鹿児島市出身で京セラの創業者・稲盛和夫さんが90歳で生涯を閉じてから2023年8月で1年がたった。西郷隆盛の座右の銘「敬天愛人」を社是に掲げ、京セラを一代で世界的企業に育て上げたその経営哲学は、「稲盛イズム」と呼ばれている。稲盛さんが旅立って1年、関係者の声から今も息づく「稲盛イズム」をたどった。

人のために働くことの大切さ

1932年、鹿児島市出身の稲盛和夫さん。鹿児島大学工学部を卒業後、1959年に京都セラミック(現在の京セラ)を立ち上げ、世界的な企業に育て上げた。

この記事の画像(17枚)

一時、経営破たんした日本航空の再建も果たし、その手腕で「経営の神様」とも呼ばれた稲盛さん。鹿児島テレビが取材した映像にも稲盛さんの信念がこもった数々の言葉が残されている。

2005年、母校の鹿児島市・西田小学校では、孫のような年代の児童らに努力を続けることの大切さを語った。

稲盛和夫さん:
こうしたい、ああしたいという思いを強く持つ。明るく前向きに、たゆまぬ努力を続けていく

2016年に鹿児島大学で行った講演では自分ではなく、人のために働くことの大切さを学生に説いた。

稲盛和夫さん:
思いやりに満ちた優しい思いを抱いている人は、知らず知らずのうちに、思いやりにあふれた人間性、人柄、人格になっていきます

2022年8月に90歳で亡くなった稲盛さん。その精神は今も息づいている。

鹿児島の焼酎メーカーの一つ、濵田酒造の濵田雄一郎社長は「稲盛イズム・経営哲学を勉強している。社内でも。私がふがいなく、支え(稲盛さん)を失ってふらふらしていますが、社員のみんなが頑張ってしっかりやっていてくれている。ここは塾長(稲盛さん)から褒めてもらえるかもしれない(笑)」と語った。

「全従業員の幸せを追求」

濵田社長は、1983年に稲盛さんが若手経営者を対象に始めた経営塾「盛和塾」の塾生だった。

塾の一貫したテーマは「心を高める、経営を伸ばす」。濵田社長は、稲盛さんと酒を酌み交わしながら膝をつき合わせて経営について語ったという。

濵田酒造・濵田雄一郎社長:
心を高めるとは“利他”。自分事ではない。人さまごと。世のため、人のためのこと。まさに「敬天愛人」ですね

西郷隆盛が座右の銘にしていた「敬天愛人」という言葉。稲盛さんは京セラの社是にも掲げ、経営に人の心の重要性を吹き込んでいた。

濵田酒造・濵田雄一郎社長:
稲盛さんは「稲盛和夫でなくてもよかったんだ」と。「そのようなことが必要であれば誰かがやっていたはずだ」と。それを「俺だからやれた、そういう風に思っちゃいかんぞ」と。「少しでも“私”をはさんではならん」と。南洲遺訓にありますよね。それを、誠に体現された方だと思う

※南洲遺訓=山形・旧庄内藩士らが、生前の西郷隆盛の教えをまとめたもの

鹿児島県薩摩川内市にある京セラ鹿児島川内工場。受付には「敬天愛人」の文字。稲盛さんは経営の一線を退いた2015年にこの工場を訪れた。

京セラ鹿児島川内工場・重田幸男工場長:
鹿児島の地に、言えば“田舎”に工場をつくったときに、未来永劫(えいごう)成長できるような工場にできるんだろうかと葛藤があって、ここまで工場が大きくできたのは(稲盛)名誉会長(当時)の判断が正しかったことと、工場で働く皆さんが一生懸命、魂を仕込んで結果を導いていったということについては「感慨深い」という話をいただきました

京セラの経営理念は、「全従業員の幸せを追求する」。従業員に囲まれた稲盛さんは、一人一人の手を取り、うれしそうにほほ笑んでいる。

京セラ鹿児島川内工場・重田幸男工場長:
亡くなって今、思うことは、稲盛さんの教えをより真剣に実践することによって常に息づくような組織、工場をつくっていきたいということ

今も息づく「稲盛イズム」

鹿児島市加治屋町に2020年にオープンしたかごしま国際交流センター。1階と2階にはラウンジや多目的ホールなどがあり、3階以上は留学生の居住スペースとなっている。

鹿児島の国際交流が活発になればと稲盛さんが寄付した20億円を活用して造られた。2015年の寄付金贈呈式で稲盛さんは、こんな思いを語っていた。

稲盛和夫さん:
残り少ない人生の中で、何か、生まれ故郷の鹿児島のために役に立つことをできないかなと。鹿児島の人たちが世界に羽ばたくきっかけになればと思う

居住スペースは中国、ベトナム、ブラジルなど、6カ国40人の留学生が利用している。

中国・内モンゴル自治区からの鹿児島大学大学院に留学している宋雨薇さん(24)は「農学について勉強しています。こういうチャンスがあってここに住んで、いろいろな国の人と日本人と交流できることに、本当に感謝しています」と流ちょうな日本語で語った。

企業経営に社会貢献、多くのことを成し遂げたように見える稲盛さん。その元で学んできた濱田社長は、稲盛さんのこんな言葉を口にした。

濵田酒造・濵田雄一郎社長:
「あんたらに偉そうなこと言っているけど、俺だってできていないんだ。知っているんだよ、わかっているんだよ。それでもやろうと努力する、ここに価値があるんや」と。「『できんから』とか『できたから』と言って一喜一憂せず、とにかく努力し続けるということに価値があるんだから頑張れと」言っていた

「自分を犠牲にしてでもほかの人を助けよう」という利他の心に敬天愛人の精神、常に人の心をベースとしていた稲盛さんの哲学。没後1年がたった今も、その「稲盛イズム」は多くの人の中で生き続けている。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。