寛永11年(1634年)から続く長崎の氏神「諏訪神社」の秋の大祭「長崎くんち」が毎年10月7・8・9日に行われる。新型コロナ感染拡大などの影響で、4年ぶりの開催となる。江戸時代の古式捕鯨の様子を描く万屋町の「鯨の潮吹き」。稽古を通して親子の絆が深まっている。
大海原で泳ぐ鯨を表現「鯨の潮吹き」
万屋町の根曳たち:
ヨッシリヨイサ!
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18人の根曳が大海原で泳ぐ鯨を表現している。万屋町が奉納する「鯨の潮吹き」だ。
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長崎市中心部にある万屋町。あちらこちらで町の誇りである鯨を見つけることができる。上を見上げても鯨。足元にも鯨。まさに鯨の町だ。
「鯨の潮吹き」は1778年(安永7年)の初登場から240年以上の歴史がある。愛らしい表情の鯨が、くんちの舞台に姿を見せるのは7年に一度だけ。
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5メートル以上吹き上げる潮が最大の特徴だ。
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総監督・池上淳一さん:
鯨があるからみんなが一致団結できているのかなと思う。唯一の生き物を演出するだしものなので、生き物らしい躍動感を見せたい
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鯨は全長約6メートル。重さ2トンといわれている。木の土台に竹をすきまなく張って胴体を作り、黒繻子(しゅす)=サテンの皮をかけて仕上げている。
![鯨の内部にカメラが潜入](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/7/700mw/img_778dee414bdeed75d1da00d9a5929022623375.jpg)
テレビ長崎・中村葉月アナウンサー:
鯨の中にカメラが潜入します。まず入り口はかなり狭いです。大人一人が体を曲げてようやく入るほどの大きさです。いまはライトがついていますが実際には真っ暗な中動かされます
中には、200リットル入る水槽とポンプがある。鯨に潮を吹かせるのは、なんと人力。胴体に人が入ってレバーを押し引きしている。
![稽古用の鯨](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/1/700mw/img_e19206de3cf17e3682e4a1cee769b7ee548875.jpg)
現在の鯨は稽古用で、本番に向けては皮を全て張り替えて化粧直しをする。その準備を進めているのは2021年まで町内で服飾店を営んでいた有馬裕基さん(72)、良子さん(73)夫婦だ。
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有馬良子さん:
夫婦だから、「そこ違うよ」とか「そのやり方じゃだめ」とか言えるけどほかの人には言えない。だからやっぱり夫婦でやるのがいい
今は鯨の表情が表れる「唇」を、手縫いで仕上げている。作り方は伝わっていない。
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有馬良子さん:
最初から手探り。そういう風にやったほうがいいんじゃないか、みたいな。綿をそのまま包んでいくと大変。綿が飛び散ったりして。だから1つ筒に入っているものを取り付けた
お披露目は10月3日の庭見せ。稽古でくたびれた鯨をつややかな姿に生まれ変わらせる。
10歳の男の子が「親船頭」に抜てき
親船頭・浅野正宗さん(10):
ヨイヤーサーヨイヤーサー!
長崎市万屋通り町会・吉田徹奉賛会長:
ワンテンポおいたら遅れる
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親船頭の浅野正宗くん。捕鯨は莫大(ばくだい)な富を生む一方、漁は命がけ。
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親船頭は「勇み唄」で船団を鼓舞する重要な役割だ。本来奉納するはずだった2020年には、別の子どもが親船頭に決まっていたが、新型コロナの感染拡大などによる3年間の中止で出演できなくなり、浅野くんが抜てきされた。
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親船頭・浅野正宗くん:
勇気がつくし、こういうのはチャンスだから、逃さないようにと思って決めた
習い事のサッカーと空手と両立するため、例年より1カ月ほど早い6月から稽古を始めたが、なかなかうまくいかない。掛け声の音の抑揚にも、注意を払わなければならない。
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長崎市万屋通り町会・吉田徹奉賛会長:
こんなんダメ。デーカイーターデカイター
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諏訪の踊り馬場でも響き渡る声が要求される。
親子そろって挑む“鯨の潮吹き”
そして、最初の稽古から約3カ月がたった2023年9月3日。今回の長崎くんちで、鯨を曳く「根曳(ねびき)」として出演する正宗くんの父・光明さんも親子そろっての出演に、一層気持ちも高ぶっている。
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根曳 正宗くんの父・浅野光明さん:
だいぶよくなってきていると思うから、最後のヨッシリヨイサの上げるところをきょうは期待している
正宗くんは「最近は結構上手にできてきているので、それを続けたい」と話す。
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根曳 正宗くんの父・光明さん:
前回、先曳で息子は出ているがまだ1歳にならないくらいで、本人は記憶がないと思うので、今回は親船頭という大役をご縁でいただいたのでうれしい
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父・光明さん&正宗くん:
きのう髪切ったもんね。伸びていたので、バリっといこうかと短めにしたもんね
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9月3日、万屋町は諏訪神社で「場所踏み」に臨んだ。
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親船頭・浅野正宗くん:
オーセミオーセミオー
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この日の長崎市は30度超え。厳しい残暑の中、根曳たちが荒々しく海を泳ぐ鯨を表現する。
「鯨の潮吹き」はくんちの3日間で情景がかわる。祭り最終日の後日(10月9日)になると、鯨には網がかけられ、捕鯨が成功したことを示す。そして納屋の屋根に雪が積もり、つららができて冬の風景になる。3日間にわたる物語の展開にも注目だ。
根曳 正宗くんの父・光明さん:
ヨッシリヨイサ、ヨッシリヨイサ
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親船頭・浅野正宗くん:
お父さん、きつそうだったけど、きちんとしていたからかっこいいと思った。多分10年後くらいに僕も根曳として出るのでちゃんとお父さんを見て、勉強しようと思う
光明さんは「親子で出られるというのはなかなかないし、息子が大役をいただいているので、親子そろって奉納も含めて気合を入れて当日を迎えられるように体調も万全にしていきたい」と話した。
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長らく眠りについていた万屋町の鯨。町の人の熱意に呼び覚まされ この秋、諏訪の大海原に10年ぶりに姿を見せる。
(テレビ長崎)