人生の節目には、その時々にふさわしい素敵な写真を残したいもの。石川県金沢市の写真館では専属のフォトグラファーが、その人らしい最高の表情を引き出そうと日々励んでいる。
写真館専属のフォトグラファー
石川県金沢市寺町4丁目のフォトコザカに勤める筒井愛子さん。成人式や結婚式などのハレの日を写真に収める、写真館専属のフォトグラファーだ。

この日の仕事は成人式の前撮り。筒井さんが被写体となる新成人を出迎えるのは、準備が全て整った撮影直前だ。「受付では事務的な連絡が多いので、そっちに引っ張られてしまって入り込めない感じになる。最初に緊張をほぐせるかどうか。そこで勝負が決まる」と話す筒井さん。初対面はスタジオ入りまで取って置き、被写体とのコミュニケーションには事務的なやりとりが混ざらないようにしている。
コンプレックスを把握する
スタジオで新成人を待つ間、筒井さんは「成人さんを撮るのは久しぶり。どうなるかな。テンパって変なことしそう」とそわそわしていた。しかし新成人がスタジオに入ってくると、「ニコニコってなりすぎない感じで撮りたい?お顔って左右でどっちが利き顔ってある?」と素早く確認していく。把握するのは容姿で気にしているところがないかどうか。コンプレックスをできるだけカバーすることを伝えて、安心感を与えることを心掛けている。

実は筒井さんはかつて写真を撮られることが苦手だった。「容姿にコンプレックスがすごくあるから、高校時代はマスクをして過ごしていた。正直、自分の顔が写真として残るのが嫌という気持ちがあった」。高校生の頃の写真はほとんど残っていないそうだ。

金沢美術工芸大学で油絵を専攻
もともと人の表情や仕草に興味があり、進学した金沢美術工芸大学では油絵を専攻し肖像画を数多く描いた。

「人の肖像を残すことに関わりたい気持ちが大きかった。人がいることを残すことって何の意味があるか分からないけど、なんでこんなに素敵なんだろうという気持ちがあって、この仕事をしながら向き合えるかなって思った」とカメラ経験は全くなかったが、2020年に新卒でフォトコザカに入社した。

いい写真を撮るためには、草をかき分け、地面を這いつくばりシャッターを押す。筒井さんの写真への向き合い方は全力そのものだ。「3カ月分の給料が鞄に入っていると思って見てください!」などと、魅力的な表情を引き出すための声掛けにも工夫を凝らす。「上手くいったっていう時はないですよ。打ち解けたっていう時はあるけど、反省が多いです」。
被写体の気持ちになって
フォトコザカの小坂泰文社長は、筒井さんが師匠と仰ぐ人物だ。カメラに関して素人だった筒井さんを採用しフォトグラファーとして育てようと思ったのは、その人柄を評価したからだった。「最初から人と関わるのが好きな感じがした。人の懐にすーっと入っていくというか、愛されるキャラだというのは最初から思っていた」と小坂社長は話す。入社後、筒井さんは全国のコンテストで入賞を果たすなど、めきめきと力をつけている。

高校時代はカメラを向けられることも嫌だったという筒井さん。今回、カメラを向けられる側として取材を受けたことについて聞いてみると、「何したらいいんだろうって」と戸惑っていたが、特に嫌な気持ちは感じなかったようだ。ハレの日を記憶に残すお手伝いを。フォトグラファーとして写真館を訪れる人たちと向き合い続ける。

(石川テレビ)