地震発生から3日目の夜、1月3日に石川県は安否不明者の氏名を公開した。

氏名公表は捜索や救助活動の円滑化を図るためとされるが、これまではプライバシー保護の観点から氏名が公表されないケースもあった。

被災地の石川テレビ・稲垣真一アナウンサーや、災害とメディアについて研究する専修大学・山田健太教授らとともに、今回の地震では公表された実名、それを報道する意義を考える。

実名報道の意義とは

――今回の地震で、安否不明者の方の氏名が公表、報道されました。

フジテレビ報道局・平松秀敏編集長:

これについては長い間、新聞協会、民放連が政府・自治体側に対して訴えかけてきました。

要は安否不明者の氏名を早めに公表することによって、それが迅速な救助活動につながっていくと訴えかけてきた。

自治体側としては「プライバシー保護がある」と、(今までは)公表してこなかったのですが、熱海の土石流被害など氏名公表によってそれがプラスに働くケースが重なってきたため、去年、内閣府が基準を発表し、それを受けて今回の災害では氏名を発表した。

私の印象では、かなり思い切って迅速に自治体が安否不明者の実名を公表したことに、少し驚きました。

お正月期間なのでなおのこと、旅行に行っていたり、違う場所にいるケースが非常に多く考えられる。

早めに安否不明者の氏名を公表することによって「私はここにいるんだよ」という情報を早めに得る方が絶対プラスになると思いますので、その点ではかなり良かったと思います。

専修大学・山田健太教授:
今回の場合、不明者のリストが自治体から割合早めに公表されて、しかもそれがきちんと報道もされたということはとてもよかったと思います。

ただ、一方で特に関連死で亡くなられた方については、名前が公表されないという状況が出始めています。

しかし、「誰が亡くなったか」ということは公共的な基礎情報だと思うんですね。

そういう情報をきちんと社会で共有して、その死を悼む、あるいはこういうことが二度と起きないようにしていくというのは大事なことですから、その人の名前やどういう状況かということをきちんと把握し、社会全体がきちんと理解していくというために報道機関の皆さん方が頑張って取材もしていただきたいと思います。

石川テレビ・稲垣真一アナウンサー
石川テレビ・稲垣真一アナウンサー
この記事の画像(2枚)

石川テレビ・稲垣アナウンサー:
災害関連死の方の名前の公表はやはり、「してほしい」と思っています。

なぜかというと、どういった状況で亡くなったのかが、今後の災害関連死の方を減らすための貴重な情報になるからです。

ある5歳の男の子が発災時にやけどをしてしまい、病院に行っても入院をさせてもらえずに、最終的には亡くなってしまいました。

我々としても取材をしてどのような状況だったのかを聞かないといけない。それを伝えないと、次を減らすことができない。

熊本地震のときの災害関連死は、地震で直接亡くなった方の4倍出ている。

それを考えると、今、石川県内での災害関連死は8人(※1月29日時点、地震での死者238人、うち災害関連死15人)ですが、今後1000人を超えてくる可能性もなきにしもあらずなのです。

石川県民をもう1000人以上亡くしたくない。我々はそういったことを取材して伝えるという思いは知ってほしい。

情報公開は公共的な面でいろいろと問題はあるかもしれませんが、ぜひとも知らせてほしいと思います。

――被災された方への情報、一方で広く知ってもらうための情報。このすみ分けは全国放送では難しいところもあると思います。

平松編集長:
難しいですが、全国放送だからこそできることがあると思います。

先日、避難所をフジテレビのスタッフが取材しました。その避難所では、支援物資がたくさん送られてくるけれど、賞味期限が切れていたり、生ものだったり、要冷蔵のものがあったり、そういうものがたくさん送られてきている。

逆にもらった方が「困る」という情報は、キー局の我々が伝えるべき話だと思う。私たちは「知ってほしい情報」を率先して伝えていきたいと考えています。

フジテレビ・奥寺健アナウンサー:
被災された方の人数や規模は、数字で表現される部分がすごく多いと思いますが、一人一人にとっては全く別個の事情、事象。

一人一人丁寧に取材をすることは、災害の本質を、全ての住民の方に知っていただくための大事なことだと思います。そのためにできることはたくさんある。

稲垣アナウンサー:
今後(震災に関する報道が)長くなってきたときに、少しずつ情報が少なくなっていくとともに、関心が薄れていくということは間違いないと思います。

そういった中でも、私たちは“今こういった状況にはある”ということを、常に地元目線で、きめ細かに情報を伝えていく。

全国のみなさんにも、能登にずっと心を寄せていただく。そういった情報を発信することを心がけながら、継続して取材を続けていきたいと考えています。

(「週刊フジテレビ批評」1月13日放送より
聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)