長崎の秋の大祭「長崎くんち」が2023年10月7・8・9日に行われた。新型コロナウイルス感染拡大などの影響で、4年ぶりの開催だ。
本番前に行われた衣装や曳物(ひきもの)などをお披露目する、一夜限りの「庭見せ」に大勢の見物人が訪れ、長崎の街は熱気に包まれた。
重さ5トンの「御朱印船」に多くの見物客
10月3日の「庭見せ」は夕方から始まった。2023年の長崎くんちには、6つの踊町が出演した。「本石灰町」では開場の1時間以上前から多くの人の列を作り、注目度の高さがうかがえた。
この記事の画像(23枚)庭見せは、町の象徴となる飾り物の「傘鉾(かさぼこ)」や本番で着る衣装、船などに車輪がついた「曳物」を飾るほか、出演者に贈られた祝いの品、いわゆる「御花(おはな)」を披露するもので、各踊町の特色や趣向を凝らした豪華絢爛な品々を見ることができる。
衣装や曳物などを間近に、そして一堂に見られるのはこの日だけとあって、会場ではスマホやカメラを手にした見物人が多く見られた。
薄暮の中、ライトアップされた本石灰町の「御朱印船」が夜の町に浮かび上がった。重さは約5トン。長崎くんちのすべての曳物の中で最大級、最重量級といわれている。
本石灰町は、7月から週に6回のペースで船回しの稽古を続けてきた。船は9月中旬にいったんドックに入れられ、塗装を直したり、飾りつけをしたりするなど、本番に向けお色直しをして戻ってきた。町にとって庭見せをするのは10年ぶり。多くの人が御朱印船の前で写真を撮影していた。
今の気持ちについて聞かれた本石灰町自治会長・坂本隆司さんは、「やっとここまできたなと、感慨深いものがあります」「(庭見せは)3日も4日もかかって準備をして、3時間で見られなくなってしまう。大変なこともあったが、今は町のみんなで楽しんでいる。待ちに待ったくんちがやってきた!みんなでやるぞ!という気持ちでいっぱいです」と、くんちへの思いを語った。
ーー長崎くんちの奉納踊は4年ぶり、本石灰町にとっては2013年以来10年ぶりの奉納となるが、どんな意気込み?
本石灰町自治会長・坂本隆司さん:
10年ぶりのくんちということで、船回しの稽古も40回以上して、船の主人公である荒木宗太郎(貿易商)と、アニオー(安南…現在のベトナムの王族の娘)の演技もすばらしいものになった。綺麗に仕上がった御朱印船で立派な船回しをして、諏訪神社の神様たちに奉納したい
船もさることながら、見物人が特に注目していたのが、本番で着る豪華な衣装だ。会場の真ん中に飾られていたのは、御朱印船の主人公である荒木宗太郎役と妻のアニオー役の衣装だ。御朱印船は、長崎に拠点を置いた貿易商人の荒木宗太郎が安南(ベトナム)に渡り、現地で王族の娘「アニオー姫」を妻にして帰国する様子を再現している。
荒木宗太郎役は、小学3年生の松尾琉希(れの)くんが務める。琉希くんの父や祖父が以前、長崎くんちで船を曳く「根曳(ねびき)」として出演していた時の衣装をリメイクしたものだそうだ。思いや伝統が世代を超えて引き継がれている。
“世界的庭園デザイナー”が祭りを盛り上げる
全国各地から出演者を応援するための祝いの品々も展示されている。
中には「カジキマグロ」や、御朱印船を模した「氷のオブジェ」も。
オブジェの上には、イセエビやアワビなどが並ぶ。贅の限りを尽くした祝いの品には、4年ぶりのくんち開催を喜ぶ気持ちが表れているようだ。
庭見せの会場を盛り上げたのはそれだけではない。ある「空間」も見物人の注目を集めていた。
会場入り口や船の前に作られた立派な庭園は、世界的な庭園デザイナー・石原和幸さんが手掛けたものだ。
庭園デザイナー・石原和幸さん:
31年前に、御朱印船の「根曳」として出演した。そして30数年前は私が本石灰町辺りで花屋をしていたので、その恩返しの気持ちを込めて庭を寄贈した
石原さんは、世界最古にして最も権威ある「チェルシーフラワーショー」で、これまで12個のゴールドメダルを獲得し、イギリスのエリザベス女王から“緑の魔術師”とたたえられた経歴を持つ庭園デザイナーだ。
石原さんは今回、この庭に込めた気持ちについて「以前は、本石灰町や思案橋はとても繁盛していた。もう一回、その繁盛を取り戻したいという気持ち。庭には『うさぎ』の石像を置いて、もう一回ピョーンと跳ねるように、来年もよい年になりますようにという気持ちを込めた。そして『カエル』もいるが、お客さんがかえってくるぞー!となるように思って作った」と語った。
30年以上前に根曳として出演した経験のある石原さん。「きょうの根曳の表情を見てどう感じたか?」との質問には、「くんちの3日間は大変な仕事だが、3日間を終えた時は感動する。その思い出は一生忘れられないものになる。(中止となった3年間はコロナなどで)大変だったと思うし、10年ぶりの奉納。この思いを心に込めてグルグル船を回してもらい、感動して大泣きしてほしい。応援しています」と、熱い思いを語ってくれた。
「庭見せ」でしか見ることができない名品も
一夜限りの「庭見せ」に大勢の人が詰めかける中、“日本の三大花街”と言われた丸山町では、町の氏神様をまつる「梅園天満宮」に傘鉾が飾られた。
町の歴史を伝える史跡「中の茶屋」には、日ごろからお座敷で踊りを披露している長崎検番の芸妓衆(げいこし)が袖を通す着物や、唐人衣装が並んだ。くんち本番では58年ぶりに本踊「浮かれ唐人」を披露する。
長崎警察署の跡地でファンをくぎ付けにしたのは、長崎市の文化財でもある桶屋町の「宝」、傘鉾の飾(だし)と垂(たれ)。飾は、象の鼻などが動く珍しいからくり仕掛けだ。
この日はお祝いとして氷のミニチュアも届けられた。
庭見せ限定で披露されたのは「十二支」の垂だ。250年以上前に作られたもので長崎刺繍の名品といわれているが、傷みが激しいため庭見せでしか見ることができない。
桶屋町 くんち奉賛会・白山光男会長:
こんなに多くの人に来てもらい、改めてくんちが近づいてくると、長崎の人は血が騒ぐんだなと、ひしひしと感じている
海を泳ぐ魚が生き生きと表現「魚づくし」
長崎市中心部のアーケードで庭見せを行ったのは「鯨の潮吹き」を奉納する万屋町だ。
「お色直し」した2頭の鯨が子供たちを中心に人気を集めていた。
前回の2013年の長崎くんちの際に、165年ぶりに新調した傘鉾の垂「魚づくし」は圧巻だ。長崎刺繍で作られた魚介類16種類29匹が、生き生きと表現されている。
さらにくんちファンの目を奪ったのが、初披露となる親船頭の衣装「萬鯨招福」だ。今にも動き出しそうな大きな鯨に、真珠や銀細工で潮が表現されている。長崎刺繍の職人・嘉勢照太さんが3年以上かけて作り上げた衣装は、まさに「芸術品」だ。
着物で「庭見せ」を表現
くんちムードを盛り上げたのは奉納踊をする踊町だけではない。
長崎くんちの「だしもの」が描かれたのは、浴衣。11枚の手ぬぐいを縫い合わせて作られている。
帯飾りには、2023年の踊町の万屋町の鯨のモチーフも。
また、長崎市の着物店「アンティークきもの べっぴん」では4年ぶりの長崎くんちを盛り上げようと、柿柄の着物や、栗の刺しゅうが施された帯で庭見せの品に欠かせない柿や栗を表しているほか、鯛や伊勢エビなどの縁起物の帯も飾られていた。
アンティークきもの ぺっぴん・田川明美さん:
くんちが4年ぶりなので盛り上げたいのと、アンティーク着物で何かできないかと着物で庭見せを始めてみた。本当に久しぶりだったので、私もわくわくしている
長崎くんちの庭見せは、10月3日の午後6時から9時までのわずか3時間で、一夜限りの夢のごとし。長崎市中心部は4年ぶりの長崎くんち開催に向けて、早くも熱気に包まれていた。
(テレビ長崎)