病院に入院することになったとき、「身元保証人」になってくれる人はいるだろうか。
「元気になって退院できるとは限らないのが入院」と言うのは、司法書士・太田垣章子さん。
著書『あなたが独りで倒れて困ること30 1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)では、「おひとりさま」になったときに起こりうるリスクとその対策をまとめている。
本著を一部抜粋・再編集して紹介していく。
突然の入院!誰が手続きを…?
老人ホームに入所するなら、身元保証人が必要ってことは分かります。でも入院するにも必要なんです。
人は入院する時に、当然元気になって退院することをイメージしています。でも退院せずにそのまま亡くなってしまう、ということもあるんですよね。
私の話で恐縮ですが、以前、かなり長い期間体調が悪く、それでも休めず、今から考えたら本当に身体を酷使していた時がありました。
そんなある日、仕事に行くつもりで朝起きたら、40度近い熱が出ていました。さすがにこの状態で仕事に行けず、そもそもこの発熱って何が原因なの?と不安にもなり…。
たまたま同級生が病院で麻酔科医をしていたので、彼女に何科に行けばいいのかと軽い気持ちで連絡したら、「すぐにタクシーに乗って、病院に来い。救急外来に連絡しておくから」と。さらに「のんびりしている場合じゃない」と脅され、お金を握りしめてタクシーに乗りました。
救急外来では何人もの医師たちに囲まれ、質問される間に、どんどん検査が始まります。正直すごいなあ~なんて感動したものです。
そこで即入院の結果が。「あぁ、入院なんだ、仕事できないな」なんて思いつつ、自宅で不安なままいるより、友だちの勤務している病院なら安心だわなんて気軽に考えていました。
そこで、です!
さて部屋に入って、誰が入院の手続きをするのか、ということになったのです。
当時私の息子は海外にいて、その他の家族である姉とはあまり交流もなく。でも病院としたら、それでは困るんですよね。
頼れる「身元保証人」はいますか?
そりゃそうですよね。ここで万が一のことがあれば、病院だって困ります。入院する際には、やはりすぐに対応してくれる「身元保証人」が必要なんです。
そこまで重病ではなかったことと、同級生がいるということで、その時は特別に退院時に入院の手続きを自分がするという便宜を図ってもらえました。でもこれは、病院側からしたら、はた迷惑な話。反省することしきりでした。
そしてそれ以来、自分が入院する、という時にでもやはり家族に迷惑をかけてしまうのだな、という思いが頭に刻み込まれました。
皆さんは、ご自分が入院するとなった時、誰が入院の手続きをしてくれますか?

結婚していなくても、一緒に住んでいるパートナーとか長くお付き合いをしている人とか、そういった人をイメージされる方もいるかもしれません。でも自分が入院する際、そのパートナーがすでに認知症になっていたり、手続きできない状況になっているという可能性もあるのです。
昔はもう少し緩い扱いを病院側もしていたのでしょうが、万が一の時に家族が対応してくれないとか、入院費を払ってもらえないということが増え、結果どんどん厳しくなっているようです。
もちろん救急車で深刻な状態で運ばれたら、病院だって「身元保証人がいるのかな」なんて考えずに、全力で対応してくれます。この場合は病院の事務局が、患者のお身内とかを探していくのでしょう。
日本は戸籍がありますから、自分では何年も会っていないような人にまで、連絡がいく可能性もあります。
「今」から託せる人を決めておこう
そんなことを考えると、自分の「身元保証人」を自分で決めておく必要性は分かってもらえると思います。
今は子どもの人数も少なくなったり、近くに住んでいなかったり、そもそも頼れるような関係性ではないという人もたくさんいます。
この先、一度も入院することなく亡くなることは、一般的にはほとんどないでしょう。だからこそ今から決めて託しておきたいものです。
また入院だけではありません。

たとえばひとりでいる時に、転んで頭を打つとします。頭から大量の血が出て、自分は気が動転するし、頭のけがって血がたくさん出るし、何か深刻なことになったらと、ちょっと怖いですよね。そこで善意で、救急車を呼んでくれたとします。
救急隊は処置をしながら、受け入れ病院を探してくれるのでしょうが、その際に必要な情報として聞かれるのは、もし入院にならなかった場合、自分ひとりでちゃんと家に戻れるかどうかということ。
誰かが一緒に救急車に乗り、帰りも連れて帰ってくれるなら問題ありません。そうではなくて、治療後にひとりで帰れないとしたら、病院は大変なことになってしまいます。
だから神経質になるのでしょうね。なかなか受け入れを認めてくれないのです。
きっとここに至るまで、ひとりで帰れない人がたくさんいて、病院側も対応に苦慮した経験があるのだろうなと推測してしまいます。
もちろんここでも、生死にかかわるような場合には、どのような状況でも受け入れるのでしょう。ただ誰かサポートしてくれる人がいなければ、救急車で運んでもらうことも大変なんだということは知っておきましょう。

太田垣章子
OAG司法書士法人 代表司法書士。これまで延べ3000件近く家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』『不動産大異変』(すべてポプラ社新著)などがある