一般的に『溶連菌』と呼ばれている、溶血性レンサ球菌。この溶連菌の中でも毒性の強いものに感染すると、手足の壊死を引き起こし、死に至ることもある。これを「人食いバクテリア」と呼び、致死率は30%にのぼる。

この「人食いバクテリア」の患者数が去年、過去最多となった。 なぜ、過去最多となったのか?感染経路、予防法などを感染症の専門家、関西医科大学付属病院の宮下修行医師に聞く。

宮下医師の病院でも、「人食いバクテリア」に感染した人は増えているのだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:増えているといいますか、われわれの所には重症者が運び込まれてきます。例えば足の色が紫色に変化している、腐ってしまうわけですから、そういう方でやっぱり脚を切り落とさないと生存できない。また、例えば朝、患者さんを診て集中治療室に入りましたが、夕方にはお亡くなりになられたような患者さんもおられます。

■過去最多の理由は「感染対策の緩み」、「インバウンド」

この記事の画像(7枚)

なぜ去年、過去最多になったのだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:実は2019年まではずっと上昇傾向にはありました。ただし、コロナ禍になって、私たちは一生懸命、感染対策をしました。これは普通の感染対策をすると、防ぐことができますけれども、2023年5月8日以降というのは5類になったということで、感染対策が緩んでしまったということが1つ目。もう1つは、インバウンドで海外から毒素が強いものが入ってくるとこうなってしまいます。

海外の話だと思っていたが、関西でも重症化された方がいるということなのか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:そうですね。最初は海外からで、アメリカから出始めて、イギリスで大流行して、人食いバクテリアという言う名前が付きました。もうこれは関西も日本中にもいます。

子どもがよくかかる溶連菌とは別物なのだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:溶連菌は多くの種類があり、同じ溶連菌です。ただし、溶連菌の中には”侵襲”を起こす、侵襲というのは体の深部まで行ってしまう、それと表在、喉だけで終わってしまうっていう非侵襲のものに分かれまして、どちらかというと侵襲のものは少ないポピュレーションですけれども、存在するということです。(Q.毒性が強いということ?)毒性も、いわゆる感染性も強いというのが特徴ですね。

コロナみたいに変異しているけど、怖いバージョンが増えているというわけではないのだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:そういうことですね。例えば今年、溶連菌がものすごく増えました。コロナの感染対策をしていましたが、その間は免疫持たないため増えてしまう。母集団の中の一部にそれがいるわけですから、やっぱり増えてしまうわけです。

■感染経路は「小さな傷口」

この人食いバクテリアの特徴をまとめる。 まずは感染経路だが、手足のなどの切り傷から感染してしまうということだ。

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:大きく2つの感染経路があります。1つが飛沫感染。もう1つが接触感染ということで、この劇症型に関しては、感染経路がわかっているのは傷口から入ってくるというものが1番多いです。(Q.どうやって入るのですか?)飛沫です。例えば、子どもは常に持っていて、その子どもがしゃべる、せきをすると傷口から感染するということです。

例えば、乾燥で唇がわれたり、あかぎれになることがあると思うのだが、このような切り傷からも入ってきてしまうのだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:実は小さな傷口から入るというのは正しいですが、唇に関しては、すごく唾液の中に抗微生物作用のものがたくさんありますので、そういう意味では、なかなか起こしにくいです。もっと言うと、手は洗いますが、足はなかなか洗わないので、足の切り傷からは入りやすいです。

■感染して数時間で壊死が広がる

そして、恐ろしいのが感染してからの進行のスピードの速さだ。

傷口から感染した場合、傷口に赤みや腫れが出た後、発熱や悪寒などの全身症状がでる。その後、皮膚や筋肉周辺の組織の壊死が始まり、最悪の場合、敗血症などで死亡するということだ。

感染してから、1時間に数センチのスピードで壊死が広がるということで、入院するまでに進行してしまう事もあるそうだ。

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:傷口の赤身や腫れというのは、よくあるのですが、この菌の特徴は毒素を出します。トキシンです。これを出すことで、全身症状が引き起こされます。本来ならば局所、例えば足だったら足だけの痛みが、全身に回ってしまうということで、ここで危ないサインが出ます。(Q.どれくらいの時間ですか?)これは数時間です。

例えば口からの飛沫感染の場合で、自分では心当たりのあるような傷がない場合はどのようになるのだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:ここは今まだ解決されてないところで、通常は子どもの溶連菌は喉にくっつくので、口から入ってくることはあります。ただ子どもの場合は、常に暴露されているので、抗体があります。ですから重要なのは、強い菌が入ってきたときの侵入経路。ここがまだまだ分かってないところが多いです。

■初期では気付くことが難しいが、傷口が化膿している場合は抗生物質を

では、どんな症状がでたら注意が必要なのか?

・手足に赤みを持った痛みがある。
・傷口が化膿して熱を持っている。

こういった症状があれば、病院に行った方がいいということだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:本来ならば、これぐらいだと経過を見れば治る症例というのは多いです。これは間違いありません。通常の菌だと、ほっといても治る。ただ化膿した場合には、そこに細菌がいるということですから、抗生物質を飲んだ方がいいという事にはなります。

手足に赤みを持った痛みは結構よくあることだと思うのだが、痛みに何か特徴があるのだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:残念ながら、初期にはわからない。ただ問題は全身症状が出てくる、いわゆるトキシン・毒素が出た時に、全身症状が出た時に初めて気づくということになります(Q.全身症状は触ったら痛いのですか?)触っても、触らなくても痛いみたいです。

全身症状が出てくると疑いが強くなるということは、内科に行けばいいのだろうか?

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:一番は皮膚に病気がある場合は皮膚科、内科どちらでも大丈夫です。(Q.夜間に痛みが出た場合は?)救急に行った方がいいです。腫れていて熱感があると、そこが炎症を起こしているということになりますで、多くの場合はその場合、抗生物質は出されます。抗生物質には非常によく反応してくれます(Q.かかりつけ医でも対応できますか?)これは見た目でわかりますので、大丈夫だと思います。

■注意が必要な人は「免疫力が低い」「傷口がある」

そして特に特に注意が必要な方というのが、

・免疫力が落ちている人
・基礎疾患がある人
・30代以上の人
という事だ。

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:菌の侵襲性があるかないか、その菌が体の深部に入りやすいかどうかというのは、その人の免疫にかかっております。免疫が落ちるような方、例えば一番多いのは糖尿病の方でコントロールがついてない方というのは、そういうふうになりやすいですね。子どもの場合はいつも溶連菌に暴露されているというところがあり、ある程度免疫を持っています。30代以上では特に傷口があって感染される人が出てきます。高齢者になると免疫が落ちた人は注意が必要ということです。

■「けがをしたらすぐ消毒」「傷口にばんそうこう」

予防法は「けがをしたらすぐ消毒」「傷口にばんそうこう」。

関西医科大学付属病院 宮下修行医師:これは当たり前といえば、当たり前なんですけど、放置をしないということ。感染対策で一生懸命、手洗いをしていたことからも、ここからばい菌が入りやすいわけです。消毒して、外敵から守るという行為は、基本になってくるのではないかと思います。

(関西テレビ「newsランナー」2024年1月22日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。