障害者の就労を支援する事業所と言えば内職が多いイメージもあるが、石川県野々市市には障害のある人が働くラーメン店がある。どんなラーメン店なのか取材した。

障害があっても働けるラーメン店

人気メニューは透き通るスープが特徴の塩ラーメン。それに正反対の色をしたしょうゆベースの黒虎ラーメンだ。スープを飲み干す客もいる。

黒虎ラーメン
黒虎ラーメン
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ラーメン激戦地の石川県野々市市にある「らーめん虎」。おいしいのはもちろんだが、それ以外にも特徴がある。店で働く小丸山幸佑さん(25)は知的障害を伴う自閉症だ。接客中はたどたどしい話し方になることがある。「きょうは、め、麺増しの無料の日、な、なんですが」「黒虎とて、て、天津飯のミニで良いですか?しばらくお待ちください」。取ったオーダーは厨房のスタッフに伝える。小丸山さんは「メニューを配達するところが楽しい」そうだ。

小丸山幸佑さん
小丸山幸佑さん

経営するのは障害福祉事業を行う「あじさいの家」で、店では障害がある人もスタッフとして働いている。あじさいの家の西道子理事長は「障害があっても少しの支えがあれば健常者と同じ土壌で勝負が出来るんだよっていうことを健常な方々に知ってほしい」と話す。小丸山さんたちは施設のバスによる送迎で店に出勤する。午前9時半に店に到着し、2時間後の開店に向けて店内の掃除からスタートする。掃除が終わったら、施設で提供するお弁当作りも行う。店では普段、小丸山さんのように障害があるスタッフが最大6人働いている。それを健常者のスタッフ計4人がフォローする体制だ。

真面目な働きぶり

開店準備を終えると、オープンまで少しの休憩。小丸山さんはお菓子を食べたり、漫画を読んだりして過ごす。好きな漫画は「こち亀」だそうだ。「もう疲れてますか?」と記者が聞くと、「今は大丈夫です」と苦にしていない様子だ。

午前11時半、いよいよ店のオープンだ。小丸山さんが店で働き始めて6年ほど経つ。仕事は注文を聞いたり料理を運んだりするホールスタッフだ。「塩の麺増しの中盛りで良いですか?」、「お待たせしました。あんかけのしょうゆの麺増の大盛りとライスです」と着々と仕事をこなしていく。

あじさいの家の米林勇人施設長は「彼がまだ学生時代に僕と知り合って、就職ってなった時にぜひここで体験したいと。頑張っておられる。基本的には真面目な方。とにかくお店にも出たがるし、裏の仕事も声掛けしたら積極的にやってくれている」と小丸山さんの誠実な働きぶりに感心している。

あじさいの家 米林勇人施設長
あじさいの家 米林勇人施設長

一般就労につながるケースも

元々は石川県旧鶴来町にあったらーめん虎は、店の老朽化に伴い2014年に野々市市へ移転した。しかし、障害者が働く場所としてどうしてラーメン店だったのだろうか。「全国的にも大体福祉の事業所ってクッキー作ったりとか、内職の仕事が多い。ラーメン店なら地域の人と接することができるし、掃除から仕込み、接客、片付けと色んな仕事があるので、1つの仕事をずっとするよりは変化に富んでいて、色んなスキルが習得できる」と米林施設長は話す。この店からこれまでに3人が一般就労を果たしたという。

らーめん虎(石川県野々市市)
らーめん虎(石川県野々市市)

一方で障害があるために、働いている時にはこんなことも起こる。小丸山さんが「きょうは麺増し無料の日なんですが」と客に話しかけると、「ん?」と聞き返された。小丸山さんは「きょうは麺増し無料の日なんですが」と同じ話を繰り返す。「麺が無料?なんか無料の日?」とやはり通じず、健常者のスタッフがすかさず「きょうは麺だけ、麺増し無料なんです」と助けに入った。米林施設長によると「よく聞き取れない時に『聞こえないからもう一度言ってください』ということを上手く伝えられない時がある」という。そんな時は「はっきり聞こうね」と、後ろから補助に入るようにしているそうだ。

夢は料理人になること

仕事を終えた小丸山さん。家では読書やゲーム、好きなお笑い番組を見て過ごす。母・智鶴子さんは「コックさんになりたいって言ったことがあったんですね。正直、不安な面もあります。こんなに笑わず、お客さんに変に思われないかなとか」と心配している。それでも働き始めてから、確かな変化を感じているそうだ。「ひげを自分で剃るとか、手洗いうがい、飲食に携わることなので身だしなみはきちんとできるようになったなと思います」。小丸山さんに将来の夢を聞くと「将来の夢は料理人になることです」と答えた。そこで何を作りたいのかさらに聞いてみると「イタリア料理を作ります。ピザとパスタが好きです」と答えてくれた。智鶴子さんは「初めて聞きました。イタリア料理なんだ」と少し驚いていた。

母・智鶴子さん
母・智鶴子さん

働く障害者に寄り添っているのはスタッフだけではない。小丸山さんについて常連客は「最初は言葉遣いとかもたどたどしかったんですけど、最近ははっきりオーダー返しもしてくれるから、こっちも受け止めやすい」「昔より声が出るようになってきている」と話し、変化を見守ってくれているようだった。米林施設長が「きょうは1日テレビの取材がついてきましたけれど、緊張しましたか?」と聞くと、小丸山さんは「緊張しました」と素直な答えが返ってきた。

(石川テレビ)

石川テレビ
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