この大晦日、中国で新年に向けた習近平国家主席のメッセージが放送された。習主席は経済の堅調ぶりや台湾統一への意欲を改めて強調したほか、国民生活に寄り添う姿勢を見せた。外交にも触れたが、中国が主導する一帯一路の進捗やアメリカとの関係などで、日本に関する話はなかった。国内の安定を全てに優先する姿勢が改めて示された形だ。
この記事の画像(10枚)一方でここ最近、日中双方の外交関係者にそろって興味を持たれるのは、パーティー券で揺れる日本の政界の現状と今後の影響だ。少し前に帰国した際、「まだひと山もふた山もある」(自民党関係者)と淡々と言われたことを思い出す。来年度予算案の審議や4月の補欠選挙などを指したもので、先が読めない要素がまだ多くあるということだろう。
ただ、日本の政権が安定するかどうかは外交にも直結するだけに、その行方が注目されるのはもっともだ。政治は国内も世界も「一寸先は闇」だと思うが、それでも双方にとって重要な二国間関係のひとつであることは間違いない。いまある材料を整理し、今後を展望してみたい。
“器ありき”の中国と“中身重視”の日本
アメリカ・サンフランシスコで11月に行われた日中首脳会談で、両国は「戦略的互恵関係の推進」を再確認した。このときの中国側の発表には「定位」という言葉がある。日本語に訳すと「位置づけ」だが、中国にとってはこの位置づけが重要だという。その国との関係が友好的かどうか、協力できるかどうかをまず定め、そこから全てが始まるからだ。
「中国はトップが大きな方向性を示し、それを下が忖度して具体的な政策に繋げていく」(中国筋)。つまり中国の認識は日本との関係を構築する器が出来た状態で、具体的な中身を入れられるかは今後検討するのだろう。中国側が日本の政治状況に興味を持つことも、関係構築に向けた動きのひとつだとみられる。日本の対中感情の改善は特に気にしていることで、中国側は折に触れて「日本メディアが宣伝する重要性」を指摘してくる。
一方の日本側は「雰囲気は改善に向かうと思うが、個別の案件は見通せない」(複数の外交筋)という声が聞かれる。雰囲気はもとより、問題の具体的な進展を図りたい本音と不安がにじむ。日本の国民感情もそれに近いだろう。
処理水放出に伴う海産物の輸入停止措置の解除、スパイ法違反の疑いで拘束された日本人の即時解放、中国に渡航する際のビザ免除措置などで、こうした問題が前に進まない限り、対中感情が良くなることはないというのは自然だ。
議員外交がその突破口になるという期待もあるが、「自民党の二階元幹事長がパーティー券事件で早い時期の訪中ができなくなったことは痛い」(日中外交筋)との声が聞かれる。二階氏が訪中できれば習主席との会談、懸案の進展と、一気に道が開ける期待があったとみられる。
“見合い”が続くことのデメリット
ある外交筋から、日中関係について「お互いに必要だと分かっているのに、話を切り出せない恋人同士のようなものだ」と例えられたことがある。恋人同士かどうかはともかく、同じアジア人でも常識や考え方が違い、政治レベルではそれぞれ国内の批判を恐れるため、なかなか手を出しにくいということだろう。前述した器が先か、中身が先かの話に加え、日本の政局が不透明なことも、双方が“見合い”となる原因になっている。
先の首脳会談で合意された戦略的互恵関係が具体的な成果に繋がらない場合、両国には当然、落胆や失望が残ることになる。日中関係は今まで、こうした期待と失望の繰り返しで「次第に信頼がなくなり、悪化してきた状態が今になっている」(外交筋)という。
11月の首脳会談で何とか踏みとどまったかにも見えるが「次はもうない」(同)との指摘もあるだけに政府高官レベル、政治家レベル、事務レベルなど、あらゆるレベルでの意思疎通と各種問題の前進、解決が待たれるところだ。
求められる“政治の勇気と決断”
日本の政治は間接的ではあるが国民が総理を選ぶシステムで、民意を反映した政治が行われている。逆に言えば、政治は民意に敏感にならざるを得ない。日本人の反中感情が約9割にのぼる中、選挙というハードルを前にしながら中国との関係を構築していくのは大変な作業だろう。
政治と国民が乖離している中国にその心配はないが、トップの大枠の指示を忖度し、失敗の責任を負いながら具体策を詰める実務もまた困難だ。自民党への逆風が吹き荒れ、政権の危機がささやかれる中で双方の動きが鈍くなるのも無理はない。
ただ、こうしたリスクがあることを踏まえても、日中関係は前に進まなければならない。
何故なら日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとっても日本企業の投資が経済回復に欠かせない現実があるからだ。両国が引っ越しの出来ない永遠の隣人であることは言うまでもない。
「戦略的思考と政治的勇気が問われている」
これは年末に退官した垂前駐日大使が、BSフジのプライムニュース(12月21日放送)で“議員への檄”として力説した言葉だ。
好き嫌いを抜きにして、日本の国益を確保するために敢えて中国と向き合う「戦略と勇気」が今の政治に求められている。
【執筆:FNN北京支局長 山崎文博】