一人暮らしをしている人は、自宅で倒れた時のことを考えたことはあるだろうか。

風邪や体調を壊して寝込んだ際など、一度は「もし今倒れたら…」といったことが頭をよぎったこともあるだろう。

司法書士・太田垣章子さんの著書『あなたが独りで倒れて困ること30 1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)では、「40代、50代の現役世代こそ、倒れたら誰も助けてはくれません」と述べている。

親族から「偏屈者」と呼ばれ関わりが薄くなっていた高齢男性のエピソードから、普段からどのような準備をしておけばいいのか、一部抜粋・再編集して紹介する。

見守りサービス、誰がアラートを受け取る?

ついつい人は、今の元気な自分を基準に考えます。でもある日突然に異変に気が付いて、がんを宣告されるかもしれません。

そこまでの大病でなくても、新型コロナウイルスに感染して、自宅療養になれば心細くもなります。ただの風邪であっても、熱が高くなると「どうやって病院に行こうか…」と考えるでしょう。

今はさまざまな見守りサービスがあります。

シーリングライトが、人の動きを感知するものがあります。電球が24時間つきっぱなし、もしくは一度も点灯していないことでアラートが出るものがあります。湯沸かしポットを一日使用していないと連絡が入る、というものがあります。

ただサービスその全てについて言えることですが、アラートが出ても、それを誰が受けるか、ということが問題です。

だってちゃんとアラートを受け取ってくれる存在がいるなら、別に見守りサービスを利用しなくたって毎日連絡取り合うことができますよね?

1日1回でも連絡を取り合っていたら、最長でも24時間以内に異変を感じることができます。

そうなると見守りサービスは不要になりませんか?今の日本でこういったサービスの基準は、全て「駆け付けてくれる家族がいる」ことが前提です。

週末にもし倒れたら…

子どもがいたとしても(私もそうですが)ひとりっ子で、しかも離れて暮らしていれば、どんなに早く駆け付けたとしても半日くらいはかかってしまいます。

子どもには子どもの生活もあります。そしてどんなに気持ちがあったとしても昔の「サザエさん一家」のようなサポートは難しいはずです。

結婚していようとしていまいと、パートナーや子どもがいようといまいと、今の時代、自分で自分のレスキュー部隊を備えておかなければならないのです。

高齢者になって、もし介護サービスを利用するようになれば、週の何日かはデイサービスに行ったりするようになるでしょうし、部屋に来てサポートをしてもらったりすることにもなります。そうなると体調不良も早く察知してもらえます。

問題はまだまだお仕事している、現役世代ではないでしょうか?

休日に体調不良になったら…?(画像:イメージ)
休日に体調不良になったら…?(画像:イメージ)
この記事の画像(5枚)

私の悪い癖は、休みの前日に熱を出すことです(笑)。ぎりぎりまで頑張って、明日休みだ、と気が緩むと一気に体調不良となります。

そうなると仕事場のメンバーも分かりません。平日の出勤日なら、出社しない私を心配してくれるでしょう。でも週末となれば、気付きようがないのです。

そこで不安になったことが何度もあります。体調不良になると、急に弱気になっていろいろと思案し出すのです。

私の住んでいるマンションは、エントランスがオートロックになっています。

もし熱どころではなく、もっとひどい不調で救急車を呼んだ場合、私の意識が救急隊到着まで持つとは限りません。あったとしてもインターホンまで行ってエントランスのロックの解除ができるとも限りません。

そうなると自分がロックの解除をするなどの動ける余裕がある時以外、救急隊の方々には迷惑をかけるのだなあということに気が付きました。

さらに、この問題をクリアにするなら、24時間コンシェルジュがいるようなマンションに住むとか、誰かが異変に気付いてくれるような共同生活的な環境を選択するとか、何かしら住む場所を変えた方がいいのかもと真剣に考えてしまいました。

“偏屈者”の高齢男性が亡くなってすぐに発見された理由

ひとり住まいなら、50代から万が一の時のサポートをしてくれる存在を準備しておくのも必要なのかもと思います。

「まだ早い!」という声も聞こえてきそうですが、安心を買うということを、これからの時代、高齢者だけでなくもっと若い世代が意識する必要がありそうです。

偏屈な性格で、親族と没交渉だった叔父さんが亡くなり、めいっ子さんからその後の片付けを依頼されたことがありました。

その叔父さんは、畠山さん(仮名・76歳)といいます。畠山さんは東京の外れにある公営住宅に住んでいました。一族からは「偏屈者」と呼ばれ、畠山さんからも親族の誰ともコンタクトを取ってはいませんでした。

ところが畠山さん、亡くなってすぐに発見されたのです。親族からは、あれほど煙たがられていたのに、です。

高齢男性が暮らす公営住宅では毎日顔を合わせることがルールに(画像:イメージ)
高齢男性が暮らす公営住宅では毎日顔を合わせることがルールに(画像:イメージ)

理由は簡単でした。公営住宅には同じ年ごろの方々がたくさん住んでいて、畠山さんは毎日のようにその人たちと朝食を共にしていたからです。

他愛もないことをしゃべりながら、コーヒーを飲んだり、パンを食べたり。それぞれその日の気分で各人が思い思いに過ごしていました。時間も縛りはありません。ただ公営住宅横の喫茶店で、9時以降に顔を合わせていたようです。

「しゃべりたくない日は、それで良いの。そんな日は、隣のテーブルでしゃべらずに食べれば良い。とにかく自由なの!ただ毎日顔だけは合わせようっていうのが、私たちのルールでした」

そう教えてくれたのは、畠山さんの異変に、いち早く気が付いた向かいの部屋に住んでいる貴子さん(仮名・67歳)でした。

「畠山さんはきちょうめんでね。雨降って使った傘を、いつも玄関のところに広げて干していて。しっかり数時間で片付ける人なのよ。出しっぱなしにしないの。

それがさ、その日は夜もそのままで、朝になっても片付けてなくて。こりゃ大変だってベル鳴らしても反応ないから、すぐに管理人さんに連絡したら…。

人って、こんなにも簡単に亡くなることもあるんだなって思ったわ。だって前日の朝には、いつものように一緒にモーニングをしたのよ」

畠山さんは、持病で腎臓が悪かったようで、定期的に病院にも通院していました。服用していた薬もあったようです。最終的には心筋梗塞でなくなりました。

気付いたときが備えるとき

こだわりの強いところもある性格でしたが、仲間たちは別に家族ではないから、深く関わり合うわけじゃないし、さしてその「偏屈」も気にならなかったと口々に語っていました。

この先、誰がどうなるか分からない。だからこの付かず離れずの関係性が、ひとり住まいには心強いともみなさん話してくださいました。

後日談ではありますが、この畠山さん、株の投資をかなりやっていて、4千万くらいの資産がありました。独身だったので、相続人は兄弟姉妹です。

残念ながら遺言書がなかったので、「偏屈者」と言って長年まったく関わっていなかった親族に遺産は分配されていきました。

遺言書がなかったために遺産は疎遠になっていた親族に分配された(画像:イメージ)
遺言書がなかったために遺産は疎遠になっていた親族に分配された(画像:イメージ)

毎日笑って朝食を食べていた仲間に渡すつもりはなかったのかな、それとも拒否されても親族をどこか求めていたのかな、あるいはそもそも遺言書を書くという認識がなかったのかな…。

いろいろと考えてしまいましたが、今となれば畠山さんの真意は誰にも分かりません。

それでも部屋は、男性のひとり住まいにすれば片付いていて、通帳や手帳等もひとまとめにしてあって、遺産整理をする者とすれば非常に助かりました。

もしかしたら持病もあったので、ご自身が亡くなる時のことを考えていたのかもしれません。そう思ってしまうほど、部屋は整理整頓されていました。荷物は業者に片付けてもらい、公営住宅には解約の書面を出して終了です。

仮に今夫婦2人で住んでいたとしても、同時に亡くなることはほとんどありません。片方が認知症になってしまったり入院してしまえば、もう一人はその瞬間から「おひとりさま」なのです。

もし子どもが居たとしても、『サザエさん』一家状態でないなら、頼ると言っても限界があるでしょう。

今の高齢者と、今の40代50代が高齢者になる時代では、大きく状況は違ってくるのです。生まれてくる時は自分ではコントロールできませんが、死ぬときのことや倒れる時のこと、誰かのサポートが必要なことは想像できるし、それに対して自分で備えることは可能です。

いつまでも元気で万全はありません。若いうちから備えておいても、早すぎるということはありません。気が付いた時が、備えるスタートだと思いましょう。

『あなたが独りで倒れて困ること30 1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)

太田垣章子
OAG司法書士法人 代表司法書士。これまで延べ3000件近く家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』『不動産大異変』(すべてポプラ社新著)などがある

太田垣章子
太田垣章子

OAG司法書士法人 代表司法書士。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。住まいという観点から「人生100年時代における家族に頼らないおひとりさま終活」支援にも活動の場を広げている。また「現代ビジネス」をはじめ各種媒体に寄稿、「日経xwoman」のアンバサダーに就任するなど、情報発信にも力を入れている。さらに、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」や、おひとりさま・高齢者に向けて「終活」に関する講演も行っている。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』『不動産大異変』(すべてポプラ社)、共著に『家族に頼らない おひとりさまの終活』(ビジネス教育出版社)がある