東京・銀座で、デザイン感度の高い次世代のビジネスリーダーを育成しようという、新たな取り組みが始まることになった。
プログラムを手掛けるのは、百貨店の松屋だ。日本を代表する第一線のデザイナー陣などによるレクチャーを通じて、デザインの活用やビジネスでの発想法などを習得できる機会を提供する。
デザイン感度を持った未来のリーダー
ものづくりや小売・サービス業など幅広い分野からの参加を見込み、デザインを用いて事業を創造し、ビジネスアイデアを生み出す能力を培う講座が4月に始まる。

用意されるカリキュラムは大きく3つに分かれる。
ビジネスリーダーに必要とされる基本的な「ビジネススキル」、いまの経営で重視されているデザイン活用の勘所を学ぶ「事業創造でのデザイン活用」、そして、デザインを用いた課題解決や意思決定などの「クリエイティブシンキング」だ。
さらに、グループワークを通じて、実践面での能力に磨きをかける。
売り場を舞台にバイヤーからヒアリング
百貨店がデザインに敏感なビジネス人材の育成に乗り出すという、これまでにない事業だが、学びの場が銀座に設定されることで、幅広い相乗効果が生まれる可能性がある。多くの買い物客や外国人旅行者が集まり、流行や情報の発信拠点でもある東京・銀座は、受講者が、デザインやビジネススキルでの感度を磨くのに大きな意味を持ちそうだ。
実際に、グループワークでは、松屋銀座の売り場を教材にして、商品展開や購買の現場でバイヤーからヒアリングするなどして、リアルな消費動向を体感できるという。

今回講師を務めるのが、日本デザインコミッティーのメンバーたちだ。さまざまなデザイン分野を代表するデザイナーや建築家、評論家などが自発的に参加し、現在30人ほどが参加するこの組織は、設立以来、松屋とともに活動し、プロダクトの選定やデザイン展の開催を積み重ねてきた。
松屋銀座の7階には、メンバーによって選ばれたデザイングッズを販売する売り場が展開されている。
「ものづくり」人材難への危機感
いま百貨店業界は、コロナ禍から経済社会活動が本格的に回復するなかでの、大きな変革期にある一方で、売り場の商材を支える国内の「ものづくり」の現場では、人手不足や後継者難が深刻化しつつある。
松屋がこのプログラムを打ち出すきっかけとなったのも、そうした現状への強い危機感だ。

会見した古屋毅彦社長は、「日本のものづくり産業はさまざまな壁に直面しているが、人手不足や後継者不足の進行は思った以上だ。取引先からは、このままだと裾野が縮み、ものが作れなくなっていくとの声を聞く」と述べたうえで、「海外のラグジュアリーブランドが強いなかで、日本が誇れるものはきちんと価値表現していかなければならない。今回の取り組みは、百貨店事業を強くするメリットにもつながる」と意義を強調した。
デザインを駆使した事業創造に力量を発揮できる次世代リーダーを生み出し、「メイドインジャパン」のものづくりの現場を再構築するとともに、百貨店事業の強化にもつなげていこうという取り組みが、コロナ禍後の小売業界の新たな価値創造のビジネスモデルとなるのか。
東京・銀座で育まれる人材リソースにより、地域のものづくりを第一線でけん引するリーダー層をどのように厚くし、ビジネス環境でのデザインの積極的導入にどのように結び付けていけるかが、今後の展開のカギを握ることになりそうだ。
【執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一】