サッカーJ2は12日に今季最終節が行われる。町田が優勝を手にした今、J1自動昇格の切符は残り1枚。こうした中、2位・清水エスパルスと3位・ジュビロ磐田及び4位・東京Vの勝ち点差はわずかに1。最後に笑うのは誰か。

スタートダッシュに失敗した2023年

2月に開幕したサッカー・J2もいよいよ残すところ1試合。エスパルスは勝てば文句なしでJ1昇格の2位で最終節を迎える。

振り返れば秋葉忠宏 監督が就任した時点では7試合を終えての勝ち点がわずか5。エスパルスにとってシーズン途中での指揮官交代は5年連続で、1試合平均で勝ち点2を獲得するという目標には到底及ばない状態だった。

監督交代で息を吹き返す

ただ、チームの再建を託された熱血漢は「これまで成し遂げられなかったことに挑む」と意気込み、就任直後の第8節で今季リーグ戦初勝利をあげると、この試合も含めて8試合で6勝2分と波に乗り始める。

「超攻撃的」「超アグレッシブ」を御旗に掲げ、得点総数は首位・町田を上回る77。夏場にはクラブ記録となる14試合連続で負けなし(9勝5分)とさらに調子を上げ、自動昇格圏内となる2位に浮上。

その後、第37節で藤枝MYFCに敗れたことで一度は3位に後退するも、第38節でジュビロ磐田との“元祖静岡ダービー”を制して再び自動昇格圏内に入り、そのまま2位をキープしている。

対するは指揮官がかつて率いた水戸

最終節で激突する水戸は開幕戦で相見えた相手。そして、奇しくも秋葉監督がかつて率いたチームだ。

敵将の濱崎監督とは一緒にチームを作り上げてきただろうし、選手の特徴も十分に把握しているだろう。だからこそ、スカウト担当に十二分なほど情報提供できたのは間違いない。

一方で、エスパルスが警戒すべきは第40節の熊本戦での失点に象徴されるように己の心の緩みや隙だ。だが、それはこの試合で十分にインプットできたはず。

秋葉監督の言う「凡事徹底」で選手の心を落ち着かせたことで、前節の大宮戦は4ゴールの大勝、それも無失点だったにも関わらず、乾貴士 選手は細かなミスをチェックするなど、これまでの負けパターンを回避すべくチーム内で危機意識が共有されている。

決戦を前に、北川航也選手は2016年のJ2最終節、アウェーでの徳島戦を思い起こすという。その日、バスを降りるとゴール裏に詰めかけたたくさんのサポーターの姿があった。想像を超える光景に「昇格決まったな」と直感するとともに、「ゴールを決めなければ」と誓ったそうだ。

水戸戦は約1万席のチケットが既に売り切れ。水戸のホームゲームが完売となるのは今季初めてのことだ。それゆえにスタジアムはどれだけのオレンジサポーターで埋まるのだろうか。もしかすると、ホームを思わせるほどになるのかもしれない。

とはいえ、油断は大敵だ。

「This is Football!」

秋葉監督は8月、ホームの町田戦で0対2から大逆転勝利を収めた後、こう叫んだ。

「これだからフットボールはやめられない」とも。

そう、サッカーの試合は終了の笛が鳴るまで何が起こるかわからない。

エスパルス以外に自動昇格の可能性が残されているのは3位・ジュビロと4位・東京V。ジュビロは栃木と、東京Vは大宮と、いずれもアウェーで対戦する。エスパルス戦も含めて、3試合とも12日午後1時にキックオフを迎える。

秋葉監督「歴史の一部になりたい」

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-いよいよ最終節を迎える
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
いつも言うが、奇抜なこととか、奇天烈なことをしても仕方がないし、もっと言えば来年以降のことにつながると思うので、少しでも精度が上がるとか、完成度を高めるとかを目指しながら、そこに向けて何回も繰り返すから積み上がる。次は最後ではなく、来年と思っている。

-今週も「凡事徹底」か
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
そう。それが、うちのクラブ・選手に足りなかったことだと思う。それが2週間、3週間、1カ月と続き、さらに3カ月、半年、1年、現役終わるまでと続ける。

三浦知良 選手はそれを30年、40年続けたからまだ現役でいられると思う。これを長くできる選手が一流でいられると思う。忍耐強さとか、我慢強さとか含め、特に「嫌なこと」を徹底してやれるかどうか。誰でも好きなことはやる。苦しいこと、走ること、寄せることが大事になる。

あと1週間だがここで終わりじゃないので、現役を続ける限り「凡事徹底」できる選手になって欲しい。

-「凡事徹底」に必要性に気づいたのはいつ?
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
最初から来て思っていた(笑)戦力でも、資金力でも、施設でも、サポーターの数でもないと思っていた。

何かあるとすれば「忍耐強さ」の不足。すぐ矢印を別の方向に向けてしまったり、いろんな不満が出てくるのを含めて、上手くいかない時に初めて人間の真価が問われる。そうした時にどういう振る舞いができるか、どういうメンタリティーでいられるかが大事。その意味で、勝てなかった今季はじめにはとても必要だとそう思っていた。

-大宮戦後に2日間のオフをはさんだが選手は
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
乾は日本シリーズ関西対決を対戦楽しんだらしい。(阪神ファンのため)パワーをもらったんじゃないかと思うし(笑)

鈴木義は家族と会いに帰り、充実したオフを過ごした顔で戻ってきた。残り少ないトレーニングで最高の準備をして42回目のゲームに臨む。そこの練度や充実度、集中度も上がっていると思う。

今日の掃除もいい顔で率先してやってくれていた。素晴らしい選手たちなので、そうしたもので、ちょっとした運も回ってくるし、人としての成長も止まらないと思うので、地に足をつけておごることなくしっかりとやり続けることが大事。

人として尊敬できるとか、皆が応援したくなるような、プレーヤー以前の人間性は大事。外国人選手も雑巾がけしている(笑)このクラブのエンブレムのもと、国籍問わず1つの物事に向かうのは大事、非常にいい光景だった。

-今日の練習はクロスを意識していたが
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
大宮戦で成果を得ることができたし、水戸はクロスの失点が多いことがわかっている。

もちろん3大得点パターンの1つなのだが、外からはより質の高いボールを入れられるように、中ではミートする技術を高められるようにとメニューに選んだ。どこに、どのように蹴るか、各選手とも、より集中力を高く保ちながら反復して練習できた。

-リバイブ(エスパルスの応援歌の1つ)のことを知っているようだが
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
チームにはアカデミー出身者もいるし、西山副務は子供の時から「市川コーチの引退試合も見た」というくらいで、竹内選手は「サポーターだった」と言うし、スタジアムで何度か歌ってくれていたことで情報は入っている。

特別な時にしか歌わない歌なので、最後まで歌ってくれていてその気持ちを感じた。あの歌を歌ってくれた町田戦は勝てたし、大宮戦ではサンタナ選手が幸先よく取れたので、パワー・力のある歌だなと。

また、我々のクラブ内には「サポーター」がいる。これは歴史のあるクラブのこと、子供のころから見てくれていた人が働いている。本当に嬉しい。歴史を紡いで皆に愛されるクラブになる。エンブエムを背負うことで自分たちも歴史の一部になりたいと思うし、それをいい方向に向かわせたい。今までやってきた人たちの思いや実績に報いられるように取り組みたい。

乾選手「勝ってみんなで喜びたい」

清水エスパルス・乾貴士 選手:
次の試合、しっかり得点を取れるようにしたい。ボールを奪われることに注意しなければいけない。熊本戦、大宮戦でも何度か悪い奪われ方をした。そこは反省点。相手はしっかり前から奪いに来るので正確に回すことが重要。

今年は開幕直後に監督が代わった。秋葉監督は選手との距離が近く、スペイン時代もそんな監督がやり易かった。リスペクトした上で選手と指導者が互いに意見を言い合う、そんなチームになった。

その中でもなかなか勝ち切れないことがあり、ここまでやって来れたのはみんなが必死にやってきたからだと思うし、もちろんサポーターの後押しもある。

どこまで成長したかはわからないが、とにかく次勝てばJ1昇格が決まるので、しっかり勝ってみんなで喜びたい。

日本シリーズ第7戦、阪神が勝ってメチャメチャうれしかった。チケットが手に入り見に行くことができた。ずっと阪神ファンで、日本一になるなんて小さな頃には考えられなかった(笑)胴上げを生で見るなんてないし刺激を受けた。

カルリーニョス選手「勝利が一番大事」

清水エスパルス・カルリーニョス ジュニオ選手:
(前節の)ゴールシーンは自分たちがボールを持って、左から右にとてもうまくつなげて、鈴木義選手=原選手=乾選手、原選手が上手く乾選手を見つけて、またセットプレー後なので両サイドバックが入れ替わっていて、乾選手から山原選手、クロスが入った瞬間にサンタナ選手がニアに飛び込んで、できたスペースに自分が入って上手くゴールすることができた。

この前の1週間から練習でフィーリングが良かった。今週も継続できそうだ。

秋葉監督がずっと言っているが最終戦というのは勝ち点3、チームの勝利が一番大事。形はどうであれ、誰が決めたとしても、自分たちが最後に勝ってJ1昇格を決めること。残り90分で決めるチャンス。自分たちで決めたい。落ち着いている。チームとしてシーズン中に成長できたから。チームとして必要なのは相手を上回る走力、気持ち、チャンスの回数。

岸本選手「引き出しが増えた」

清水エスパルス・岸本武流 選手:
(前節の)3点目は相手の間に立っていい状態で受けられて、あとは振り切るだけだった。今後なかなか見る機会のない左足のシュートだった。見られた人は運がいい(笑)

今シーズンはいろんなポジションをやって、「ここのポジションの人はこうして欲しいな」と思っていた逆のポジションをできたので、相手にも要求できるようになるし、自分の理解度が増して引き出しが増えた。

秋葉監督は結果を出せば使ってくれるので、わかり易いしベンチメンバーはやりがいがあると思う。中山選手の調子が悪かった時、何試合か自分が出ると中山選手も奮起して戻ってくる。彼の活躍は僕のおかげだと思う(笑)

また“信頼できる”からこそ、どこのポジションでも出してもらえると思っているので、どこでも全力でやろうと思っている。前で出た時は「アグレッシブの鬼」でやらせてもらっている(笑)

自分で決めてやろうという気持ちは持っている。気持ちはキーパー以外、全ポジションで(笑)

北川選手「全員の力をもって勝つだけ」

清水エスパルス・北川航也 選手:
もう勝つだけ。相手もホーム最終戦、今年最後の試合ということで、たくさんの方々と喜びを分かち合いたい。

2016年の徳島の光景を思い出すが、バスを降りゴール裏のサポーターを見て、想像を超えていて、「勝ったな」「昇格決まったな」と思ったし、「ゴールを決めなければいけない」とも思ったことが頭に浮かぶ。

今回もたくさんの方々の思いを背負って戦わなければならないし、アイスタではパブリックビューイングもある。現地に来れない方とも喜び合いたいし頑張る。全員の力をもって勝つだけ。

今シーズン、長かったが「あっという間」。監督が代わって、全員の責任感があって、エスパルスが戻らなければならない場所があるということが、選手たちを動かしたと思う。

要因さえわかれば、もっと早く昇格を決められたのかもしれない。自分が開幕戦でしっかり決めていたら変わっていたかもしれない。「J1昇格」の目標を達成することが、自分を捨ててまでも何より大事なこと。だからこそ勝ちたい。今年みんなでやってきたことが形として報われるように、自分たちも残りの準備期間を大切に過ごしたいし、(水戸へ)選手全員行くことによってチームが1つになれるし、全員で喜べるのはうれしい。ピッチに立つ選手は責任を持って戦わなければならない。

ホナウド「昇格したい気持ちが強い」

清水エスパルス・ホナウド 選手:
大宮戦の2日前の練習で左手の甲を痛めた。試合前は不安だったが、ときどき痛くなるけれど始まったら問題なくプレーできた。痛み止めは飲んでいる。先週がピークで普通の生活では少しの支障しかない。試合が始まり身体が温まると感じない程度。

最後の1試合、とても大切な試合。重みもある。今シーズンやってきたことや目標を感じて、自分たちが集中して、自信を持って勝ち、J1に昇格したい気持ちが強い。

前節では高橋選手から「イエローもらうなよ」と言われていた。もらわずに最終戦に出られるのでよかった。

(テレビ静岡 報道部スポーツ班・外岡哲)

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