侍ジャパンの世界一奪還に沸き、かつて無い野球熱の中で開幕したプロ野球。日本シリーズ2023では、阪神タイガースが38年ぶりの日本一を果たし、大阪が熱狂に包まれる中、シーズンは幕を閉じた。
そんな2023年シーズンを、12球団担当記者が独自の目線で球団別に振り返る。今回は、リーグ3連覇を逃し、5位でシーズンを終えたヤクルトスワローズ。
世界一の称号を誇りに臨んだ2023シーズン
3月22日、春先にもかかわらず、日本は今年一番の熱気に包まれていた。
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝。ベースボール誕生の地・アメリカで栗山監督が宙を舞った。
世界一の侍には4人のヤクルト戦士が名を連ねていた。
その内、野手は3人。2022シーズン三冠王・村上宗隆(23)、ヤクルト攻守の要・中村悠平(33)、そしてヤクルトの大看板・山田哲人(31)。
リーグ2連覇の実力に、世界一の経験が加わり、「今年も盤石か」とヤクルトファンは期待感、そして高揚感を持ってシーズン開幕を迎えた。
しかし思惑通り、そして期待通りにいかないのがスポーツ。プロ野球も例外ではなかった…。
この記事の画像(10枚)ヤクルトは開幕から5連勝とスタートダッシュを決めたかと思いきや、4月の終わりには7連敗。
5月には雨中、引き分けなども挟み、14試合もの間、勝利から遠ざかった。
ファンの期待は裏切られることとなったのだ。
歯車が噛み合わないまま、ヤクルトの2023シーズンは終わりを迎えてしまう。
勝ち越した月は7月の1度だけ。6位の中日には勝率でわずかに上回り、かろうじて最下位を回避できたが、シーズン前には「3連覇!今年こそは日本一!」というテーマを掲げ、令和の常勝軍団として快進撃を進めて行くと思われていたヤクルト。その原因はなんだったのだろうか…。
2023シーズンを通して山田哲人は【打率.231 87安打 40打点 14本塁打】とこれまでのキャリアを通しても苦いシーズンとなり、中村悠平は打率.226と去年の.263と比べると物足りない結果に。
そして昨シーズン、数々の記録と記憶を残した村上宗隆は、2022シーズンが【打率.318 安打155 打点134 本塁打56】だったのに対し、2023シーズンは【打率.256 安打127 打点84 本塁打31】。
本塁打は巨人の岡本に次いで2位、打点もリーグ4位など決して悲観する数字ではないが、昨シーズン、神々しく輝いていた“村上様”の姿は、今シーズン影を潜めた。
今シーズン村上に何があったのか。その理由は意外なものだった。
“村上様”の響きが遠く昔に聞こえる今季…
昨シーズン、村上はまさに野球界の主役だった。王貞治さんの日本選手最多ホームラン数を塗り替え、史上最年少での三冠王。いつしか「村上様」とも呼ばれるようになり、2022年の新語・流行語大賞にも選ばれ、2022年を象徴する存在だった。
そして今年のWBCでのサヨナラ打、同点本塁打…、日本の世界一に大貢献。今シーズンはどうなってしまうんだろう…、村上を知る者は誰しもそんな期待を抱いていただろう。
前半戦が終わり、ヤクルトが最下位でもがく中、村上が重い口を開いてくれた。
「僕はバット振るより、トレーニングをして体を作ってバッティングに生かす、というやり方をやっていました。でもWBCで大谷翔平さんや吉田正尚さん、ダルビッシュさんなど、色々な方のトレーニングを見て、僕はこうやった方が良いのかな、もうちょっとこうした方が良いのかなって。色々なところに手を出していくうちに、何が正解か分からなくなってしまった」
世界で活躍する先輩プレイヤーたちに感化され、シーズン直前に新たなトレーニングを取り入れた村上。より高みを目指すためのものだったはずの決断は、今シーズンの村上に大きな歪みを生んでいた。
世界を知る先輩たちとの日々は村上に刺激を与えたが、全てがプラスに働くというわけではなかった。
「(今シーズン)前半戦の調子が悪い時は、どうしても人に頼りたかったり、『頼む打ってくれよ』と思ったり、チームメイトにも『ここで打ってほしい』と思っていました。WBCでは、僕1人の力だけでは勝てないですし、周りにすごい選手がいて、色々な人がカバーしてくれた。そこ(WBC)での気持ちがそのままシーズンに乗り移ってしまった」
そんな姿は本来の村上ではないのは、昨シーズンの活躍を見れば明らか。
「昨季は『俺が打つから良いでしょ』くらいの気持ちだった。そういう気持ちが足りなかったという部分もありますし、もっともっと自分が引っ張って、チームを勝たせるっていう強い気持ちを持ってやるべきだなと改めて思っています」
WBCという舞台でも村上はスーパースターだったが、村上が打てない時は誰かが打ってくれていた。
しかし、ヤクルトでは村上は“代わりがいない存在”。「俺が打てなくても誰かが…」、そんな気持ちも村上の不調に繋がっていたのかもしれない。
「うまくいくことばかりじゃない」来シーズンへの決意
今シーズンもがき苦しんでいた村上は、シーズン途中、ある決断をする。
「(新しいトレーニングを)続けたらどうなるかなっていうのもあるんですけど、自分が元々していたトレーニングに戻して、体の使い方を取り戻すということに僕の中ではなりました」
最終的に自分のあるべき姿に戻ることを決意した村上。
村上自身のことは村上にしか分からない。
村上は大谷ではないし、ダルビッシュでもない。より高みを目指すために、自身の経験で取捨選択をし、もう一度輝くことを決断した。
シーズン後半、復調の兆しを見せた村上はHRを量産。7・8・9月で19本の本塁打を放ち、存在を示した。
シーズン終了後のインタビューで、村上は次のように語ってくれた。
「3連覇を目指してきたシーズンですけど、野球をやっている上でうまくいくことばかりじゃないので、これを経験として来年につなげていくことが大事。来年また優勝を狙います」
辛酸を舐めた今シーズン。これは決して今後の村上宗隆の野球人生においてマイナスになることはない。
まだ23歳。日本球界最高の男がこの困難を乗り越えられないことなど絶対にないのだから。
今シーズンの村上の成績は、【打率.256 本塁打31本 打点84】。
並みの選手なら結果を出したシーズンといっても良い結果だが、村上だから不調だと言われる。
シーズンが終わり村上は自身のSNSで個人成績を記した画面とともに、こんな投稿をしていた。
「お久しぶりです!2023たくさんの応援と叱咤激励ありがとうございました。沈んだら沈んだ分だけ高く飛べる気がします」
今シーズンの不調は、来シーズンの村上様の降臨の下準備、嵐が来る前の静けさなのだろう。
苦しい投手陣、来季の柱は誰になるのか?
大型連敗の要因は、やはり先発投手陣の力不足も大きい。
小川泰弘(33)がチームトップの7勝を挙げているが、新エースとして期待された高橋奎二(26)が4勝7敗、開幕ローテ入りしたルーキの吉村貢司郎(25)が2勝1敗と振るわなかった。
そんな中、ヤクルトは若手投手陣の台頭に期待を寄せる。
しかし奥川恭伸(22)は7月頭に左足首を捻挫して復帰プランが白紙に。左肘のコンディション不良が続いた山下輝(24)は来シーズンに期待を寄せる状況で、元ドラフト1位投手2人は復帰の目処が立っていない。
その他の若手も台頭してくる。
今季途中から先発として登板している25歳の小澤怜史、8月1日にプロ初勝利を挙げた24歳・山野太一の成長に期待を寄せる。
「先発の柱」候補は数多い。高橋の復調、奥川・山下の復活、小澤・山野のさらなる成長それが噛み合えば、ヤクルトは1枚も2枚も上に行けることは間違いない。
さらに今年のドラフトでは投手を中心に獲得。
1位には長身から投げ下ろす角度あるストレート(MAX152キロ)が武器の、専修大学・西舘 昂汰(にしだて・こうた)。
2位には多彩な変化球が武器の、社会人ナンバーワン右腕トヨタ自動車・松本 健吾(まつもと・けんご)。
3位には威力のあるストレートとキレのある変化球が武器の、本格派左腕・石原 勇輝(いしはら・ゆうき)が加入し、1位から3位までが全員投手となった。
新しい風がどこまでヤクルトを底上げできるか、来シーズンの巻き返しをヤクルトファンは信じて疑わない。
(担当:茂木 喜也)