いま国会で熱い議論が行われている「ライドシェア」。昨今街中でタクシーを拾うのが難しくなったと言われる中、岸田首相は所信表明演説で「ライドシェアの課題に取り組む」と導入の検討を表明している。

「ライドシェアの課題に取り組む」岸田首相の所信表明演説
「ライドシェアの課題に取り組む」岸田首相の所信表明演説
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しかしライドシェア導入への期待感が高まる一方で慎重な声も大きい。国会でこの問題を取り上げた小泉進次郎元環境相にインタビューした。

小泉進次郎氏「いま世の中は移動で困っている」

10月27日の衆議院予算委員会。質問に立った小泉氏は「いま世の中の皆さんは移動で困っている」と述べ、タクシー業界の規制緩和とライドシェア導入について岸田首相に見解をきいた。

タクシーのドライバーの数はいま、コロナ前の約29万人から2割減り約23万人になっている。6万人のドライバーが減った一方で、コロナ明けで外国人観光客やビジネスの往来が急増。国民のタクシーへの不足感は高まっている。

「いま世の中は移動で困っている」質問に立つ小泉進次郎元環境相
「いま世の中は移動で困っている」質問に立つ小泉進次郎元環境相

ではドライバーを増やすために何をするべきか。

小泉氏はタクシーに対する不足感解消のために、タクシー業界の規制緩和を訴えた。小泉氏が主張するのはタクシーを運転するために必要な普通二種免許の規制改革だ。現在二種免許は教習所で取得するのに8日もかかり、二種免許取得の障壁の1つとなっている。

ライドシェア推進派でなくタクシーとの共存派だ

インタビューの冒頭、タクシーの規制改革について聞くと小泉氏はこう語り始めた。

「8日間の二種免許の講習の中で、実車は1日3時間までしかない。それを4時間にすれば、8日を6日に短縮できます。短縮を認めない警察の理由は疲労度の蓄積です。でもよく考えれば、3時間以上乗ったら疲れてしまうドライバーさんは、タクシードライバーとして不適格ですよね。だから、そもそも成り立たない理屈によって8日間になっているんです」

「私はタクシーとライドシェアの共存派だ」
「私はタクシーとライドシェアの共存派だ」

小泉氏は自身をライドシェアの推進派ではなく、タクシーとライドシェアの共存派だと強調する。

「ライドシェアだけの世の中になるのではなく、タクシーは引き続きあるし、タクシーをいま以上に増やすための規制緩和をやるのです。一方でタクシーだけでは賄えない需要を満たし、新たな需要を創出するためにライドシェアも選択肢の1つにする」

タクシーもライドシェアもリスクはゼロでない

ライドシェア導入への慎重派や反対派が理由として挙げるのが安全性だ。これについて聞くと小泉氏は「もしライドシェアは不安だという方がいたら、タクシーに乗ればいいのです」という。

「大事なことはタクシーか?ライドシェアか?ではなく、タクシーもライドシェアもあるということです。実際にアメリカやオーストラリアではタクシーもライドシェアも共存します。ライドシェアを導入した国で、ライドシェアだけになった国はありません。そこが誤解されていると思います」

そして小泉氏は“安全性”についてこう続けた。

「もう一つ大事なことは、タクシーもライドシェアもリスクがゼロではないということです。タクシーにも事故はありますし、タクシーのドライバーさんによる事件もあれば、タクシーの利用者による事件もある。ですから最近安全性についての議論が特に反対派、慎重派の方々から出ますけど、建設的な議論にならないと思いますね」

反対派は違いをもう少し理解してほしい

タクシー業界では、営業所で出庫前と帰庫後にドライバーの呼気点検や本人確認が行われている。また毎日車両の点検が行われるほか、3か月定期点検や毎年の車検もある。慎重派や反対派は、ライドシェアがタクシーと同様の安全対策が可能なのかと疑問を呈している。これに対して小泉氏はこう強調する。

「ライドシェアが運行や車両、ドライバーさんの健康状態をどのようにチェックしていくか。まずは義務付けることです。たとえばオーストラリアではアプリによって12時間を超えると運転ができなくなるという形で安全な運行管理をしています。車検や保険、ドライブレコーダーの設置も義務付ければいいと思います」

世界ではライドシェア市場が拡大している(画像:イメージ)
世界ではライドシェア市場が拡大している(画像:イメージ)

そして小泉氏は反対派に対して「タクシーとライドシェアは違うことを、もう少し理解してほしい」という。

「例えばタクシーは流しをとめられるが、ライドシェアはできない。タクシーはアプリを使えなくても電話で呼べる。タクシーの料金は定額制ですが、ライドシェアは日時や天候、混み具合によって料金が変わる。もしそれが嫌だったらタクシーに乗ればいい。反対する人の理屈で一番ひどかったのは、『ライドシェアなんてよくわからんけどダメだ』と。ダメなのはいいけど、わかる努力を少しはした上でダメと言ってほしいですね」

ライドシェア導入は二段階で進める

今後ライドシェアは本格的な議論が始まる。小泉氏は「政治の世界で本格的な議論が必要だと言ったら、法律も含めた制度設計やろうということです」と語る。

「ライドシェアを導入するかしないかという議論ではなく、どういう制度によって日本は導入するかです。これからのポイントは、二段階で進めることです。まずは現行法で最大限やるのが第一段階。法改正、もしくは新法が第二段階です。法改正をしないと本格的なライドシェアの実装はできない。一方で交通の不便と不満を解消するためには、最速で世の中を変える選択肢は何かを考えることです」

「議論はライドシェアをどういう制度によって導入するかだ」
「議論はライドシェアをどういう制度によって導入するかだ」

では現行法の中でライドシェアの導入は可能なのか。小泉氏は「私も安易なライドシェアには断固反対です」という。

「安易なライドシェアとは、保険の加入義務もない、安全な運行管理の責任主体が不明確、または置かないケースです。そうすると1つの答えとして出てくるのは、道路運送法78条2号、3号を最大限柔軟に運用することです。これなら最速で実現できる」

人生百年時代にこそライドシェアが必要

最後に小泉氏は人生百年時代にこそライドシェアが必要だと語る。

「定年後、または年齢を問わず健康であって働きたいと思う人が、自分の働きたい時に一定の収入がある形で働ける選択肢を持つ。そうした経済社会を作る、広く見ればシェアリングエコノミーをもっと広げていくというのが大事です。そのための1つの分野というのが、ライドシェアだと思いますね」

ライドシェアをめぐっては、小泉氏ら超党派の国会議員が勉強会を立ち上げ、導入に向けた方策を検討していく。果たしてどのようにライドシェアは導入されるのか、目が離せない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。