ゲームでも、リアルでもない「電車でGO」とは?

日立製作所(茨城県・日立市)
日立製作所(茨城県・日立市)
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茨城県日立市にある、日立製作所の研究施設。建物の中のある部屋に入ってみると、電車の線路のようなものがある。

前だけでなく、左を見ても右を見ても、さらに床下から天井まで、どこまでも果てしなく仮想空間が広がっていた。

日立が研究・開発を進めているこの最新鋭の施設は、その名も「鉄道メタバース」。

ドローンなどで撮影した実際の風景を元に、研究室内に仮想空間“メタバース“を生成した。

鉄道の線路や駅に止まっている車両をはじめ、駅のホームや遠くに見える住宅までリアルに再現されている。

日立製作所 研究開発グループ・石井利樹主任研究員:
日立は長年培ってきた設計・製造に関するノウハウ、車両情報を持っています。一方、運用保守の現場では、なかなか技術が伝承されない。
我々の持っているノウハウに、生成AIに代表されるようなデジタル技術を組み合わせることによって、この問題をメタバースで解決したいと考えました。

日立といえば、テレビや冷蔵庫など家電のイメージが強いが、売り上げに占める割合はわずか4%だ。

一方で、近年特に力を入れているのが、生成AIなどデジタル技術をフルに活用した、ハード面だけではない「社会課題解決型」のビジネスだ。

例えば、イタリアのジェノバ市では鉄道車両を提供するだけでなく、そもそもコロナ禍で減った移動を活性化させるため、さまざまな移動手段でも利用できるアプリを開発した。

さらに2023年7月には、ハワイで初となる鉄道が開業した。

日立は車両の設計や製造だけでなく、システムの運用や保守も請け負い、渋滞解消や環境保護にも取り組んでいる。

生成AIが技術伝承に一役

今回の鉄道メタバースも、そうしたデジタル活用による社会課題解決型ビジネスの一環だ。

これまで現場でしか行えなかった保守点検作業のレクチャーを、部屋にいながらにして可能にした。

画面に緑で表示されているのが、正常な箇所。

赤で表示されているのは、異常が疑われる箇所だ。

画面の中の赤い部分をよく見ると、ホームの一部が崩れている。

一方、ホームの亀裂や線路の破断、さらに火災による焼け焦げまで…。

これらは、すべてAIが作り上げた架空の異常箇所で、新人作業員がなかなか体験できない異常も、メタバースで再現した。

パソコンのディスプレイやゴーグルの中ではなく、同じ空間で会話をしながらノウハウを共有することで、技術の伝承がよりやりやすくなるという。

さらに、電車の車内を再現した空間では…。

突然座席がはずれ、浮かび上がった球体が点滅し始めた。

例えば、車体前方の「設計変更」と書かれた部分を見ると、横には紙の設計書のようなものが表示されている。

実はここは、かつて問題が生じた箇所だ。赤く表示されている部分の隙間が狭く、作業用の器具が入らなかったという。

日立製作所 研究開発グループ・石井利樹主任研究員:
インフラの領域は、高齢化に伴う人材確保が非常に課題となっているので、そういったところにメタバース活用によって、課題解決をはかっていきたいと考えています。

仮想空間を活用して、実生活の困りごとを解決する。日本のものづくりの技術が未来へと生かされている。

メタバースがオンラインの障壁を解消

「Live News α」では、キャスター取締役CROの石倉秀明さんに話を聞いた。

堤 礼実 キャスター:
メタバースの可能性を広げる今回の取り組み、どうご覧になりますか。

キャスター取締役CRO・石倉秀明さん:
メタバースというと、ゲームやエンタメの世界での話がまだ中心になりがちだが、ビジネスの世界で有効活用しているひとつの例。
メタバースは仮想空間を作れるわけですが、それによってオンラインではできなかったことを補足できるようになっている。
VTRにあったように、鉄道の運用や保守など実物に近いものを再現して、実際に見ながらやるような作業がやりやすくなるかもしれない。

堤 礼実 キャスター:
さまざまな現場で、メタバースの活用が期待できそうですね。

キャスター取締役CRO・石倉秀明さん:
今回のように技術指導の場面はもちろんだが、接客の研修をしたり、お寿司の握り方を教えたりなどもできるようになるかもしれない。
つまり、目の前でやって見せるリアルと、離れた場所をつなぐオンラインの掛け合わせで、「いいとこどり」のハイブリッドが実現できてくるということだと思う。

堤 礼実 キャスター:
具体的には、どんなことができるようになるのでしょうか。

キャスター取締役CRO・石倉秀明さん:
例えば、リモートワークだと新人に仕事を教えるのが難しいと言われる。その理由の一つは、やっている仕事を実際に見せてあげることができないこと。
これからは、メタバースをうまく活用すれば、実際にやっている仕事をリアルに近い形で見てもらうことができるようになるのではないか。

堤 礼実 キャスター:
離れた場所にいても、リアルに近い形で教えたり教わったりすることができるわけですね。

キャスター取締役CRO・石倉秀明さん:
例えば仕事以外では、子どもの習いごとにしても、地方にそれが教えられる人がいないので習いごとをさせてあげられない、と言った話を聞いたりもする。
ただ、こういったことは解決していく。つまり、近くにできる人がいないからできないという問題は減っていく。

メタバースによって、オンラインのネックであった「実物を見る・触る」といった感覚がリアルに近くなっていくので、それによってオンラインでできることが増えていけば、距離の制約を無くすといったオンラインのメリットを最大限享受できるようになる。それによって機会の格差や人手不足などを解消していくことができるかもしれない。

堤 礼実 キャスター:
何かを学んだり理解する際に、実際に体験することはとても大切です。
仮想空間を利用して、様々な瞬間を目視することで、新たな気づきやノウハウの継承にも繋がりやすいのかもしれません。
鉄道だけでなく、さまざまな分野において、今後役立つ場面がありそうですね。
(「Live News α」9月18日放送より)