最大震度7を観測した能登半島地震。

甚大の被害をもたらし、自衛隊、警察、消防関係者などによる懸命な捜索活動が今も行われている。

「震災報道・取材のあり方」について、被災地、石川テレビの稲垣真一アナウンサーや、専修大学で災害とメディアについて研究する山田健太教授らと議論した。

被災地との温度差も…震災報道・取材のあり方

――1月1日午後4時10分頃に地震が発生し、すぐに震災特別番組に切り替わる。フジテレビでは午後9時10分時点で特別編成を解除、バラエティー番組を放送しました。その判断についてのさまざまな意見も寄せられたので、一例をご紹介いたします。

「能登地方の震災に関する特別報道を21時に止めるのはいかがなものか。現地では避難所で不安な思いをしている人たちや帰宅難民の方がいる状況なのに、そういう人たちに情報を提供することを優先するのが、マスコミの本分なのではないか(60代男性)」

一方で、「今、地震のニュースを放送していますが、いつまで繰り返すのでしょうか。私は東日本のときにつらい思いをして、それ以降、地震速報を見ると動悸(どうき)が激しくなり座っているのもできなくなります。多分、何割かの人は似たような経験をしていると思う(匿名)」。

フジテレビ報道局・平松秀敏編集長:
両方とも、ご意見はごもっともだと思います。

当日、私がニュースの責任者としていましたが、午後8時半頃に「大津波警報」から「津波警報」に切り替えられ、その段階でまだ明確な被害(情報)はなかった。

例えば亡くなった方の人数など、被害(情報)が得られていなかったため、午後9時10分に通常の放送に戻ることは、当時の判断として間違っていなかったのではないのか、というのが私の感想です。

石川テレビ・稲垣真一アナウンサー
石川テレビ・稲垣真一アナウンサー
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石川テレビ・稲垣真一​アナウンサー:
情報がない中、元日の中、どこまで(地震のニュースを)やるのかは非常に難しい。石川県以外の地域のみなさんのことを考えると、ちょっと難しかったかなと思います。

石川テレビの対応は、午後9時10分以降もローカルでの報道特番を続け、翌日午前1時までノンストップで続けました。

能登地区在住の記者兼カメラマンさんが石川テレビに一人いるのですが、比較的早く家を飛び出し、家の近くの様子を撮ることができた。

その方とつなぐことができたので、とにかく今、能登で何が起こっているのかわからない中でも、何が起こっているのかということを常に伝え続けました。

――石川テレビは今、通常の放送に戻っているのでしょうか?

稲垣アナウンサー:

午前9時50分から10時50分までのローカルの情報番組を今、報道特別番組に切り替え、被災地からの情報も含めて生活情報、ライフライン情報を中心にお伝えしています(※報道特別番組は1/12で終了)。

また、L字(緊急時にテレビ画面の端に出る字幕情報)は24時間ずっと出ています。

今、自治体ごとにどのような状況で、どのようなところに何をすればいいのか、常に更新しながら放送し続けています。

専修大学・山田健太教授:
アナウンサーのメッセージも、特別編成も、みなさん迷いがあって正解がないと思います。

ただ問題は、正解がなかった場合に、危機感をしっかり伝えて命を守ることにつなげる、それが一番大事なのです。

迷ったら「弱め」より「強め」、「やめる」より「続けた」方がいい。ただし、一方で、情報の更新がないことに関する視聴者のモヤモヤ感もあると思うので、情報の更新がないことにどう対応するのか、今後の課題だと思います。

石川テレビ 秋末械人アナウンサー
石川テレビ 秋末械人アナウンサー

フジテレビ・奥寺健アナウンサー:
発災翌日の緊急特別報道番組での最初の挨拶でアナウンサーが「温かい番組を作っていきたいと思っています」と一言おっしゃった。

番組でなかなかしないコメントだと思ったのですが、何か経緯があったのでしょうか。

稲垣アナウンサー:
前日夜のニュースの反省会で、弊社の報道部門のトップが「これから震災報道は長くなるが、一番気をつけてほしいことを今から言う」と。

「とにかく被災者に寄り添ってくれ」「とにかく被災者に寄り添うことを考えて、取材と放送をしてくれ」と全員の前で訓示を述べました。

その言葉がものすごく響きました。

私たちの取材の方針、これからお伝えしていく番組の方針が全部決まったような気がしました。

彼(「温かい番組を作っていきたいと思っています」と話した秋末アナウンサー)の判断だと思いますが、彼はその「被災者に寄り添う」という言葉を胸に、報道特番の最初の一言はこれで始めたいと思ったんだと思います。

だから、私はそれを聞いた瞬間に「伝わったな」と思いました。

(「週刊フジテレビ批評」1月13日放送より
聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)