侍ジャパンの世界一奪還に沸き、かつて無い野球熱の中で開幕したプロ野球。日本シリーズ2023では、阪神タイガースが38年ぶりの日本一を果たし、大阪が熱狂に包まれる中、シーズンは幕を閉じた。

そんな2023年シーズンを、12球団担当記者が独自の目線で球団別に振り返る。

今回は、その日本一を果たした阪神。1年間で7回に渡る岡田彰布監督への単独インタビューから、その印象的な言葉と共に振り返る。

結束力で掴んだ38年ぶりの日本一

阪神が日本一を決めた11月5日。第7戦の関西地区の視聴率は世帯38.1%、日本一の瞬間は50%を記録するなど、まさに狂喜乱舞の大騒ぎだった。

リーグ優勝の胴上げ 選手はみんな真ん中だけを見つめていた
リーグ優勝の胴上げ 選手はみんな真ん中だけを見つめていた
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胴上げで宙に5度舞った岡田彰布監督。

選手は全員が宙に舞う指揮官の姿を見て、全員が両手を天に挙げ、万歳をしていた。

時として、胴上げに背を向けてカメラに向けてジャンプする選手を見ることがあるが、今年の阪神タイガースの胴上げは、全員が中央で舞う岡田監督を見つめ喜びをかみしめていた。

この瞬間に、「結束力の強さ」を垣間見た。

岡田監督は球界監督最年長65歳。そして、阪神タイガースは12球団で唯一平成生まれの選手しかいない最も若いチーム。12球団で最も年の差のあるチームがなぜ一丸となり、日本一の栄冠を掴んだのか。

「俺がキャプテンマークつけてもええよ」

2月16日―。春のキャンプが折り返しの時、岡田監督と藤川球児氏の対談が行われていた。

2005年の優勝を共に分かち合った“愛弟子”の藤川氏との対談だったこともあってか、終始リラックスした雰囲気だった。

キャプテンマークを指さす岡田監督
キャプテンマークを指さす岡田監督

藤川氏が「チームに逆境が来た時、どのように立て直し、立ち振る舞いますか?」と質問すると、岡田監督は「みんな若い。まだベテランといえる選手はいない。だからその形ができるまでは俺が引っ張るよ!」と力強く答え、「俺がキャプテンマークつけてもええよ」と“C”のキャプテンマークが刺繍される左胸を指差し、いたずらっぽく笑って答えてくれた。

阪神タイガースを常勝軍団へ導く、“強い覚悟”を持って重責を引き受けたことが、この言葉から感じ取ることができた。

初のキャンプでのインタビュー
初のキャンプでのインタビュー

さらに「監督の戦いでは、俺は負けるつもりはないわ」と自信と自負を口にした。この時、まさに“戦う勝負師の目”をしていた。

その言葉通り、「守り勝つ野球」をベースにした「岡田野球」をチームに浸透させていった岡田監督。さらに、周囲が驚くような采配や選手起用を行うこともあったが、ことごとく采配が的中することは、選手の間でもベンチ裏で語り草になっていたと選手の多くが語ってくれた。

チームが勝利を重ねることで、指揮官と選手の信頼関係は日に日に増していったように見えた。

「俺は初球なんて絶対打たなかった」

12球団トップの494個の四球を選んだ阪神タイガース。岡田監督はシーズン前に年俸査定における四球の評価を上げることを球団に直談判した。

しかし、決して「四球を増やせ」と大号令をかけたわけではなかった。

岡田監督の一言一句に注目が集まった
岡田監督の一言一句に注目が集まった

その心は岡田監督の現役時代からの考えにあった。

6月中旬のインタビューで四球数の増加について話を向けると、次のように答えた。

「俺は初球なんて絶対打たなかった。追い込まれた方が投げるボールの種類は減りますよ。初球もツーストライクもホームベースの大きさ一緒だから怖ないですよ」

現役時代から「初球を打つことをもったいない」と考えていた岡田監督からすると、昨年、スタンドから観る積極性が目立ちすぎる選手の姿が目に付いていた。そのスタイルを少しでも変える一助になるのではと考え、査定を変更した。

選手の練習姿に目を光らす岡田監督
選手の練習姿に目を光らす岡田監督

岡田監督の考えに一番影響されたのは、中野拓夢だろう。

昨年までは初球から超積極的にバットを振っていたが、今年はじっくりボールを見極めることで、四球数は昨季18個から今季は57個に激増した。

中野自身も「気持ちの余裕ができた。今までは追い込まれたくない気持ちが強くて余裕がなくなっていた」と新たな打撃スタイルに納得。結果として、「2番」でチームバッティングに徹しながらもリーグ最多安打のタイトルを獲得することができた。

「あの試合、横田の24番で2-4で勝ってるんよ」

岡田監督の人間味を最も感じた言葉が、この小見出しの言葉だ。

7月25日の巨人戦、脳腫瘍を患い、28歳の若さでこの世を去った元チームメート・横田慎太郎さんの追悼試合。

7月25日横田慎太郎さん追悼試合
7月25日横田慎太郎さん追悼試合

横田慎太郎さんと岡田監督は一緒のチームではプレーしたことはない。だからこそ、追悼試合の話を振っても「普通にやっただけ」と返されるのではと思っていた。

「横田がシナリオ書いたんとちゃうか。そうじゃなきゃ、あんな試合にならんで」

監督の言う通り、なにか不思議な力を感じる試合だった。大山の逆転2ランHRは巨人先発・菅野の変化球が明らかに浮いた一球。横田さんと同期入団の岩貞、岩崎がピンチは作るもゼロで抑えていき2-4で阪神が勝利を決めた。

7月25日ゲームセットの瞬間 天にボールを掲げる選手たち
7月25日ゲームセットの瞬間 天にボールを掲げる選手たち

「あの試合、横田の24番で2-4で勝ってるんよ。8回くらいから思っていたね。ゆかりのある岩貞と岩崎で。横田の背番号で勝つなって」

岡田監督はこの試合で勝ちパターンの岩貞、岩崎(共に横田さんとドラフト同期)をビハインドの場面でも起用することを決めていた。「普通にいつも通りやるだけ」が口癖の岡田監督が、「いつも通り」を崩してでも、この試合に向かった強い思いを感じた。

岡田監督に「普段通りを崩してでも7月25日は大事だったのか?」と聞くと、「いやいや、大事ってそんなん普通でしょ。逆に俺なんとも思っていないですよ」と少し顔をしかめながら答えた。

横田さんの追悼試合の最後を締めた岩崎優
横田さんの追悼試合の最後を締めた岩崎優

「普通」とは「普段通り」ではなく、「当たり前のことを当たり前にする」ということだと感じ、岡田監督の気配りと視野の広さに驚かされた。

「自然とみんながひとつになった。そういうものをあの試合で感じた」と岩崎が言うように、この試合を機に不思議と上手く回るようになり、7月25日から優勝決定まで33勝8敗と神がかった強さで優勝まで突き進んでいった。

横田さんのユニフォームを掲げる岩崎優
横田さんのユニフォームを掲げる岩崎優

9月14日、優勝決定試合の最終回。

岩崎は横田さんの登場曲「栄光の架橋」でマウンドへ。涙を浮かべ大合唱するファンの姿。監督と選手、そしてファンが一体となった瞬間だった。

「楽しくゲームするだけやった。はっきり言って」

「優勝までの道のりを 楽しかった、苦しかったという言葉で表現するなら?」と岡田監督に質問した。

リーグ優勝後の単独インタビュー
リーグ優勝後の単独インタビュー

「今年は楽しかったですね。もう苦しいなんて、ほとんどなかったし、楽しく毎日ゲームするだけやった。はっきりいって。正直な気持ちですね」と笑顔で答えてくれた。

ここまで順調にシーズンを勝ち抜き、日本一になるとは思っていなかっただろう。

2月のキャンプで「選手たちに優勝を味わってほしい」と語っていた岡田監督にとって、“みんなが主役”となりビールかけで選手が喜びを爆発させている姿を見た時は、至福だったに違いない。

岡田監督がグラウンドで選手に話しかけることはほとんどなかった。それでも誰よりも選手の姿に目を向けていた。確固たる指針を示し、ジワジワと考えを浸透させていき、チームは一丸となっていった。

平成生まれの選手たちは、これからが伸び盛りの選手ばかり。岡田監督はこれからも「岡田野球」を浸透させ続ける。

“若虎たち”と“野球を知り尽くした岡田監督”の融合が、阪神タイガースをさらなる常勝軍団へと導いていくだろう。

(文・永沢徹平)

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