侍ジャパンの世界一奪還に沸き、かつて無い野球熱の中で開幕したプロ野球。日本シリーズ2023では、阪神タイガースが38年ぶりの日本一を果たし、大阪が熱狂に包まれた。
そんな2023年シーズンを、12球団担当記者が独自の目線で球団別に振り返る。
今回は18年ぶりのリーグ優勝は逃したものの、昨季5位に低迷しながら2位へと大躍進した千葉ロッテマリーンズ。
2年ぶりのクライマックスシリーズ進出を果たしたロッテは、今シーズン数多くの名試合を繰り広げてきた。担当記者が独断と偏見でベストゲーム上位3試合を選んだ。
第3位:絶対的守護神から放ったサヨナラ弾
【7月24日 vs福岡ソフトバンクホークス】
この一戦は今シーズンのプロ野球ドラマチック・サヨナラ賞でパ・リーグの年間大賞に選ばれる試合となった。
7月24日、相手は11連敗中のソフトバンク。

1点を追いかけるロッテは9回、ソフトバンクの絶対的守護神・オスナ(28)を攻め、1アウト3塁と一打同点の場面。ここで岡大海(32)がピッチャーゴロ。スタートを切っていた3塁ランナーは挟殺プレーの末、最後はオスナが倒れ込みながら執念のスライディングタッチを見せ、2アウト1塁となる。
千葉ロッテに傾きつつあった流れを、断ち切るソフトバンクの絶対的守護神。

正直この時は「メジャーリーグでセーブ王に輝いた男が、チームの連敗を止めるためにここまで必死なプレーを見せるのか」と思わず心を打たれた。2アウト1塁となり、ソフトバンクベンチも白い歯がこぼれる。
担当記者も、ソフトバンクが連敗をストップさせたというニュース原稿の作業にとりかかっていた。敗色濃厚のこの場面で、千葉ロッテは代打・角中勝也(36)を打席に送る。カウント0-1からの2球目。

突如「カーン!」と乾いた打球音が球場に響き、目を向けると打球がライトスタンドへと吸い込まれた。代打・角中の逆転サヨナラツーラン。

野球の面白さ、野球の怖さを感じると共に、今年のロッテの粘り強さを改めて感じさせられた1試合だった。
第2位:“幕張の奇跡” 球史に残る同点アーチ
【10月16日 vs福岡ソフトバンクホークス】
この試合は今シーズン2位に躍進したロッテを象徴する試合となった。
“奇跡は起こった”
クライマックスシリーズ・ファーストステージ第3戦。両チーム無得点のまま迎えた延長10回、ロッテは5番手で登板した澤村拓一(35)がソフトバンク打線に捕まり、3点を奪われ一気に敗戦ムード。それでも選手達は誰一人諦めていなかった。

10回ウラ、先頭の角中勝也が追い込まれながらも粘りに粘って10球目をセンターへ弾き返し出塁、さらに続く荻野貴司(38)が内野安打で2塁1塁に。
一発が出れば同点だと誰もが思うシチューションで、打席には藤岡裕大(30)。初球を振り抜いた当たりはライトスタンドへ一直線、まさかまさかの起死回生同点スリーランとなった。

この時のZOZOマリンスタジアムの熱狂ぶりは、今も担当記者の脳裏に刻まれている。こんな大逆転劇があるのかと仕事を忘れ、スタジアムの空気を楽しんだ。ホームランの余韻冷めやらぬ中、最後は安田尚憲(24)のタイムリーで劇的勝利を飾り、ファイナルステージ進出を決めた。

シーズン終了後、藤岡に同点ホームランを改めて振り返ってもらうと、「打った瞬間入ったなって感じでしたけど、打つ前は本当にめちゃくちゃ集中していて、本当に歓声とか気にせず入り込んでいて、自然とゲッツー打つとかそういうイメージもなくて、長打かHRっていうイメージしかなかった。それがそのまま結果になってよかった。」とゾーンに入っていた模様。
あのホームランは後世に語り継がれるだろう。
第1位:チームの危機的状況を変えた監督の決断
【9月30日 vs埼玉西武ライオンズ】
この試合を勝利していなければBクラスもあり得た試合だった。
シーズン後半、このまま2位以上に入りクライマックスシリーズに進出することは間違いないと思われていたが、9月にまさかの大失速。7連敗を喫するなど大きく負け越しまさかの4位に転落し、クライマックスシリーズ出場も危ぶまれる状況となった。
それでも9月30日、本拠地での西武戦、この日を境にチームの流れが変わる。
延長にもつれた激戦は10回裏、代打・石川慎吾(30)のサヨナラタイムリーで決着を迎えた。もちろん石川のタイムリーがチームを救ったのは間違いないが、劇的勝利の立役者がもう一人居た。

それは9回に5番手としてリリーフ登板した坂本光士郎(29)だ。
4-4の同点で迎えた9回表、ロッテは守護神の益田直也(34)にマウンドを託したものの、先頭の源田壮亮(30)にヒットを許すと、続くバッターは送りバントで1アウト2塁。中村剛也(40)にはストレートのフォアボール、続く渡部健人(24)には暴投と死球を与え、1アウト満塁の大ピンチを招いてしまう。

コントロールが定まらない中、打席にはこの試合2安打を放っている鈴木将平(25)。初球のストレートと2球目のシンカーが明らかなボール球に…。すると一塁ベンチから吉井理人監督が登場。一死満塁の2ボールという状況でピッチャーの交代を告げた。
益田はベンチに下がると、力なく腰を下ろし、頭をタオルで覆って下を向く。

この窮地を任されたのが坂本光士郎(29)だ。2ボールから始まる特殊な状況下の中、鈴木を151キロのストレートで空振り三振に仕留めると、続く外崎修汰(30)も空振り三振に斬って完璧に火消し。
ZOZOマリンスタジアムは今シーズン1番と言っても過言ではない拍手と大歓声に包まれ、ベンチで涙を浮かべていた益田にもガッツポーズが飛び出した。

試合後、吉井監督は「(益田は)あれ以上投げてもストライクは入らないと思った。と説明。(坂本が)うまく抑えてくれましたね」と安堵の表情を浮かべた。
守護神・益田を2ボールから代えた吉井監督の決断がなければAクラス入りはなかったと思う。それくらい大きな1勝を掴み取り、ロッテはここから息を吹き返した。
来季は優勝を決めた試合をベストゲーム第1位に…
今シーズン2位で終えたロッテはまだまだノビシロ十分だ。
投手陣に関しては小島和哉(27)が3年連続規定投球回に到達し、2年ぶりの2桁10勝を挙げた。種市篤暉(25)も自身初の10勝、西野勇士(32)も8勝、佐々木朗希(22)はケガで離脱したものの7勝、先発投手陣に関しては抜群の安定感を誇り、来シーズン更なる上積みが期待される。
野手陣に関しては荻野貴司(38)、角中勝也(36)、石川慎吾(30)、岡大海(32)といったベテラン・中堅の活躍が目立った一方で、藤原恭太(23)、安田尚憲(24)、山口航輝(23)、和田康士朗(24)の若手達は本来のポテンシャルを発揮していない。今シーズン経験を積み、自信を付けた若手達は来シーズンどのような飛躍を遂げるのか。2024年シーズンが今から楽しみで仕方ない。
(文・林浩志)