もし大規模な災害が起きて避難所生活が長期間に及んだ場合、難病や障がいのある人たちが安心して過ごせる場所はあるのだろうか。彼らの受け入れ先となる「福祉避難所」を整備する広島市の自治体の動きを取材した。

自閉症の息子を災害時にどう守るか

広島市内で音楽教室を営む谷美穂さん。2人の子どもを育てる母親だ。

谷美穂さん(右)と長男で小学3年生の紫音くん(左)
谷美穂さん(右)と長男で小学3年生の紫音くん(左)
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長男で小学3年生の紫音(しおん)くんは2年前、一時的に意識を失い入院した際、腎臓の病気が発覚した。

その後、回復したものの、今も病気と付き合いながら暮らしている。また軽度の自閉症があり、小学校では特別支援学級に通っている。紫音くんは味覚が敏感で味にこだわりがあるため、そうめんのつゆも手作りするなど日常生活に配慮が必要だ。

味覚が敏感なため、手作りのつゆでそうめんを食べる紫音くん
味覚が敏感なため、手作りのつゆでそうめんを食べる紫音くん

だからこそ災害などの非常時にどうするか…悩みは尽きない。

谷美穂さん:
災害時に息子をどう守ってあげたらいいのか。そのすべを持ち合わせていないのが悩みの種です

谷美穂さん
谷美穂さん

防災バッグや缶詰を準備しても不安…

2018年の西日本豪雨をきっかけに、子どもたちと防災バッグを準備した。

2018年の西日本豪雨をきっかけに常備する防災バッグ
2018年の西日本豪雨をきっかけに常備する防災バッグ

日ごろからも缶詰を食卓に取り入れ、紫音くんが食べやすい缶詰を確認。また自宅で子どもたちと一緒に“手作りの簡易トイレ”を試すなど、家庭でできることを一歩ずつ実践してきた。

しかし、紫音くんの腎臓の病気や、大人数が苦手という彼の特性から避難所での生活は不安だという。

谷美穂さん:
大人数に圧迫感があり、ちょっとしんどさを感じるみたいです。体育館への避難が私の中では一番恐怖…。災害時にそんなわがままは通用しないので、彼が落ち着くスペースをどう確保するか私の中でずっと課題です

「福祉避難所」が避難弱者を受け入れ

そんな中、災害が起きた時、障がいのある人や高齢者を受け入れる施設を整備する動きが広がっている。広島市中区で身体・知的に障がいがある約20人が暮らす「ハッピーホーム」。

広島市中区にある施設「ハッピーホーム」
広島市中区にある施設「ハッピーホーム」

災害時、施設内のホールを「福祉避難所」として提供することにした。ホールを仕切って個室のように使えるなど、柔軟な対応が可能だ。

仕切って個室にもなるホールを「福祉避難所」として提供
仕切って個室にもなるホールを「福祉避難所」として提供

「福祉避難所」は自治体と協定を結んで設置される。小学校などの「指定避難所」に一度避難したうえで、福祉的な配慮が必要な場合に利用することができる。

ハッピーホーム・田中茂雄 所長:
私たちは障害福祉の分野で活動しているので、災害時も持っているノウハウを生かせればと思っています。“避難弱者”と呼ばれる人たちが遠慮なく使ってもらえる建物であってほしい

108施設が広島市と協定結ぶ

8月、区の担当者が「ハッピーホーム」の施設を訪れ、「福祉避難所」として開設された場合に必要な設備の点検が行われた。車いすでも利用しやすいバリアフリートイレや、実際に避難した人が使う手洗い場などを確認。

広島市中区役所 地域起こし推進課・岩佐陽介 主事:
停電になっても電源を使わないといけない人がいると思いますが、停電時でも使える予備バッテリーなどはありますか?

ハッピーホーム・田中茂雄 所長:
それが実は、ないんですよ。ポータブル電源を検討したこともあるのですが高額なので見合わせている状況です

現在、広島市が協定を結ぶ「福祉避難所」は108カ所。「福祉避難所」の多くは日ごろ、高齢者施設や障がいのある人が暮らすグループホームとして運営されている。そのため、施設独自で災害時の設備を充実させることに限界がある。こうした声を受け、広島市は要望があれば必要な物資の支給を検討するほか、随時「福祉避難所」を増やす方針だ。

広島市 健康福祉企画課・斎藤憲治 課長:
数としては足りていますが、必ずしも配慮が必要な人の近くに「福祉避難所」がある状態にはなっていません。希望する人にすぐに「福祉避難所」をマッチングできるよう、協定を結ぶ施設が多いに越したことはないと考えています

援助が必要なサイン「ヘルプマーク」

一方、軽度の自閉症の息子を育てる谷さんは音楽教室の生徒たちと、障がいや病気がある人の防災について考えるイベントを企画した。

広く知ってもらおうとその様子をインターネットで配信。

谷美穂さん:
これ、見たことありますか?何らかの困りごとがある人がつけている「ヘルプマーク」です。避難所でもしこのマークをつけている人がいたら、どんなことをしてあげられると思う?

ランドセルなどにつける「ヘルプマーク」
ランドセルなどにつける「ヘルプマーク」

谷さんは生徒たちに、困っている人がいたら大人の助けを呼んだり、主治医の名前や具体的な介助の方法が書かれた「ヘルプカード」を確認してほしいと伝えた。

谷美穂さん:
困ったら「困った」と言える世の中、困っている人を助けてあげられる優しい世の中になってほしいなと思っています

災害という非常時だけでなく、普段から個人の特性を受け入れる寛容さが今の社会に求められている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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