福岡市早良区にある「伊都にゃ~ご」では、30匹のネコが自由気ままに暮らしている。まったりとお茶を飲みながらネコと触れ合うことができる「ネコカフェ」だ。
人間に対し完全に気を許し、のびのびと暮らすネコたち。しかし、ここに居るネコたちは、様々な事情で保護され、殺処分になる可能性があったネコたちなのだ。
保護ネコの集まる「ネコカフェ」
「伊都にゃ~ご」は「保護ネコカフェ」として、野良ネコや捨てネコなど、福岡市で収容されたネコを引き取り、運営している。

売り上げは、餌代などネコたちの生活費に充てられる。
店を立ち上げた中村あかねさんは、もともとボランティアで保護ネコを引き取り世話をしていたのだが、個人での活動に限界を感じ、この保護ネコカフェを立ち上げた。

「伊都にゃ~ご」オーナー・中村あかねさん:
多いときは、20頭とか1人で抱え込んでいるときもあり、その中で仕事もして、私も時間も体力もなくなってきて、お金もどんどん減っていくっていう悪循環があったので、仕事で思い切り活動できるような仕組みをつくれば「殺処分の現状は減ってくるんじゃないかな」と思いました
猫カフェから巣立ちのとき
このカフェの役割は2つ。ネコたちの保護と、ネコの里親探しだ。これまで60匹以上のネコを里親のもとに送り出してきた。
この日訪れたのは、「伊都にゃ~ご」からネコを引き取ることを決めた親子。

里親・中嶋純子さん:
この子ですよね?ダイキチくん、ダイキチくん、よろしくね
中嶋さんが家族に迎え入れるのは、生後7カ月のダイキチくん。人懐っこくヤンチャな男の子だ。

ダイキチくんは、生後間もない頃、福岡市内で保護された。その後、福岡市の東部動物愛護管理センターへと持ち込まれたが、引き取り手がなかなか見つからず「伊都にゃ~ご」へやって来たのだ。
ネコを飼うのが初めてだという中嶋さん一家は、引き取りまでの間に、このカフェでダイキチくんと触れ合い、性格を把握したり、距離を縮めたりしてきた。

里親・中嶋純子さん:
ネコを飼うのが初めてなので、何回か来させていただいて、とっても安心感があります。最初からペットショップで買うっていう意識はなくて、外にいる子は捕まっちゃったら殺処分とかされちゃうので、少しでも助かる命があったら、私たちで力になれるんだったら保護してあげたほうがいいかなって
「伊都にゃ~ご」スタッフ・二十二縁さん:
きょう連れて帰っていただくわけなんですけども、最初の注意点を書いているので、一緒に見ていきましょう
「伊都にゃ~ご」を巣立つネコが、新たな家族のもとで幸せに過ごせるよう、ネコを飼うときの注意点や心構えを伝え、引き渡す。

「伊都にゃ~ご」スタッフ・二十二縁さん:
皆さんのご協力のもとに救われた命ですので、どうぞ最後までよろしくお願いします。愛情いっぱい、一般のご家庭で受けて幸せになってもらえると思うので、寂しいけどうれしいですね
「元気でね」「ばいばーい」という声を受けながら、ダイキチくんはネコカフェの仲間たちともお別れ。新生活へと向かう。

また1匹、ひとつの命を新たな家族のもとへ送り出すことができた。
“殺処分のない文化”の実現へ
オーナーの中村さんがネコの保護活動を始めたのは、高校生のときに目の当たりにした殺処分の現状がきっかけだった。
「伊都にゃ~ご」オーナー・中村あかねさん:
私が見学したイヌも、すがるように、助けてほしいと、必死に生きよう生きようとしていましたね
現在は、麻酔薬による安楽死が増えているが、当時、まだ福岡県内では…。

「動物愛護管理センター」・吉栁善弘所長:
かつては6日間の収容期間を過ぎますと通路に集められ、扉が押し寄せて来まして、最終的にボックスに落ちて、炭酸ガスを注入されて、殺処分となっておりました
中村さんが見学した保健所でも同じ方法がとられていたという。
「伊都にゃ~ご」オーナー・中村あかねさん:
最初は、この場所から出たくて、厚い扉が(自分たちで)蹴落とすことができるんじゃないかっていう勢いで暴れている子たちもたくさんいたんですけど、それが徐々に静かになってしまって、最終的にはみんな亡くなってしまいました。必死に「生きよう、生きよう」としていましたね。私は生きようと思えば生きる権利があるんですけど、あの子たちにはその権利がないじゃないですか。それを思ったらどうにかしてあげたいって思いまして

福岡市では15年前まで、年間約3,000匹のイヌ、ネコが収容され、そのほとんどが殺処分されていた。
現在は、市民ボランティアや動物病院、民間団体が保護に協力し、2022年度までの4年間、健康状態がよく譲渡可能なイヌ・ネコに関しては殺処分が行われていない。しかし…。

「動物愛護管理センター」・吉栁善弘所長:
健康状態、性格、そういったところで最後まで飼いやすいネコをお渡しするのが大原則となっております。病気やケガで飼うことが難しいイヌ・ネコは殺処分となっておりまして…
2022年度、福岡市では病気やケガなどで譲渡が難しい170匹のネコが殺処分となっている。その現状を受け、中村さんはこう語る。

「伊都にゃ~ご」オーナー・中村あかねさん:
そういう子たちを全て引き取って、本当の意味で殺処分のない文化をつくっていきたいと思っています。やっぱりこうやってネコに癒やされながら、うちに来ることで社会貢献にもつながりますので、ぜひ「伊都にゃ~ご」に足を運んでいただけたらと思っています
いまだに全国で殺処分されるイヌやネコは後を絶たない。中には飼い主が飼いきれなくなって保健所に持ち込むケースもあるということだ。
アメリカやドイツでは、数千匹が暮らせる大型の保護施設が普及していて、殺処分そのものが減っているという。中村さんも10年後を目標に、同じような大規模の保護施設を開設したいと話している。
(テレビ西日本)