富山市の住宅で17日夜、クマに襲われたとみられる女性が死亡するなど、クマによる被害が相次いでいる。
クマに遭遇したら、どのような行動をとれば命を守ることができるのか。
日本ツキノワグマ研究所の米田一彦さんに、襲われた場合の防御法と絶対にやってはいけない行動、さらにクマを寄せ付けないための対策などを聞いた。
「餌を取られた」と思い人間を攻撃
ーーなぜ、こんなに被害が増えているのか?
夏の事故は“人間が山に入る”から起きますが、秋は食べ物を求めて“クマが山から出てくる”ことで起きます。
平均的に見ると、まず9月頃に出没するのは、体調1メートルほどの若いクマです。
そして10月上旬になると標準的な雄雌が出てきて、10月中頃からは親子グマ、10月末にかけては大きなクマが出て大事故、あるいは多人数事故が起き、初雪が降って収束するという流れです。

ーー今は“親子”で現れる時期?
そうです。
基本的には山の餌が不足しているから出てくるわけで、里山にあるコナラや栗、柿やリンゴを目当てに出没します。
若いクマほど山から押し出されて里山に降りてきますが、そこからも押し出されると人家、集落に入ってくることになります。

クマは腹いっぱいになったところで寝る習性があります。
リンゴ園や栗の木の上、柿の木の下付近の藪などで寝ていることがあり、人間が気付かずに接近すると「自分のエサが取られた」と思い込み、排除しようと激しく襲ってくる危険性があります。
これから晩秋にかけて、もう1か月はそうした状態が続くと思われます。
今年は多産…成長する再来年は要注意
クマによる被害はなぜ増え続けているのか。
今年2023年、秋田県内でクマに襲われ、けがをしたケースは39件43人と過去最多を更新した(10月16日時点)。
このため、東北では秋田のほか、青森県や岩手県など5県にツクノワグマ出没警報が発令されている。

ーー秋田では昨年6件だったのに対し、今年はすでに約40件の被害が出ているが?
ここ十数年は、隔年に事故が多いという形になっていて、1年おきに出没数が増えています。
そして、今年はたくさんの子熊が生まれています。
この子熊が1メートルほどに成長する再来年は、また事故が増えるだろうと予測しています。
今年事故が多いのも、2021年にたくさんの子熊が生まれたからです。
秋田の現場で長い間観察していますが、21年は非常に繁殖が進み、普通は2頭生むところを3頭生む個体がいたり、出産する雌の数も多かったです。

生息数を数えるのは非常に難しいですが、秋田県は30年前に比べて、クマの数は数倍まで増えています。
昔の感覚のままだとクマの増加に対応が間に合わず、人間側が押されている状況です。
ーーなぜ増え続けている?
今世紀はずっと増えています。
その原因は、ハンターが減っているのと、生息域である里山が立派な木に成長し、餌生産量が増えたことです。若いクマは雌と一緒にそこに張り付いて生活しています。
クマが襲ってきたら「伏せる」
では、人間がクマと遭遇したらどのように対応すれば良いのか。
米田さんは、クマを発見した場合、人間であることがばれないように木や電柱に抱きついて動かないことが大事だと話す。
一方、クマが襲ってきた場合は、伏せて頭部と頸部を守ることが重要で、状況に応じた対応が求められると指摘する。

ーー出没しやすい時間帯と対処法は?
朝方と夕方を比較して観察すると、3:7の割合で夕方の方が多く遭遇します。
クマは朝と夕方に活動するため、なるべくその時間帯は山際を散歩しないことが大事です。
クマが攻撃してくる時は、走ってきます。ノロノロ来るクマはいないです。
手に何か持っていればそれを振り回して自分を大きく見せることもできますが、頭や首をやられると出血多量になり、非常に重篤化しやすいです。

岩手の事故の50例を見ると、7例が片目失明、1例が両目失明となっていて、助かったとしても生活の質は大きく低下します。
ですから、頭部、頸部をやられないようにすることが非常に大事です。
私は、クマが襲ってきたら「伏せる」ことを勧めています。
ーー走って逃げてはいけない?
逃げる者は“弱い物”とみなして追っかけてくるので、平地においても山においても逃げるのはダメです。
後ろ下がりすることもできますが、転んでしまうリスクがあるので、私はクマを発見したら木や電柱に抱きついて動かない。人間であることを見せないことが一番だと考えています。

ーーこれからの季節、注意すべきことは?
朝夕は山であれ里であれ、散歩には気を付けてください。
また、クマの餌となる畑の柿や栗、リンゴの残りは早めに始末するように注意してください。
そして、山に入る場合はまず、笛を吹いたり鈴を鳴らして自分の存在をアピールするなど、いろいろな工夫が必要です。