22日のアメリカ・ジャクソンホールでの講演で、FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、利下げ検討に進む可能性を示唆した。金融市場では、9月の利下げ再開に向け扉を開く発言だとの受け止めが広がり、この日のダウ平均は800ドルを超えて値上がりする急騰となった。
「雇用の下ぶれリスク」への警戒
パウエル議長が強調したのは、雇用悪化をめぐる懸念だ。歴史的な低水準となっている失業率をあげ、労働市場は均衡が取れているように見えるとしながらも、労働者の需要と供給の両方が著しく減速していることから生じる「奇妙なバランス」に過ぎないと説明した。トランプ政権の移民制限政策のもとで、労働需給が引き締まっているように表面上、見えるだけだという見方が背景にある。

そして、「雇用の下振れリスク」が、解雇の急増や失業率の上昇という形で現実化する可能性があると指摘し、リスクの高まりに警戒感を示した。そのうえで、見通しとリスクのバランスが変化した場合「政策スタンスの調整が正当化され得る」と述べ、利下げの検討に着手する可能性を示唆した。
7月時点では「労働市場は底堅い」との認識を示していたパウエル議長だが、8月初めに発表された雇用統計が大幅な減速を示す内容となったことを受け、これまでのスタンスを修正した格好となった。

こうした発言は、「9月にも利下げ再開に踏み切る」として受け止められ、この日のニューヨーク市場の株価を押し上げた。「タカ派」的な発言を警戒していた金融市場には安心感が広がって相場は急騰、ダウ平均株価は800ドルを超える大幅な値上がりとなり、約8か月ぶりに終値としての最高値を更新した。
ホワイトハウスからの利下げ圧力が強まる中で、市場が待望したシグナルが発せられた形だが、トランプ大統領は22日、記者団に対し、パウエル氏の発言について「彼は1年前に利下げすべきだった。遅すぎる」と改めて批判した。
「データ重視のアプローチから逸脱せず」
一方で、パウエル議長はインフレへの警戒を怠らない姿勢を見せている。関税による物価高は一過性のものに終わることが合理的なシナリオだとする一方で、人々のインフレ期待が強まって物価上昇が長期化するケースを念頭に、「物価水準の一時的な上昇が継続的なインフレ問題になることは許さない」と強調した。「短期的にはインフレリスクは上向きに、雇用リスクは下向きに傾いている」と述べ、FRBが、物価と雇用の両方のバランスを取らなければならない「困難な状況」に直面していることを認めた。

「金融政策はあらかじめ決められたコースをたどっているわけではない」としたパウエル議長は、「データの評価と、それが経済見通しとリスクバランスに与える影響のみに基づいて政策を決め、そのアプローチから決して逸脱することはない」と訴えた。あくまでデータに基づき慎重に利下げを判断していくというこれまでの姿勢は崩さなかった。
9月のFOMC(連邦公開市場委員会)は16日~17日に開催され、それまでに8月の雇用統計や消費者物価指数など重要な経済指標の公表が相次ぐ。9月会合で実際に利下げが決定されれば、2024年12月以来、6会合ぶりのこととなる。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)