交通鑑識は、ひき逃げや交通事故などの現場で捜査にあたる専門の警察官だ。現場に残されたわずかな痕跡から事件事故の全容解明へ。交通鑑識の仕事を歩み始めた愛媛県警の若手警察官に密着した。
鑑識作業に欠かせない道具は毎朝点検
交通事故の現場で最前線の捜査に当たる交通鑑識は、現場に残されたわずかな痕跡から、事件や事故の全容を明らかにする交通捜査のスペシャリストだ。
愛媛・西条市にある県警交通指導課・東予分室は、県内の東予エリアで起きる交通事故にすばやく対応するため、2022年度に新たに設置された。
2022年に県内で起きた交通事故の件数は、2,132件だ。このうち、中予エリアで発生したのが約55%、次いで東予エリアで約34%の725件の事故が発生している。また2023年、県内では10月末までに49件のひき逃げ事件が発生した。2022年の同じ時期と比べて19件増えている。
交通指導課 交通鑑識係・岡田幸竜巡査部長：
おはようございます
この春、東予分室に配属された交通鑑識3年目の岡田幸竜巡査部長(30)は、午前8時過ぎに出勤すると、すぐに制服に着替える。制服には、危険な現場で活動する交通鑑識ならではの特徴がある。
交通指導課 交通鑑識係・岡田幸竜巡査部長：
背中の文字が車のライトとかで反射して光るようになってたり、あとはこの蛍光色みたいなので、ちょっと周りの車から見やすいように
夜道に残された痕跡を探すこともあるため、少しでも目立つように工夫がされている。制服に着替え終わると、鑑識作業に欠かせない道具の整備に取り掛かる。
交通指導課 交通鑑識係・岡田幸竜巡査部長：
普段の活動でカメラが必要不可欠なものなので、毎朝点検して動作に不備がないかというのと、ゴミが入ったりして写りこんでしまったりとかするので、そういうのがないかっていうのを確認しています
現場の証拠を記録するカメラは、異常がないか念入りに点検する。また、使用する道具は他にも…。
交通指導課 交通鑑識係・岡田幸竜巡査部長：
タイヤの位置を再現するものなんです
「タイヤ痕跡再現セット」通称・車軸セットと呼ばれるものだ。事故現場の路面に複雑に残されたタイヤ痕に、この装置を重ねて置くことで車の複雑な動きを再現する。
交通指導課 交通鑑識係・岡田幸竜巡査部長：
人と車の事故とかたくさんあるんですけど、同じような状態になることってまずないので、その場に応じた証拠の収集とか、そういったところを考えてやっていってます
交通鑑識は、これらの道具を使って事故の全容解明を進めていく。
数学や物理の知識も使って捜査
一方、最近では、ドライブレコーダーや防犯カメラで撮影された映像の解析も、重要な捜査となっている。
交通指導課 交通鑑識係・岡田幸竜巡査部長：
ここにラインが入っているなとかっていうところで、これと類似する車両を探します
カメラに写った一瞬の映像から、ナンバープレートの位置や車に施された装飾など細かい特徴を見つけ出し、車種だけでなく年式やグレードなどを細かく特定する。
この映像は、実は刑事部門から依頼を受けたものだ。交通鑑識は事故現場の捜査だけでなく、あらゆる事件の捜査にも携わっている。
また、車以外の知識も必要だ。
交通指導課 交通鑑識官・太田達也警部補：
X軸方向とY軸方向にエネルギーを分けましょう。それが縦軸方向のエネルギーならsinΘ
現場に残されたタイヤ痕などから、事故が時速何kmでどのように発生したのかを求めるためには、数学や物理の知識も必要だ。
交通指導課 交通鑑識官・太田達也警部補：
A車両の質量保存の法則を使ってかけたものと、B車両は衝突後、同じ方向に同じ力が残っていますよっていうことなんやけど
文系の岡田さんは、理系の先輩・太田さんから教えてもらう。
交通指導課 交通鑑識係・岡田幸竜巡査部長：
出ました！約時速79km
交通指導課 交通鑑識官・太田達也警部補：
正解。大体そんな感じ。これをするためには何がいるかって言ったら、実際に現場で痕跡なんかをしっかり確認して、飛び出した後、何度で飛び出しとるかっていうのを現場で計測する必要がある
交通鑑識の捜査姿に強い憧れ
10月に愛媛・西条市丹原町で起きた交通事故現場に岡田さんたちがいた。現場の状況をカメラで収めた他、ルーペを使って路面に付いた細かな痕跡を調べる。
事故は乗用車が人をはねたというもので、アスファルトに付いた靴の樹脂や、縁石に残された車による傷などから、事故の流れや衝突した位置を見事割り出した。
熱心に仕事と向き合う岡田さんには、交通鑑識への強い思いがあった。
交通指導課 交通鑑識係・岡田幸竜巡査部長：
元々は白バイ隊員になろうと思って、署の交通課員として働いていたんですけど、その時に大きな事故が起こって、現場に来てくれた交通鑑識の方が、私では見つけることができなかった車両の痕跡とか、道路の路面痕跡とかを次々見つけていって、真相を解明する姿を目の当たりにして（交通鑑識に）強い憧れを抱いた。
先輩方に負けないように、これから1件でも多く犯人を捕まえたりだとか、被害者の方のために痕跡を発見したりとか、そういったところに精一杯力を注いでいきたいと思います
悲惨な交通事故や悪質なひき逃げ事件の真相解明へ。被害者の思いを胸に、岡田さんはきょうも現場に向かう。
（テレビ愛媛）
