36人が亡くなった京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判が9月5日に始まった。7日には被告人質問が行われ、青葉真司被告(45)が自分自身や事件について語った。本人の口から語られた、今の自身の状況や生い立ち、父親からの虐待、そして“京アニとの出会い”とは。 

取り押さえられた際の言葉「お前ら全部知ってんだろ」の意味

7日の午前11時45分ごろから始まった弁護側の被告人質問。青葉被告は車いすで入廷し、証言台へ移動した。

冒頭でまず、弁護人が質問したのは前日の法廷で流された音声について。6日の法廷で、事件直後に警察官に身柄を取り押さえられた際、青葉被告が「パクられた、小説。お前ら全部知ってんだろ」などと叫ぶ音声が公開されていた。その状況について弁護人が質問した。

弁護人:
お前ら知ってるだろと3回同じようなことを言いましたが、お前らとは?

青葉被告:
警察の公安部になります。火災だったので、まず救急車、消防車、警察が呼ばれると思いますが、警察が早かったので、おそらく公安の人間ではないかと思いました。

はっきりした口調でよどみなく返答した青葉被告。これまでの裁判では青葉被告が事件前に「公安に監視されている」などと、妄想と思われることを周囲に話していたことが明らかになっている。弁護側の質問には、事件直後も、「公安」の存在が青葉被告の意識の中にあったことを示そうとする意図があったとみられる。

青葉真司被告(45)は2019年7月、京都市伏見区の京都アニメーションの第1スタジオにガソリンをまいて放火し、36人を殺害した罪などに問われている。これまでの公判で青葉被告は起訴内容を認めていて、裁判では被告の責任能力が争点となっている。

被告が語る現在の体調

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被告人質問では、現在の体調について確認する場面があった。

弁護人:
腕は上げられますか。
青葉被告:
(右腕と左腕を片方ずつあげる)
弁護人:
箸やスプーンは使えますか
青葉被告:
はい、こちら(左手)で握れます。
弁護人:
車いすから自分で立って歩けますか。
青葉被告:
それはできないと思います。

全身の9割以上に重いやけどを負った青葉被告は、手術の影響で「頭と胸以外の汗をかけず、温度も感じにくい」と話している。一方で聴力に関しては問題なく、視力は悪いものの資料を見ることはできるため、「裁判で答弁できる状況で臨むことができる」まで回復している状況がうかがえた。

子供時代の思い出 両親の離婚 困窮した生活

質問は被告の生い立ちの話へ。青葉被告が自らの半生を語り始める。埼玉県で生まれ育ち、父・母・兄・妹と5人で暮らしていた青葉被告。この時の生活水準については「中の下くらい」と話した。

兄とはテレビゲームをして遊んでいたといい、小学3年生のころからゲームをきっかけに三国志に興味を持ち、子供向けの小説を読み始めます。「もう少し難しいやつがある」と聞き、「父親の金をくすねて」5000円で三国志の本を数冊買ったと話した。

小学校時代に両親が離婚した後、父・兄・妹と4人で暮らすようになった。

弁護人:
小学校3年の時に両親が離婚し、母親とは別の生活になりましたね。
青葉被告:
はい。
弁護人:
その前から両親は仲良くなかった?
青葉被告:
その通りです。うちの親父がお母さんを引っ叩いて警察を呼ばれました。

父親は仕事を辞め、糖尿病を患い、青葉被告は「食べていくのに困った記憶があります」と振り返る。具体的なエピソードとして「50円の冷やし中華があると聞いて、スーパーに1000円を持って行った。47円のカップラーメンを見つけたので父親に相談すると、50円だと20個しか買えないが、47円だと21個買えるとなって、1個だけ増えたことを喜んで食べたことがある」と明かした。

父親からの“虐待”

両親の離婚後に、青葉被告は父親から虐待を受けるようになる。

弁護人:
子供3人に対する父親の対応は変わりましたか。
青葉被告:
正座させられたり、ほうきでさんざん叩かれたりしました。
弁護人:
ベランダに立ってろと言われたこともありましたね。
青葉被告:
はい。素っ裸にされて、立ってろと言われました。
弁護人:
他の体罰は?
青葉被告:
日常茶飯事すぎて覚えていません。身体が大きくなるまで続きました。

中学生になると、柔道の大会でもらった準優勝の盾を父親から「燃やしてこい」と言われ、実際に燃やしたという。転校した後はだんだんと学校に行かなくなり、不登校になったと説明した。

このころの精神状態について、「人が何か言ってこようとする」ような幻覚的な症状が出てくるようになったということだ。症状は、定時制高校に通うようになったころには、なくなっていたという。

青葉被告にとって幼少期の記憶はある程度鮮明に残っているようで、終始はっきりした口調で答えていた。

定時制高校時代に京アニとの“出会い”

青葉被告は自身の定時制高校時代について「いい環境だった」と振り返る。

弁護:
勉強しましたか。
青葉被告:
真面目になりました。真面目にやるのは10人くらいだったので、先生を独り占めできた。家庭教師みたいに。真面目にやった記憶があります。

この時期に京アニを知るきっかけがあったと青葉被告は話す。検察側はこれまで、青葉被告が14年前に小説を書くようになったのは、京アニの代表作、「涼宮(すずみや)ハルヒの憂鬱」に感銘を受けたからと指摘していた。そのさらに前の時期である定時制高校時代に、友人から薦められて熱中した恋愛ゲームの名前をあげる。このゲームについては、青葉被告は「京アニにつながっていくことになるのですが」と前置きした上で話した。

このゲームの開発会社が作った別のゲームを、京アニがアニメ化したとして、「ハルヒ(涼宮ハルヒの憂鬱)をアニメ化したのも京アニ。(友人に薦められた)ゲームがなかったらハルヒを見なかった気がするので、小説を書いてなかったと思います」と答えた。アニメやゲームについては豊富な知識を持っているようで、饒舌に語る様子も見られた。

専門学校退学後に逮捕 そして孤立を深める

高校卒業後はゲームの音楽を作りたいという思いで専門学校に通ったが、半年で退学。このころから、孤立を深めていくことになる。 コンビニエンスストアで働くが、人間関係などがうまくいかず、辞めた後は無職になった。電気やガス、水道は止められ、生活保護を求めて市役所に行ったが断られてしまい、食事をとれない期間が長く続いたという。

17年前、女性の下着を盗んだ疑いなどで逮捕される。この時の心境について青葉被告は「(同僚に)裏切られたり、仕事しない店長だったり、もうこれ以上できることはないと思いました」と話した。母親と妹が留置先に面会に来たが、断っていた。

青葉被告:
親父が死んでから1人で生きていこうと決めていたので、誰にも頼らないつもりでした。

その後は工場で働くようになるが長続きせず、人との関わりを避けていったという。

裁判では、11日にも引き続き弁護側の被告人質問が行われる予定だ。青葉被告と京アニとの関係や、小説を書き始めた経緯などが詳しく語られるとみられている。

(関西テレビ)

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