石川県内で約7万部を発行する北陸中日新聞。カメラとペンを手に様々な現場を取材するのが、新聞記者の仕事だ。紙面ができるまでの1日を取材した。
フランスでは親しみのある仕事
時刻は午前9時半。今回密着する入社4年目の西川優記者が北陸本社に出勤した。西川記者は地域の話題など幅広いジャンルを取材する「遊軍」と事件・事故を取材する「警察担当」を兼務している。「朝着いたらまずその日の取材の準備をして、どういうことを聞くか質問を考えたりとか、警察に電話して事件や事故がなかったか聞いています」。出社後、約15分で取材へ出かけた。金沢市内の移動はタクシーがほとんどだそうだ。

新聞記者を志したきっかけは学生時代に第二外国語で学んでいたフランス語の例文にあったという。「英語だと例文でI am a teacher.とかあるじゃないですか。フランス語の例文は『私はジャーナリストです』っていう例文がよく使われるんですよ。フランスでは一般的にあるんだなと知って、かっこいいなと思ったのが最初のきっかけでした」。

学生時代に打ち込んだ野球でなかなか結果が出なかった時、母親から渡された新聞記事にも心打たれたそうだ。「身長144cmしかない高校球児がボールボーイを頑張っているという記事だった。置かれた立場でできることを精一杯やろうと書いてあって、新聞を通して人々に活力を与えることもできるんじゃないかと思った。私もそういうニュースを届けられたら」。
取材先と築く信頼関係
この日、西川記者が行う取材は、加賀友禅作家の浅野富治男さんが東日本大震災で被災した岩手県の学校に、加賀友禅のタペストリーを寄贈するという話題だ。西川記者が「どういう思いで被災地の方々にタペストリーを贈りたいと思ったんですか?」と尋ねると、浅野さんは「震災を知らない子どもたちがもうはや12歳になったんやね。タペストリーが震災というものを思い出させる1つのものになってくれればね」と答えた。写真撮影も含めて取材時間は1時間半に及んだ。

取材を終えた西川記者にノートを見せてもらうと、素早く走り書きをしたメモが5ページに渡って残されていた。実は浅野さんが西川記者から取材を受けるのは今回で3回目だ。2022年12月に最初の記事を読んだ時から、西川記者の書く記事に信頼を置いている。「上手に書いてあるなと思いましたよ。家内の出身が三重県なんです。西川さんと同じなんで、なんとなく親近感があって話しやすい」。記者にとって取材対象者との関係を深めることも重要な仕事だ。

おにぎり2つの昼食
北陸本社に戻った西川記者。いよいよ原稿の執筆にかかる。特に力を入れるのはリードと呼ばれる冒頭の文章だ。「リードがしっかり決まっていないと後の文章も続いていかないので、一番最初の10行、20行には時間をかけて、ストレートに何がニュースなのかってボーンと出さないと」。過去の記事や取材メモが書いてあるノートを見返しながら、原稿に向き合うこと約1時間。執筆が終わったようだ。「ここからデスクに出してどんな注文が入るのか…」と少し緊張している様子だ。

午後3時、西川記者がやって来たのは金沢中警察署だ。1階にある記者室へ向かう。「原稿を書いたりとか、署から発表が出た時に副署長に話を聞くという流れです」。この日、発表があったのは特殊詐欺で金沢市の女性が約190万円をだまし取られた事件だ。すかさず本社に電話をかけ「ニセ電話詐欺の被害の発生で被害額は190万円です。こちら原稿出します」と翌日の朝刊向けに出稿することをデスクに伝えた。

その後、広報担当の副署長から話を聞き、原稿を書き上げると、午後3時半。ようやく昼食の時間だ。「アドレナリンが出てあんまり食欲は湧いていないですけどね」と話す西川記者が口にしたのは、コンビニのおにぎり2つだけだった。やはり新聞記者は不規則な生活なのか聞くと、「何もなければ不規則じゃないんですけど、殺人事件になると夜討ち朝駆けといって警察幹部の人のお家に行って話を聞きにいかないといけないので、相当生活リズムが乱れますね。何もないと普通にサラリーマンに近い生活はできるのかなと思います」と話す。

北陸本社に戻ると、午前中に取材した原稿を遊軍キャップの先輩記者にチェックしてもらう。推敲された原稿を受け取った西川記者に、伝えたい内容は残っているのか聞いてみると、「そうですね、むしろ増したって感じですかね」と答えた。

記事はバトンのようにつながれる
翌日、午後4時から会議室で行われていたのは「朝刊会議」。デスク以上が出席し、次の日の朝刊に並ぶ記事を決める。会議では西川記者の記事が話題に上がった。デスクの1人が「震災を直接体験した子どもたちが少なくなる中で、震災の体験を継承していくという狙いです」と紹介し、朝刊の社会面で大きく扱われることが決まった。

ここまで決まると、次は記事の見出しやレイアウトを考える整理部に仕事が回る。整理部の担当者に心掛けていることを聞くと、「必要なパーツだけ書いたり、硬派面は一面と違うのでちょっと読ませる感じで、読者が興味を持つようなメイン見出しを1つ考えないといけないから」と話し、横や縦の見出しが次々と決まっていった。

深夜0時過ぎの印刷所。新聞を刷る輪転機が回りはじめ、朝刊の紙面が印刷されていく。出来上がった新聞は、印刷所から遠い能登地域の配達分から袋詰めされていく。印刷開始から5分、1台目のトラックが販売店へと出発した。

朝刊の社会面には西川記者が取材した記事が大きく掲載されていた。「直接メールをいただいて『思いに寄り添った原稿を書いてくれた』とそういうメールを頂いたので、すごくやりがいに感じました」と西川記者は話した。

入社して自分の書いた記事が初めて新聞に掲載された時は、「コンビニに買いに行きましたね。会社だけじゃなくて本当に自分が書いた記事が、世の中に売られているのかなというのが気になって」とひとり喜びを噛みしめたという。私たちが普段何気なく読んでいる新聞記事。どんな記事でもその一つ一つに多くの人の思いが詰まっている。
(石川テレビ)