自民党の派閥の政治資金問題を受け、岸田首相が新たに立ち上げる方針を示した「政治改革」の組織に注目が集まっている。

首相「世間が納得しない」 派閥改革にも意欲示すも…

岸田首相は12月25日、政治改革の方向性をめぐり党幹部と協議し、年明けに「信頼回復のための組織」を立ち上げる方針を示した。この場で党幹部からは「政治資金の話と派閥の話は分けて考えたほうがいい」と指摘する声があったが、首相は「世論がそれでは納得しない」として、派閥改革にも着手する可能性を示唆した。さらに、26日には政治資金パーティーの資金の透明化を「必ずやる」と表明した。

改革への意欲は示す岸田首相だが、具体策や全体像は明らかになっていない。ある幹部は「岸田さんはまだ様子を見ている」と話す。

こうした現状に、自民党の若手議員からは「年末年始に地元に戻っても有権者に説明できない。年内に全体像をしっかり示してほしかった」などと、首相の対応の遅さに不満の声が漏れている。

野党が批判を強め、支持率の低下にも歯止めがかからない厳しい情勢にもかかわらず、改革の具体策に踏み込めないのには理由がある。

誰がやる?新組織の詳細をまだ決められぬ事情

理由の一つは、裏金疑惑が浮上している安倍派幹部が実際に起訴されるかどうかや、略式起訴などにより公民権停止になる議員の規模など、捜査の行方がわかっていないためだ。

政権内には、起訴されるのは2、3人で、仮に小規模にとどまれば、大きな改革を打ち出さなくても収束できるとの見立てがある。一方、大規模なものになれば、改革を前面に打ち出さなければならない。ただ、派閥解消などの大きな改革には党内の反発が予想され、岸田首相の党内基盤を揺るがす可能性がある。

そのため、改革をどの程度進めるかの全体像を現時点で打ち出すのは「非常に難しい」(首相周辺)というのが実情だ。

こうした中、新たな組織のトップを誰が務めるかが焦点となっている。

1988年に発覚したリクルート事件の際には、総裁直属機関として設置された「政治改革委員会」の委員長に「カミソリ」の異名をとった“大物”後藤田正晴元内閣官房長官が就任した。

党幹部の1人は、この人選を引き合いに「誰が組織の中核になるのかで首相の政治改革への本気度がわかるだろう」と指摘している。

トップに菅前首相起用案

自民党内には既に「党改革実行本部」という岸田総裁直轄の組織が存在する。茂木敏充幹事長が本部長を務め、旧統一教会問題の際に議員の「行動指針」を議論し取りまとめたのもこの組織だったため、党内には「この組織でやれば良いのでは」との意見もある。

しかし、ある関係者は「岸田首相は、派閥のトップでもある茂木氏が本部長を務める組織ではやりたくないのだろう」と話す。官邸側は、リーダーシップをアピールするため、岸田首相自身が組織のトップに立つことを模索している。ただ、最近まで派閥会長を務めていた首相がトップでは改革の旗印とはなりにくく、インパクトも薄いとの見方もある。

こうした中、党内で、菅義偉前首相を新組織のトップに推す声が上がっている。あるベテラン議員は「無派閥の菅さんこそが改革の有資格者だ」と指摘する。

菅氏は1月、岸田首相が派閥の会長を続けていることに苦言を呈し、大きな話題となったが、首相はこの進言を聞き入れずに派閥にとどまり続けた。しかし今回の問題が起き首相は派閥からの離脱を余儀なくされ、党内では「菅さんの言った通りになった」との声が広がっている。派閥に対して厳しい姿勢を示している菅氏が組織の中心となれば、「世間的なインパクトは大きい」(党関係者)との見方は多い。

ただ、政権内には、菅氏起用は「劇薬」との警戒感もある。派閥解消が現実味を帯びるため、副作用として、「今の党幹部との関係が壊れる」(首相周辺)との懸念があるためだ。

岸田首相を支える麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長はともに派閥のトップで、菅氏と距離を置く。2氏とも派閥解消には否定的で、仮に派閥解消に舵を切れば2氏が離反し政権の基盤を大きく揺るがす可能性がある。そもそも、首相自身が「大の派閥好き」(首相周辺)とされることも、判断に影響しそうだ。

一方で、経験豊富な議長経験者を交えて議論を進める案も上がるなど、新組織の方向性は定まっていないのが現状だ。岸田首相が年明けとなる1月4日に予定される年頭会見で、どのような方針を示すのかが注目される。
(フジテレビ政治部)

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