甚大な被害をもたらしている能登半島地震。
祈るように救助活動を見守る被災者や、涙する被災者の姿が連日報じられている。
被災地の現実を伝えるために必要な被災者への取材活動について、石川テレビの稲垣真一アナウンサーや専修大学で災害とメディアについて研究する山田健太教授らが語った。
震災報道、取材のあり方について
――震災の取材について、届いた視聴者のご意見を紹介します。
「今、まさに家族が家の下敷きになっているような方にインタビューは控えた方がよろしいのではないでしょうか。そこは被災者の方々の心中を察してあげることはできませんか(50代男性)」
フジテレビ報道局・平松秀敏編集長:
人の顔が見える報道内容が一番、視聴者に伝わると思っています。
これは災害に限らず、事件、事故にしても同じです。そういった人の顔が見える、人の悲しみや怒りを伝えること、訴えかけることによって現地の状況、被災地の状況が一番伝わると考えています。
だから私は被災者の取材、遺族の取材は必要だと思います。
ただ、一方で当然配慮が必要です。格段の配慮をした上で取材して報道する、というスタンスでいますが、私は常々、人の顔が見える報道を心がけたい。
そうすることによって最終的に、被災地や被災者の方に寄り添うことができると私は思います。
専修大学・山田健太教授:
テレビの場合、機材もありますので、行きやすいところに行ってしまうという傾向があるんです。
全局そういう傾向があるということですので、行きやすいところにみんなが集中してしまうと、被災者からすると「また来たのか」という感情につながりやすいというのが一般論としてあると思います。
フジテレビ・奥寺健アナウンサー:
今回も数人のアナウンサーが取材に行って帰ってきて、大きなショックを受けています。
そのショックが何なのか、何を共感し、辛く感じたのか。それを言語化して一度自分の中に落とし込むことによって、客観的な立場で発信できるのではないかと、彼らと話していて思いました。
そこは東京のアナウンサーの難しさでもあり、これから大事なところでもあります。
――石川での取材活動はどのようにされているのでしょうか。
石川テレビ・稲垣アナウンサー:
「温かい番組」「寄り添う」という方針で取材をしていますが、人が亡くなっているため「元気出して」といった一言が、相手を傷つけてしまう可能性もある。
だから「頑張れ」は絶対に言いません。
今の段階では言えないけど、少し心が休まるような話題の時は、ほんの少しだけ優しいトーンで読んでみる、明るい話題を明るく伝えてみるようにしていますが、みんなを元気づけるという段階には正直、まだ至ってないというのが現状です。
過去の震災の経験を生かして
専修大学・山田健太教授:
最近、学生と一緒に東日本大震災の震災12年の報道を全国紙とブロック紙と地元紙で丹念に調べてみたのですが、全く違うんです。
寄り添う報道、寄り添う視点が地元になればなるほど強い。
この“寄り添う”は単に「頑張りましょう」というだけではないのです。どちらかというと全国メディアは、美談になりがち。
「よく支え合っていますね」「頑張っていますね」という美談報道が多いのですが、地元はそういった報道は少ない。どうしたらライフラインが保てるか、あそこに一つ橋がかかった、港が開港した。そういう意味での明るいニュースが地元では多い。
それぞれ役割も違うと思います。フジテレビと石川テレビが役割分担をしながら報道していく。
あるいは東京のメディアや記者はそういった状況はよく認識をしながら、取材報道をしていくことが大事だと思っています。
――東日本大震災の教訓を踏まえて、今回生かされたこともあったと思います。
稲垣アナウンサー:
今、石川テレビにはフジテレビから一人、テレビ熊本から一人、応援でデスクとして来てくださっています。
テレビ熊本の方は、熊本地震を経験しているので、こうなった場合はここを取材しなければならない。この後こうなっていくだろうと、ある程度予測がついているので、非常に大きい。
また、過剰な取材による避難者のみなさんの心のケアという部分から、取材がだんだん断られるといった話も伺っています。
我々取材者を遠ざける、または心ない言葉をかけてくる方も絶対にいらっしゃるはずだと。
でも、それは全くもって正しい心の動きでもあって、我々は取材させていただく立場だから、そこも踏まえていく。
ここからフェーズが変わってくるので、取材についても改めて気をつけていくようにアドバイスも受けています。
2011年の東日本大震災、そして熊本または北海道で大きな地震を受けての取材がありました。そういったノウハウが系列局のみなさん含めて蓄積されているなと、肌で感じています。
――これからの震災報道について山田教授はどう思われますか。
専修大学・山田健太教授:
やはりこれから長いフェーズになっていくわけですので、そのときにどういう形で支援するのがいいのか。特にその中で行政の対応をどうやっていくのかというのが、大きなポイントだと思うんです。
現状を伝えるだけでなくて、そのどこに問題があるのか、その課題をどう解決すればいいのか、そしてどう取材につなげていくのかというのが、一番大きなポイントかなと思っています。
(「週刊フジテレビ批評」1月13日放送より
聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)