ウェブニュースを読んでいると、時々「次へ」を何度クリックしても、あるいは延々とスクロールしても読み終わらない広告記事に遭遇し、うんざりした経験はないだろうか。

そういった広告記事は、そのニュースサイトの記事の一覧の中に紛れて表示されている。「AD」や「PR」などの表示はあるのだが、どのような商品やサービスの広告なのかはよくわからず、読み物記事のようなタイトルがついている。

内容は創作なのか実話なのかわからない物語系(なぜか海外が舞台のものが多い)だったり、「何選」形式のトリビア系の記事もよく見かける。

そんな記事のサムネイルに使っている写真は、フェイク画像なのかわからないインパクトの強いものも多く、つい気になってしまうのだ。

うっかりクリックしてしまうと…(画像はイメージ)
うっかりクリックしてしまうと…(画像はイメージ)
この記事の画像(5枚)

しかし興味本位でクリックすると、別のサイトに飛ぶことになる。そして記事を読み進めていっても、延々と「次へ」をクリックさせられるのだが、なかなか読み終わらない。

なおかつ、本文の内容が薄かったり展開が支離滅裂だったり、そもそも日本語の文法がおかしかったりといった奇妙な点も目につくのだ。

正体は「広告アビトラサイト」の一種

記事には大量の広告が貼られていることから、ここから広告収入を得ているのだろうが、何か問題はないのだろうか。またどんな仕組みになっているのかも気になる。

不正なインターネット広告を検知するサービスを提供する会社・デトリタス代表取締役の土橋一夫さんに、このようなサイトの正体と問題点を聞いた。


――そもそも、こういった記事に何か呼び名はあるの?

「広告アビトラサイト」の一種だと思います。

「アビトラ」とは、株式市場などで「裁定取引」を意味する「アービトラージ」の略語です。裁定取引とは、商品の価格差を利用して利益を得る取引のことです。 

このようなサイトは、著名サイト(メディア)にお金を払って広告出稿し、自サイトに読者を引き込み、自サイトに表示した広告でお金を稼いでいます。「広告費の差額で儲けている」という趣旨で、そのように呼ばれています。

広告アビトラサイトは、少なくとも2010年頃には多数存在しており、ネット広告業界内でも話題に上っていました。


――これらを作っている人は何が目的?

推測としては、お金を稼ぐことです。広告の表示状況から、お金の流れは下記のようになっていると推測できます。

広告費の流れ(編集部作成)
広告費の流れ(編集部作成)

(1)広告アビトラサイトに載っている広告のお金の流れ
広告主→(広告費支払い)→広告仲介会社→(広告費支払い)→広告アビトラサイト運営者

(2)メディアに載っている広告のお金の流れ
広告アビトラサイト運営者 →(広告費支払い)→広告仲介会社→(広告費支払い)→メディア

この流れの中にいるどの事業者も、「自身の金銭的利益を守るために、充分な広告審査をしていない」と言えます。

違法ではないが権利関係はあやしい

――記事の内容はきちんとしたものなの?

そもそも、伝えるほどの内容が無いサイトがほとんどである印象です。「記事を引き延ばして訪問者にたくさんページ遷移をさせる」ことの動機は、おそらく下記の2点です。

・広告が目に入る回数を増やし、広告のクリック数を上げ、広告費を稼ぐ。
・訪問者をうんざりさせ、「次」をクリックするよりも広告をクリックしたほうがマシだと思わせる。そのことで広告のクリック数を上げ、広告費を稼ぐ。

様々な権利を無視している可能性も(画像はイメージ)
様々な権利を無視している可能性も(画像はイメージ)

――このようなサイトの問題点は?違法性はある?

インターネット利用者から見ると、コンテンツが冗長で退屈なので、迷惑な存在です。ただ、コンテンツの品質が低いこと自体には、当然ながら違法性はありません。

一方で、写真の盗用などは多数あるように思います。著作権、肖像権などの観点で問題です。


――このようなサイトは増えている?

広告アビトラサイトの存在は昔からあり、急に増えたとは言えないでしょう。ただ、レコメンドウィジット広告(おすすめ枠に表示される広告)が広がるにつれて、一般消費者が目にする機会が増えたという可能性はあるかもしれません。


――最近は生成AIが話題になっているが、このようなサイトにも影響を及ぼしている?

生成AIを使うと、そのようなサイトの記事を作成することもできてしまいます。

ただ、生成AIが流行するずっと前から、このたぐいのサイトはありました。また、広告アビトラサイトで儲ける人にとって重要なのはコンテンツではなく、冒頭で言及した「広告費の差額」です。広告費の差額の分析は、生成AIのような高度な技術を使う必要はありません。生成AIは、広告アビトラサイトには強い影響を与えないだろうと思います。

危険な広告に誘導される可能性も

――ユーザーとして、このようなサイトを閲覧することで何か問題は起こる?

広告アビトラサイトの運営者は、コンテンツから察するに、モラルがとても低いだろうと思います。おそらく広告についても、収益のみを考え、違法性を気にしないでしょう。

たとえば、広告欄に詐欺サイトへのリンクとなる広告が表示される可能性は高そうです。また、景品表示法・薬機法として問題のある広告が載っていることも多いです。その観点で危険なので、見ないほうが良いでしょう。

またメディアも、このようなサイトへの導線を作ってしまって良いのかよく考えるべきです。

詐欺サイトや違法広告のリンクがある可能性も(画像はイメージ)
詐欺サイトや違法広告のリンクがある可能性も(画像はイメージ)

――このようなサイトをメディアが広告として掲載することで、どのような影響がある?

短期的には、メディアは、広告収入が入ってくるので儲かります。一方、一般の読者は、低品質なコンテンツを読まされてうんざりします。

長期的には、メディアは広告収入が減ります。低品質なコンテンツへのリンクを放置すれば、一般の読者からメディアへの信頼が減り、訪問数や広告クリック数が減るからです。

また、資金力のある大手広告主ほど、そのメディアへの広告出稿を避けるようになるでしょう。ブランドを大事にする大手広告主は、怪しい広告の隣に自社の広告を載せたくないからです。その結果、広告の品質は下がり続けます。

ネット広告が怪しいものだらけになっている、ということはみんな知っているのに、それに対する具体的な動きはほとんどありません。


――広告アビトラサイトらしきものを見つけたら、ユーザーはどうすべき?

私の調査では、ネット広告の約26.4%が違法性を帯びているという結果が出たこともあります。現状では、違法性のある広告ですらたくさん表示されています。一方で、 広告アビトラサイトは迷惑ですが、違法なサイトではありません。すぐに消えることは考えづらいです。消費者としてはなるべく無視するべきでしょう。



広告アビトラサイト自体に違法性はないが、違法な広告が掲載されていたり、詐欺サイトへの入り口になったりする可能性もあることがわかった。広告アビトラサイトだと気が付いたら、無視することが自分の身を守ることにつながるようだ。

イラスト=さいとうひさし

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。