福岡市東区の「筥崎宮」で執り行われる、博多の秋の風物詩「放生会」。博多の三大祭りの一つといわれる放生会は、生き物の命を慈しみ、秋の実りに感謝するためのお祭りで、例年、多くの人出でにぎわう。この祭りの名物のひとつとなっているお化け屋敷の舞台裏に密着した。

博多三大祭り「放生会」4年ぶりに“制限なし”開催

博多三大祭りの一つ「放生会」
博多三大祭りの一つ「放生会」
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参道に約500軒の露店が並ぶ中、ひときわ存在感を放つのが、おどろおどろしい「お化け屋敷」。放生会の名物のひとつだ。

放生会名物「お化け屋敷」
放生会名物「お化け屋敷」

林政人さん(口上):
ほらほらほらほら、入って入って入って。こわくない、こわくない

巧みな口上でお客さんを呼び込むのは、お化け屋敷の責任者・林政人さん(75)。2023年は、制限のない中で開催される久しぶりの放生会となった。

林政人さん:
今年はもうマスクがないじゃないですか、皆さんの笑顔が見れますよ。ハハハ

放生会開催の6日前、9月6日。林さんの姿は既に筥崎宮にあった。林さんの会社が運営しているのは移動式のお化け屋敷。丸太から組み立て、設営には1週間ほどの日数がかかる。

林政人さん:
いま、準備の作業はテントですね。屋根の方の幕を張っているんですよ。ここが正面なんですよ。人形は飾りで置いて、あとは“生きおばけ”ですかね。人間が脅かしたり、現れたり、いろいろするんですよ

林さんは20年ほど前からこのお化け屋敷の入り口に立ち、口上をしている。

林政人さん:
もう年をとりましたー、あと何年できるかなあ…

例年、大変なにぎわいを見せる放生会だが、コロナウイルスの影響でお祭り自体ができない日々が続いた。制限のない放生会は、4年ぶりとなる。

林政人さん:
寂しかったねー、お祭りがなくなるっちゅうことは、寂しいことですよ。第一、子どもがかわいそう。九州ではここが一番、これより大きいお祭りはないね。この放生会っていうのは、(開催中は)毎日が日曜日みたいな。お客さん、またいっぱい来てくれるんじゃないですか

訪れた人たちが“名物”お化け屋敷を満喫

そして9月12日、放生会の初日。祭りが始まる高揚感の中、営業を間近に控えたお化け屋敷の舞台裏をのぞくと、林さんはお化け役のスタッフに声をかけていた。

林政人さん:
8時間、頑張ろう。「うわっ」て、腰抜かすぐらい驚かさんと

そして、縁起を担いで塩を置き、酒をまく。

林政人さん:
お客さんが入ってくるように、きょう初日だから

カーテンが開き、いよいよ営業開始だ。林さんの口上が始まる。

林政人さん(口上):
はいはいはい、お化け村、開演でございます。ほらほらほらほら、入った入った入った

ワクワク感とオドオド感に満ちた表情の子どもたちが、お化け屋敷の門をくぐる。小屋の中からは早くも「キャーッ」と悲鳴が聞こえた。

筥崎宮の境内や参道では“御下り(お神輿行列)”が始まり、祭りの盛り上がりは最高潮に。日が暮れると、お客さんはさらに増えてきた。

お化け屋敷に入ろうと訪れた家族に話を聞いた。

男の子(6):
はじめて

母親:
子どもが「どうしても入りたいから」って言って。朝、一回祭りには来てるんですけど、開いてなかったから夜、来ました

はじめてのお化け屋敷を楽しむ子どもたち
はじめてのお化け屋敷を楽しむ子どもたち

6歳の男の子、初めてのお化け屋敷の感想は…「怖かった―」。
一方、3歳の男の子は、父親の「怖かった?」という問いかけに、泣きそうな顔でうなずいていた。

「怖かった?」という問いかけにうなずく男の子
「怖かった?」という問いかけにうなずく男の子

お客さんの喜ぶ顔を見た林さんは、つかの間の休息。

林政人さん:
いま、ちょっと休憩。(その間は)テープを流しよるんよ。喉が痛くなる。やっぱり休憩せんとね。やっぱりお客さんが多いっちゅうことは、張り合いがあるわね。マスクもつけてないしね。みんなの笑顔が見えるけん

つかの間の休憩も終わり、マイクを持って口上再開。林さんを良く知るという人は…。

林さんの知人:
ずっと名物おじちゃんで。筥崎のお化け屋敷と言えば林さん。林さんの声を聴くと「放生会が来たな」って感じがしますね

林さんの声に引き寄せられて、瞬く間に行列が。お化け屋敷に初めて入るというカップルは…。

カップルの男性:
「お化け屋敷がいい」って彼女が言うので、入ります

そう言って館内に入ったが…。

カップルの女性(館内):
きゃー!普通にこわい!!

初めてのお化け屋敷を楽しんでいた
初めてのお化け屋敷を楽しんでいた

75歳、仕事を続ける理由は…

多くのお客さんを楽しませたお化け屋敷。初日の営業は大盛況で終了した。

林政人さん:
きょう1日、多かったね、お客さんが。予想外やった、きょうは。みんなの笑顔がいいね。みんなこう生き生きしとるみたいやね、見とったら

75歳になっても林さんが仕事を続ける理由を聞いてみた。

林政人さん:
やっぱ、好きやからできると思うんですよね。これはね、自分のもう、生きがいかな、まあ元気なうちだけですよ、元気なうちは、「やり遂げてやろう」と

カーテンが閉められて灯りが消され、1日の営業が終わった。

林政人さん:
これからは、お化け屋敷をもっともっと楽しく、お客さんに恐怖を与えるようなお化け屋敷にやっていきます

林さんは、笑顔で夜の闇に消えて行った。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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