侍ジャパンの世界一奪還に沸き、かつて無い野球熱の中で開幕したプロ野球。日本シリーズ2023では、阪神タイガースが38年ぶりの日本一を果たし、大阪が熱狂に包まれる中、シーズンは幕を閉じた。

そんな2023年シーズンを、12球団担当記者が独自の目線で球団別に振り返る。

今回は、2年連続でパ・リーグ最下位という記録を残してしまった、新庄剛志監督率いる北海道日本ハムファイターズだ。

本拠地最終戦で見せた希望と決意

2023年9月28日、本拠地最終戦を終えた北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督(51)は、大きく息を吐いた。

ホーム最終戦後にファンへ感謝を伝える新庄剛志監督
ホーム最終戦後にファンへ感謝を伝える新庄剛志監督
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そして、「きょう勝てて本当によかった。選手たちにもう1度大きな拍手をしてやってください」と、新球場“エスコンフィールドHOKKAIDO”を埋め尽くしたファンに語りかけた。

この時点でシーズン59勝目、本拠地31勝目と思い描いていた勝利数には遠く及ばず、すでに2年連続の“逆ブッチギリ”の最下位が確定していた新庄監督。開業から7ヶ月間、“新本拠地”に足を運んだ300万人を超える人たちの声援に少しだけ報いる、感謝を伝える1勝を届けることができたことへの安堵感が伺えた。

特別な1年の始まりと「新時代」というスローガン

「優勝なんて目指しません」と宣言した“BIGBOSS”の就任会見(21年11月)はセンセーショナルだった。しかし22年の秋、就任1年目を終えた新庄監督は、背中にBIGBOSSと書かれたユニフォームを脱ぎ捨て、新庄剛志として2年目に踏み出す決意を表明した。

「2位も6位も一緒。日本一だけを目指してぶれずに戦っていきたい」と、「“アレ”を目指さない」から一転して「頂点へ突き進む」と並々ならぬ覚悟を前面に出した。

それは2023年が日本ハム球団にとって、あえて言わせてもらえば日本プロ野球界にとっても特別な年となると感じていたからに違いない。

2023年は日本ハムが北の大地に移転して20年目、北海道にプロ野球球団が誕生して20年の節目で、球団は“北海道誕生20年”と称して様々な企画を準備。そして、何より歴史的な大イベント、新本拠地スタートが待ち構えていた。

エスコンフィールドHOKKAIDO
エスコンフィールドHOKKAIDO

北海道北広島市に開業する新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を中心とする北海道ボールパークFビレッジがその舞台だ。

新球場の開業は、日本野球機構(NPB)加盟12球団の中では2009年の広島以来となる。この特別な年のチームスローガンは、「新時代 FANS ARE OUR TREASURE」。新時代の到来をファンと共に戦うと誓ったのだ。

WBCの興奮と感動の予感が…

2023年のプロ野球開幕は3月31日だったが、その前日の3月30日、新球場の開業に際し、NPB11球団の承認と選手会の理解を得て、日本ハム主催1試合だけ、1日早く開幕を迎えることが許された。

エスコンフィールドHOKKAIDO開幕セレモニー
エスコンフィールドHOKKAIDO開幕セレモニー

縦16m×横86m、世界最大級といわれる新球場の大型ビジョンにロッカールームが映し出され、選手会長の松本剛(30)がチームメートに声をかけ、1日早い開幕戦の幕が上がった。前年のパ・リーグ首位打者でベストナイン。彼もまた新時代の主役を期待された。

ダルビッシュ有(左)と大谷翔平(右)が描かれたタワーイレブン
ダルビッシュ有(左)と大谷翔平(右)が描かれたタワーイレブン

そして、新球場のレフトスタンドの奥にあるタワー11(イレブン)の壁には、かつて日本ハムに所属していたダルビッシュ有(37)と大谷翔平(29)の姿が描かれていて、WBCの熱も冷めやらぬ中、フォトスポットとして連日賑わいをみせていた。

自身もWBCに出場し、ダルビッシュへの憧れを公言している伊藤大海(26)も当然のように新球場の主役として熱視線を浴びていた。

サキドリくんの取材を受ける松本剛選手(3月27日@エスコンフィールド北海道)
サキドリくんの取材を受ける松本剛選手(3月27日@エスコンフィールド北海道)

そして新時代・新球場の中心選手の重責を担った松本は、打率ランキングこそチームトップのリーグ5位と奮闘したが、昨年4割を超えた得点圏打率は2割6分6厘と、チャンスでの数字を落としてしまった。

伊藤も今季初登板から先発4試合連続で、チームは黒星(自身は3連敗)と不運もあり、序盤で苦しむ。シーズン中盤で“らしさ”を取り戻し7勝は上げたが、ルーキーイヤーから2年続けていた2桁勝利は途絶えてしまった。

試合前にキャッチボールをする伊藤大海投手(9月28日@エスコンF)
試合前にキャッチボールをする伊藤大海投手(9月28日@エスコンF)

松本は、「チームとしても個人としても納得のいく成績を残せなかったのが事実。目標としていた数字(打率3割)には届かなかったし、1年間通してなかなか思うようにいかない日々だった。

来シーズンに向け打撃を鍛え直す。そこに対しての自信はあるし、まだまだ上手くなれると思っている。チームの力不足、選手の力不足は明らかだが、みんなで前を向いて、良いチーム、勝てるチームを一緒に作っていきたい」と、今シーズンを振り返った。

松本同様、期待された伊藤は次のように語っている。

「シーズン序盤は何をやってもうまくいかない、苦しい時期だった。頭では分かっていても身体がついてこないという悔しさと情けなさを痛感した。いつローテーションから外されてもおかしくない状況の中で、自分を信じて起用し続けてくれた監督、コーチ陣に感謝している。

チームとして高みを目指すためにも、自身のレベルアップを図るためにも、来シーズンはメリハリを大事にしていきたい」

期待を集めた“ロマン砲”・トリオ

さらに20代で中軸を任された清宮幸太郎(24)、野村佑希(23)、万波中正(23)のトリオは“ロマン砲”とも名付けられ、新時代の旗手として期待を集めた。

7月2日、ソロHRを打った清宮幸太郎選手
7月2日、ソロHRを打った清宮幸太郎選手

現に新球場・ホーム初白星は清宮の劇的サヨナラ打によってもたらされ、リーグ3連覇を果たすこととなるオリックスを相手に、この三人のホームラン揃い踏みで勝利をもぎ取ることなどもあった。

さらなる活躍をと期待が膨らんだが、ケガで清宮が離脱、開幕4番、本拠地チーム初アーチの野村もついに不振に陥り、ロマンは萎んでしまった。

オールスター選出会見でホームラン宣言をした万波中正選手(6月30日)
オールスター選出会見でホームラン宣言をした万波中正選手(6月30日)

唯一、明るい話題を提供したのが横浜高校から入団5年目の万波だった。

初選出となったオールスターゲームでは、横浜DeNAのトレバー・バウアー(32)の球種予告投球を追い込まれながら打ち砕き、野球ファンを喜ばせてくれた。万波はホームラン王にあと1本と肉薄し、強肩を生かした守備でゴールデングラブ賞を初受賞した。

ただ万波にしても、今季の飛躍よりも、ここぞの踏ん張りが効かず1本差でタイトルを逃した悔しさは拭いきれないはずだ。

今シーズンの自身の成績について、万波はこう振り返った。

9月16日、サヨナラ2ランHRを放つ万波中正選手
9月16日、サヨナラ2ランHRを放つ万波中正選手

「個人的には成長を感じる1年ではあったが、チームを勝たせる活躍はまだまだできていない。来シーズンはもっとチームを引っ張り、勝ちに貢献したい。その思いは日に日に強くなっていっている。

オフシーズンは自身の能力を飛躍的に伸ばしたい。ホームランを打つことで1人でも点をとったり、とにかく塁に出て後ろに繋ぐなど、勝敗に影響力を持つ選手を目指す」

「新時代」の幕開けは“苦渋”の連続

日本ハムの最終成績は60勝82敗1分。繰り返すが2年連続の最下位に終わった。

その中に紙一重を象徴する1つの数字がある。

「17勝31敗」。これは1点差の試合における勝敗数。タラレバの許されない勝負の世界と承知の上で、この数字をひっくり返すことができたなら、日本ハムの最下位はなかった。そして、世界に誇る自慢のホーム、新本拠地での勝敗もまた31勝40敗と大きく負け越してしまった。

今季に限って言えばホームアドバンテージはなかった。

11月5日、秋季キャンプは課題の守備に重点が置かれた
11月5日、秋季キャンプは課題の守備に重点が置かれた

勝利を逃した、僅差をものにできなかった要因を、新庄監督は迷いなく「エラー」と指摘する。

日本ハムの失策(エラー)数は、両リーグ通じて突出するワーストの94。

「プレッシャーのかかる大事な場面でのエラーをなくすことが最大のポイント。エスコンフィールドでの失策がとても多かった。そこを改善すれば必ず(勝敗数が)逆になる」(新庄監督)

守備に重点をおいた秋季キャンプでは、地獄の「アメリカンノック」が行われた
守備に重点をおいた秋季キャンプでは、地獄の「アメリカンノック」が行われた

守備改善を最大の課題としたチームは、これまで沖縄で行っていた秋のキャンプをホーム「エスコンフィールド」で行っている。侍ジャパンメンバーに招集された万波、そして野村はエスコンフィールドから宮崎へ向かった。

「人生で今が一番楽しい」

新庄監督は記者の前でこんな話をしてくれた。

「人生で今が一番楽しいんですよね。監督にさせてもらって、いきなりポーンと優勝もいいけれど、なんかそういう人生って僕はあんまり、正直面白みがないというか、楽しくないというか。

ファンの方たちには本当に申し訳ないけれど、今年最下位、去年も最下位、ここからガーンと一気に上にいくというドラマをすごく楽しみにしているし、僕がそういう人生なんで」

エスコンフィールドHOKKAIDO
エスコンフィールドHOKKAIDO

選手時代の新庄監督が日本ハムにやってきたのが、北海道に移転の2004年、その年は4位で、翌2005年は5位。それが3年目の2006年に、日本ハムは一気に日本一に駆け上がっていった。当時と重ね、新庄監督は選手たちに思いを寄せる。

「(2006年当時の)そういうイメージがあります。この選手たちはその可能性がものすごくある。ファンの方たちとともに頂点を目指したいと思います」

新時代はまだプロローグに過ぎない。面白くなるのはここからだと感じている。

(文・長内陽一)

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