んでいたヘラルドトリビューンという新聞も米国批判よりは独裁者の排除を喜ぶというトーンだったことをよく覚えている。
それにしてもパナマとベネズエラのケースは実によく似ている。
共通点の第1はかたや「パナマ運河」、かたや「原油の埋蔵量世界一」という地政学的に重要な場所だということ。
2つ目は反米の独裁者がキューバや他の専制国家と通じ合っている。
3つ目が国ぐるみで麻薬密売ビジネスをやっている。
最後に経済が破綻し選挙もまともに行われず国家の体をなしていなかった。
「米国は帰ってきた。世界は変わった」
今回の武力介入について日本の政治家がさまざまな発信をしたが、私は安倍晋三政権で総裁外交特別補佐を務めた河井克行元法相の「今はベルリンの壁崩壊に匹敵する新世界秩序構築の夜明け」であり、「米国は帰ってきた。世界は変わった」というFacebookへの投稿が一番腹に落ちた。
確かにロシアはウクライナ侵略を、そして中国は力による一方的な現状変更をやめないし、北朝鮮は核兵器をどうやら完成させた。
ドナルド・トランプ米大統領が次に狙うのはコロンビアかキューバか、イランかあるいはグリーンランドか。今や世界はあちこちでカオス(無秩序)になっており、米国の国際法違反を責めているだけでは問題は解決しない。
永田町は選挙モードに
さて発足後まもなく3ヶ月の高市政権。来週から始まる通常国会では年収の壁で合意した国民民主党が賛成してくれそうなので、来年度予算案は年度内に成立すると見られていた。
その後も国民民主の協力で「旧姓使用拡大の法制化」「安定的な皇位継承のための皇室典範の改正」「国家情報局の創設」など、「保守的な政策」が次々に実現するのではないかと期待されていた。
暮れの税制改正と予算編成もカレンダー通りで、のんびりと年末年始を過ごしていたのだが、10日付の読売が「高市首相が解散検討」と書き、一転永田町は選挙モードになった。
高市首相は解散をまだ最終決断はしていないようだが、なぜ予算も通り、そして「保守的な政策」も実現する国会をやらずに解散することを「検討」しているのか。
選挙の神様は「自民が有利」
一つはいくら協力的だと言っても国民民主は野党に変わりはない。やはり衆院で与党だけで国会を運営できるような数は政策実現のためには必要だ。
例えば日本維新の会が「連立の条件」に挙げた衆院の定数削減法案に国民民主は今のところ反対の立場だ。今の議席のままだと通常国会でもこの法案は衆院で採決どころか審議もされない。そうなると維新は連立に残れなくなってしまう。
もう一つはやはり高い支持率だ。FNNが12月に行った世論調査では内閣支持率が75.9%と政権発足以来最も高くなった。
我々政治記者が「選挙の神様」と呼ぶ元自民党事務局長の久米晃氏に「自民は230くらいは取るでしょうか」と聞いたら、彼はそれには直接答えず、「日本維新の会、国民民主党、参政党の候補を立てるのが間に合わないので、自民党VS立憲民主党の選挙区が多くなると自民が有利」とのことだった。
もちろん公明党の連立離脱でこれまで通りの選挙協力は見込めないし、そもそも内閣支持率は高くても自民党の政党支持率は30.6%と低いままで、石破内閣の時と変わらない。
高市首相は冒頭解散するのではないか
高市首相は5日の年頭会見で「国民の皆さまに物価高対策、経済対策の効果を実感頂くことが大切。目の前の課題に取り組んでいる」と述べた。これを聞くと少なくとも予算を通すまでは解散はないと考えるのが普通だと思う。もし解散するならその辺りについての説明が必要だろう。
ただ選挙になれば「神様」の言う通り「自民に有利」なのは間違いないだろう。
自民が過半数(233)近くを取り、維新が現状維持だとすると、与党の議席は絶対安定多数に近づくので、少なくとも衆院での議会運営は与党にとってかなりスムーズになる。
だからやはり高市首相は冒頭解散するのではないか。
選挙後は連立の形が変わるかもしれない。維新がそのまま残るか、国民民主が加わるか、維新と交代するか、はたまた参政党も加わるか。それは選挙の議席次第だ。
政治の“かたち”が変わる年に
本来は高市政権の「責任ある積極財政」がうまくいくかどうかが今年の大きなテーマなのだが、それよりも前述の「カオス」ゆえに外交安保が重要な年になる。
3月の高市首相訪米でトランプ氏とどこまでつっこんだ話ができるか、4月には米中首脳会談があり、6月の仏・エビアンで行われるG7サミットで高市氏は今の世界情勢にどう向き合うのか、そして11月APECでの高市首相の中国・深圳訪問、ここで習近平主席との会談が実現するのか。
36年前のパナマ侵攻の時はほぼ同時に東西冷戦が終わり、その後、日本でも55年体制が終わり、政権交代が起きた。あの頃は世界も日本も政治の「かたち」がみるみる変わったことを実感したが、今年もまたそんな年になるのではないか。
一昨年フジテレビを退社し、このコラムもいったんおしまいにしましたが、この度、再開することになりました。引き続きご愛顧の程よろしくお願いいたします。
【執筆:フジテレビ客員解説委員 平井文夫】
