ジャニーズ事務所は10月2日、故ジャニー喜多川氏による性加害問題について東京都内で会見し、社名を「SMILE-UP.」に変更すると発表した。

また東山紀之社長は「ジャニーズ事務所を解体する」と話し、タレントのマネジメントと育成事業から撤退し、被害者への補償に専念すると宣言。タレントのマネジメントと育成事業については、新たな「エージェント会社」を作るとし、その社名については「公募する」としている。

ジャニーズ性加害問題に対する“メディアの沈黙”はなぜ起きたのか。メディアとしての検証、フジテレビとしての対応を伝える。

「多くのマスメディアが正面から取り上げてこなかった」

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外部専門家による再発防止特別チームの報告書(8月29日公表)では、「ジャニー氏の性加害問題について、過去にいくつかの週刊誌が取り上げてきたものの、2023年3月にBBC(イギリスの公共放送)が特集番組を報道。その後、元ジャニーズJr.が性加害の被害申告の記者会見を行うまで、多くのマスメディアが正面から取り上げてこなかった」としている。

具体的には、ジャニー氏の性加害は1960年代から問題視され、週刊誌で報道されるようになった。1980年代に暴露本が多数出版されるようになり、1999年に「週刊文春」が特集記事を掲載し、ジャニー氏の性加害について大きく取り上げた。

これに対し、ジャニーズ側が文芸春秋に対して名誉毀損による損害賠償請求を起こす。しかし、この裁判は2004年の最高裁判決でジャニーズ側が敗訴する形で決着した。

再発防止特別チームは、この裁判をめぐるメディアの対応について「最終的に敗訴して性加害の事実が認定されているにもかかわらず、訴訟結果すらまともに報道されていないようであり、報道機関としてのマスメディアとしては極めて不自然な対応をしてきたと考えられる」と指摘している。

事務所への配慮・忖度はあったのか

実際に2004年2月25日、判決が出た翌日の毎日新聞を見ると、かなり小さな扱いであることが分かる。朝日新聞も事実関係を短く伝える記事のみだった。

平松秀敏 フジテレビ報道局編集長:
私は2000年代の前半、東京の司法クラブの記者でした。この裁判を扱っていた記者クラブのいち記者だったんですけれども、裁判を覚えています。確かに、こういう判決が出たと記憶にあるんですけれども、当時は芸能事務所と出版社の裁判沙汰、スキャンダルの一つという認識しか持てなかった。ところが今になって、深刻な問題が浮上している。当時、裁判をめぐるニュースに価値を見いだせなかったこと、いち報道マンとして本当に反省すべきだと思いますし、痛恨の極みだと反省せざるを得ないと思います。

榎並大二郎 キャスター:
そこにジャニーズ事務所への配慮というものはあったんでしょうか?

平松秀敏 フジテレビ報道局編集長:
間違いなく言えるのは、ジャニーズ事務所に対する配慮・忖度というよりも、当時この裁判自体にニュース価値そのものを見いだせず、スルーしてしまったという非常に残念なこと。マスメディア全般そうだと思うんですけれども、そういうような雰囲気があったんだという気がします。

元週刊文春記者 被害者は「無力感にさいなまれた」

報告書では、2023年3月にBBCがジャニー氏の性加害疑惑などについてのドキュメンタリー動画を日本でも配信したが、その後4月にジャニーズJr.として活動していたカウアン・オカモト氏が記者会見を行い、性加害を訴えてメディア各社でも報じられるに至ったとしている。

ジャニーズ問題を長く取材してきた、元週刊文春記者の中村竜太郎さんにも聞いた。

榎並大二郎 キャスター:
これまでのメディアの対応をどうご覧になりますか。

中村竜太郎氏:
1999年のジャニー氏の性加害問題で、週刊文春で取材をする立場だったんですけれども、その後の裁判で性加害の事実認定がされたにもかかわらず、大手メディアは一切報じなかったんですね。私は本当に絶望感を感じましたし、報じなかったメディアは罪だと思っています。絶望感というのは、当時取材をした被害者の方たちも同じように受けていて「自分たちが本当のことを喋っても、大手メディアは伝えてくれないんだ」という、そういう無力感にさいなまれていました。ですから、この問題は非常に根深いなと思っています。メディアが今後どのように報じるのか、ということについてもすごく気になっていますし、SNS時代になって大手メディアの報道姿勢が改めて問われていると思うんです。非常に厳しい目が向けられていると思います。

榎並大二郎 キャスター:
平松さん、今後この問題にメディアとしてどう向き合っていくべきでしょうか。

平松秀敏 フジテレビ報道局編集長:
単なるジャニー氏による性加害問題ではなくて、性加害自体が、例えば時効の問題など非常に多くの問題をはらんでいます。全ての性加害事件、性犯罪に真摯に向き合って報道したいと思います。

フジテレビはコメントを発表

2日の会見を受けて、フジテレビは以下のコメントを発表した。

ジャニーズ事務所が会見を開き、社名変更を含む今後の会社運営、被害者への補償・救済などの方針を発表しました。当社は、このたび示された方針が速やかに実行されていくよう求めてまいります。
ただ、具体的にはまだ詳細が不明な部分もあり、引き続きジャニーズ事務所の対応を注視してまいります。キャスティングに関しては、被害者への対応が着実に実施されていることを確認しながら適切に判断してまいります。
改めてこの問題に対する当社の認識は不足していたと反省しており、企業として、また報道機関として、今回のジャニーズ事務所の件への対応を含め、あらゆる人権尊重のための責任を果たしていく所存です。
(「イット!」10月2日放送より)