全国各地で相次ぐクマの出没。「九州では絶滅した」とされているが、福岡の隣県・山口でも多くの目撃情報が寄せられている。九州に残るクマの記録や、山口のクマが関門海峡を泳いで渡る可能性を専門家に聞いた。

山口県では車とクマが衝突する事故も

思わず慌てるクマとの遭遇。秋に入り、これまでにない頻度で東北地方を中心に各地で出没している。

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環境省によると2023年4月から9月までにクマによる被害に遭った人は全国15の道府県で109人と、国の統計開始以来過去最悪のペースとなっている。万が一、クマに遭遇した時は、ゆっくりと後ろに逃げるなどとにかく刺激を与えないことがポイントだという。

福岡の隣県、山口でもクマの出没が相次いでいる。2023年4月からの目撃情報は300件近くにのぼっていて、10月21日には岩国市の国道で走行中の60代男性の車がクマと衝突する事故も発生した。

食欲旺盛で活発に動くクマの出没が、なぜ各地で相次いでいるのか。

「福岡市動物園」安河内清文・動物相談員:
狩猟の対象とせずに「保護してきた」という歴史があって、それにより、いままで少なかったところにはクマが増えている現状がある。森林面積が増えずにクマだけが増えると、どうしても密度が上がって…。エサの少ない場所に押しやられるということで、そういった個体が里山に出てくる

――九州に野生のクマは?

「福岡市動物園」安河内清文・動物相談員:
九州では絶滅したといわれています

過去に目撃情報された九州のクマ

2012年、環境省は九州のツキノワグマの絶滅宣言を出している。九州でクマが絶滅した理由を専門家に聞いた。

宮崎大学 動物生態学・岩本俊孝名誉教授:
はっきりとした絶滅理由は不明です。多分、継続的な森林改変、伐採や狩猟のためだと思われます

九州のクマで記録に残っているのは1941年が最後といわれている。しかし1987年には、大分・豊後大野市で1頭のクマが発見され、猟師が銃で射止めている。

記者リポート(1987年):
イノシシ猟に出た猟師が、クマを射止めました。九州では野生のクマは絶滅したといわれているだけに、このクマの捕獲は関係者に大きな反響を呼んでいます

このほかにも九州では、クマの目撃情報がある。宮崎県と大分県の県境にまたがる祖母・傾山系で目撃した、あるいは痕跡を見つけた…など、いくつか情報はあるが、写真や物的証拠がないため検証は難しいのだ。

本当に九州で野生のクマは絶滅したのか。絶滅論争では「どこで生まれたのか」が重要で、猟師が射止めたこの個体は九州生まれの可能性もあるとされていたが、DNA解析によって2010年「本州から持ち込まれた」と結論付けられた。そして2年後の2012年、環境省が「九州では絶滅した」と宣言したのだ。

現実的にクマは海を渡らない

山口・下関市にも出没しているクマ。海を渡る可能性はあるのか。隣接する北九州市も警戒感を隠せない。

北九州市・武内和久市長:
しっかり歯止めをかける、どういう対策を取れるのか、あるいは現状どうなのか、しっかり目を凝らして対策を検討していきたいなと思っています

山口のクマが関門海峡を泳いで渡る「九州上陸」はあり得るのか。宮崎大学の岩本俊孝名誉教授に聞いたところ「クマは長距離を泳げない。もし1頭がたまたま泳いで海を渡ってもオスとメスが揃わないと繁殖はできない」ということで現実的には考えにくいようだ。

(テレビ西日本)

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