冬が近づくにつれて増える農作物への「獣害」。特にイノシシは「アーバンイノシシ」などと呼ばれ、福岡県内でも市街地に現れることが増えている。市街地への出没を未然に防ぐ猟師。果たしてイノシシを捕ることはできたのか。

“イノシシ駆除”と“YouTube”で生計を立てる猟師に密着

2023年11月10日、北九州市門司区。取材班を出迎えてくれたのは、イノシシ猟師歴4年の石田篤頼さん(49)。アウトドア好きが興じた結果、石田さんは12年働いた会社を辞め、猟に専念することを決断。イノシシを駆除する毎日を過ごしている。

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猟師・石田篤頼さん:
猟で生計立てるのは、厳しいですよ。でもやっぱり「イノシシを捕りたい」「捕獲したい」「地域に貢献したい」というのはあるので…

身長180cmを超える、いかつめな風貌の石田さん。ブルーライトカットの眼鏡を手に取るとパソコンに向かい、始めたのは動画の編集。

石田さんは、猟の様子をカメラで撮影して配信する、いわゆる“狩猟系”YouTuberなのだ。現在、4万人以上の登録者数を抱えていて、広告収入とイノシシ駆除の報奨金で生計を立てている。

猟師3人、猟犬3頭でいざ山の中へ

密着取材初日。石田さんの一日は猟犬の世話から始まる。今回の猟のパートナーに選ばれたのは「アスカ」。

今回のパートナー 猟犬の「アスカ」
今回のパートナー 猟犬の「アスカ」

猟師・石田篤頼さん:
このアスカは「ワンワンワン」って吠えてイノシシを止める。そのときに僕たちが撃つ、この猟芸が素晴らしくいいですね

この日の猟は、イノシシが寝床として好むシダが生い茂る場所に猟犬を放ち、イノシシを起こし撃ち取るというもの。石田さんとアスカの信頼関係が試される。この日は、ほかに2人の猟師、さらにアスカを含む3頭の猟犬でイノシシを狩るという大所帯だった。

午前8時前、いざ出陣。向かったのは自宅から車で15分ほどの山中。石田さんは猟銃と頭部にユーチューブ配信用のカメラ、アスカは防刃ベストを着け山へと入って行った。石田さん、アスカのリードを外し、GPSで行方を追う。

イノシシの寝床、通称「寝屋」
イノシシの寝床、通称「寝屋」

猟師・石田篤頼さん:
シダとか生えてるでしょ。ああいうのがイノシシの「寝屋(ねや)」。イノシシがよく寝ているところなんですよ

イノシシの寝床、通称「寝屋」にアスカを向かわせ、反応がなければ笛で呼び戻す。

猟師・石田篤頼さん:
(GPSを見て)あ、出ないですね。じゃあ、ちょっと戻りましょうか

高低差の激しい山の斜面を駆け回りながら、体力消耗の激しい上り下りを繰り返す。

「はぁー、はぁー、1回(カメラ)切っていい?」と、疲労がピークに達したカメラマンがカメラを置く。すると突然、シダの茂みの中からアスカたちの吠える声が響いた。

石田さんは早速、銃弾を込めて茂みの中へ。イノシシはどこか?

その瞬間、カメラマンと石田さんの間を茶色い塊が通り過ぎた。

猟師・石田篤頼さん:
向こうで吠えてたから、こう構えたら、後ろを通ったでしょ。あんなの初めてですよ

猟師とカメラマンの間という、まさに「死角」を利用して逃げた大きなイノシシ。しかしこの日は、その後4つの山を回るも収穫なしのまま、辺りは暗くなってしまった。

単独狩猟で初の捕獲なるか?

午後6時、失意の中帰宅した一行。この日はイノシシは捕れなかったが、仲間が以前捕獲したイノシシ料理を食べて翌日の猟に備える。

脂がジューシーで歯応えがあり、豚よりも濃厚な味が特徴のイノシシ肉。イノシシの背骨から出汁をとったスパイスカレーが、冷え切った身体を芯から温める。

猟師・石田篤頼さん:
きょうはイノシシに対するアプローチがちょっと雑だったんですよね。もっと慎重に行くべきだったと思う。明日は、そこを改善していきたいと思いますね

密着取材2日目、午前7時。この日は石田さんとアスカ、1人と1匹の単独狩猟となったが、実は石田さんはこれまで、アスカとの単独狩猟で成功したことがないという。「本当に頼むよ!」。アスカに声をかけ、2日目の猟へと出発する。

この日、向かった山は、イノシシによる獣害が数多く報告される山。麓の畑にはイノシシよけのバリケードが設置されている。「絶対捕獲」を心に決め、山に入った石田さん。山の静けさの中で、アスカの鈴の音だけが響き渡る。

その鈴の音が激しく鳴った。と、同時にアスカが吠える。弾を込める石田さん。鳴き声は、傾斜50度はあろうかという斜面の先だ。寝屋を目掛けて一直線で向かう。しかし、捕り逃してしまった。

その後もアスカと共に、シダの茂みの寝屋を往復する石田さん。イノシシの気配に気づいては弾の装填を繰り返す。連日の猟でアスカにも疲れが見え始めている。

突然、「きゃーん!」とアスカの悲鳴が響き、石田さんが銃を構えた。しばらくの間のあと、銃口が火を噴いた。

猟師・石田篤頼さん:
捕りました。よーし、アスカえらい!頑張った!改めて猟犬の大切さ、偉大さがわかりましたね

仕留めたイノシシは体長40cm余り。アスカとコンビを組み、単独狩猟で初めて捕った獲物だった。石田さんはこの日、山に入って初めての笑顔を見せた。

その時、石田さんが何かに気づき、茂みに目をやり再び銃を手に取った。

その視線の先には、仕留めたイノシシの親とみられる、かなりの大きさの個体がいた。こちらに突進してきたが、寸でのところで引き金を引くことはできなかった。

猟師・石田篤頼さん:
結局、子どもをやられたから、仕返しに来たんですよ

子を守ろうとする親の気持ちをひしひしと感じたという石田さん。いただいた命に対する感謝と仕留めきれなかった悔しさを背負いながら、山を降りた。

猟師・石田篤頼さん:
遠くに山が見えるじゃないですか、あの山の中で僕たちのような猟師が活動していると、そういうのをYouTubeを通して知っていただきたい。イノシシの解体は猟仲間に任せて、僕は僕なりのYouTube編集もありますので、こちらをしっかりやっていきたいと思っています

狩猟の魅力を、YouTubeを通して世界中に伝える石田篤頼さん。「獣害を少しでも防ぐため」、山での命をかけた戦いは、きょうも続けられている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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