125人に1人の割合でいると言われる「吃音(きつおん)」。「吃音」は思うように言葉が出ない発話障がいの一つだ。話し方をからかわれ、つらい経験をした子どもたちを支えようと広島で奮闘する母親に注目した。

吃音があると言えず、苦しんだ過去

大学のキャンパスで大笑いする4人の男子学生。仲の良い友達と楽しそうに過ごす様子からは思いも付かないが、吃音を打ち明けられず悩んできた男性がいる。

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この大学院に通う戸田侃吾(かんご)さん。言葉に詰まりながら、その思いを口にした。

大学院1年生・戸田侃吾さん:
吃音による精神的な悩みが大きくなって、両親からまわりに打ち明けた方がいいと話があって、言おうと

頭に浮かんでいる言葉をスムーズに口に出せない吃音。発話障がいの一つで国立障がい者・リハビリテーションセンターによると吃音のある人は125人に1人の割合でいると言われている。

思うように言葉が出ない様子の戸田侃吾さん
思うように言葉が出ない様子の戸田侃吾さん

高校生になって吃音があることを打ち明けた侃吾さんだが、小さい頃はそうではなかった。
侃吾さんの成長を見守ってきた母・祐子さんには心残りがある。

戸田祐子さん:
小さいときから吃音のことを友達が知っている中で育ててあげられていたら、どんな子だったのかなと思ったりします

侃吾さんは中学生の頃、英語の授業で行われる音読の発表が何よりも苦しかったと言う。

大学院1年生・戸田侃吾さん:
音読で詰まったらクラスの人からくすくす笑われる。吃音をどう思われるか不安だったので、周りの生徒に言うことができなかった

吃音による悩みを家族にも打ち明けられず、母も吃音という現実にどう向き合っていいのかわからない日々が続いた。

戸田祐子さん:
吃音のことを話すとかえって傷つけてしまうのではないか。どうやって話題にしていいのかわからなかった。吃音さえなければと思ったことがいっぱいある。ある時、「発表をもっとしたかった」と息子が涙ながらに言いました。子どもともっとオープンに話ができていたら、ここまでしんどい思いをさせなくても済んだんじゃないかと後悔しました

当時中学1年生の戸田侃吾さんと母・祐子さん
当時中学1年生の戸田侃吾さんと母・祐子さん

「あ、あ…」と言葉に詰まるのが普通

母親としての後悔。しかし、これ以上息子と同じように吃音で苦しむ人を放っておくわけにはいかない。祐子さんは何もできなかった過去の自分と向き合い、まずは吃音を多くの人に正しく理解してもらうための活動を始めた。この日、向かった先は教育現場だ。

広島市西区の広島工業大学高校
広島市西区の広島工業大学高校

広島工業大学高校で、校長や教員に吃音のパンフレットを見せながら話す。

教育現場で吃音の理解を広める活動をする戸田祐子さん(右)
教育現場で吃音の理解を広める活動をする戸田祐子さん(右)

戸田祐子さん:
吃音で有名なのは「あ、あ、あ、あ」など最初の言葉を繰り返す症状があります。また、最初の言葉がうまく出てこない症状もあります。もともと言葉に詰まるのが普通。「落ち着いて、ゆっくり話して」と言われると、この話し方はやめた方がいいと思ってしまい吃音が悪化していく…

吃音の症状が書かれたパンフレット
吃音の症状が書かれたパンフレット

戸田祐子さん:
吃音があることを周りに伝えるのはハードルが高いような気がします。息子が小さいときからやっておけばよかったのですが、私はやっていなかったので…。皆さんに手に取って読んでいただきたいと思います

吃音の話を聞く広島工業大学高校・山口健治校長(左)
吃音の話を聞く広島工業大学高校・山口健治校長(左)

広島工業大学高校・山口健治 校長:
ついつい「緊張しなくていい」「ゆっくりしゃべって」と声をかけてしまいそうですが、そうではないことがよくわかりました

同じ悩みを持つ子どもたちを支えたい

悩みを抱え込む子どもを1人でも少なくしたい。戸田さんは吃音のある子どもたちがお互いに交流できる場をつくるため、支援団体を設立した。その運営を吃音のある子どもの親たちが担っている。

吃音の子どもたちが集まる広島市東区の二葉公民館
吃音の子どもたちが集まる広島市東区の二葉公民館

戸田祐子さん:
吃音を気にせず、のびのび話せる場ができたらいい。吃音がある子は自分だけじゃないと思ってもらえたら

吃音の子どもの支援団体を設立した戸田祐子さん
吃音の子どもの支援団体を設立した戸田祐子さん

ここは子どもたちにとってなくてはならない居場所。

小学4年生・石田晃大くん:
自分と同じ吃音の人が集まると自由になれた感じがして、いつも来るとほっとします

小学4年生・石田晃大くん
小学4年生・石田晃大くん

この日、配られた用紙には空のコップの絵が印刷されていた。スタッフが「自分の吃音の思いや願いを自由に描いてもらいたい」と説明すると、子どもたちは用紙に思い思いの色や絵を加えていく。小学6年生の古谷康介くんが表現したのは過去のつらい思い出だ。

小学6年生の古谷康介くんが描く吃音のイメージ
小学6年生の古谷康介くんが描く吃音のイメージ

スタッフ:
怒りマックスですね。歯がむき出しじゃん

となりに座る石田くんも、過去につらさや怒りの感情があったようだ。そのときの気持ちを真っ黒な色で塗りつぶしている。

小学4年生・石田晃大くん:
1年生のときは暗い。友達に吃音をからかわれて怒りが出た。先生と話し合いをしてだんだん明るくなった。みんなに吃音のことを言ったときは幸せ

小学4年生・石田晃大くんの描く吃音のイメージ
小学4年生・石田晃大くんの描く吃音のイメージ

コップの中の色は黒から紫、赤、黄とどんどん明るくなり、心にも虹がかかったように見える。

スタッフ:
みんなに吃音のことを話したときはどんな気持ちだった?

小学4年生・石田晃大くん:
すっきりした

小学4年生・石田晃大くん
小学4年生・石田晃大くん

小学6年生・古谷康介くん:
自分で吃音の手紙をつくって、6年生の一番最初に言った。吃音が出ても最後まで聞いてくれてありがとうという気持ちだった

吃音のある人たちが本音を言える大切な場は、少しずつ広がりを見せている。

戸田祐子さん:
自分の思いを伝えて、それを聞いてくれる人がいるだけでも違う。安心感につながっていると思います

 
 

かつて自分が受け止め切れなかった現実。その後悔の思いが、今、同じ吃音に苦しむの人たちの支えに変わっている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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