ちょうど100年前の9月1日午前11時58分に発生した関東大震災。134カ所で火が起こり、東京の4割が焼けたと言われている。
そんな中で当時多くの犠牲者を出したのが、群衆雪崩、将棋倒し、ドミノ倒しなどで負傷する「群集事故」だ。その群集事故を防ぐため、今、私達は何ができるのか。今後高確率で首都直下地震が起きると予測されている、東京都の最新の取り組みを取材した。避難者で埋め尽くされた関東大震災
東京の4割が焼けたと言われる関東大震災。火に追われた避難者たちは、当時は借家住まいが多かったためか、家財道具を大八車に載せて逃げ惑ったとされる。
この記事の画像(8枚)最終的に避難した人の数は、東京だけで100万人以上。各地で公園や広場、駅などが人で埋め尽くされ、雑踏事故など多くの混乱が起きた。
中でも恐ろしい出来事が、東京墨田区の「本所被服廠跡」と言われる空き地で起こった。台風の影響で関東地方に強風が吹く中、巨大な炎の渦「火災旋風」により、約3万8000人の避難者が逃げ場を失って命を落としたのだ。
群集事故の懸念は近年でも…東日本大震災であふれた帰宅困難者
災害時に避難する人たちが同じ場所に殺到する現象は、近年の災害でより深刻な問題になっている。東日本大震災の際の東京・渋谷駅周辺は、帰宅しようと押しかける人々で埋め尽くされた。
帰宅困難者の問題に詳しい東京大学の廣井悠(ゆう)教授は、「災害時に家族を心配して帰るっていうのは人間として、家族として当然の決断というか心理。でもそれをみんながやってしまうと、過密空間が発生して群集事故が起きる可能性がある。
事前に職場や家庭で帰らなくても済む環境を整え、一気に帰る人の数を減らすことが重要」と指摘している。
今後30年の間に70%程度の確率で起きると言われる「首都直下地震」について、東京都は都内で最大約6150人の死者、約19万4000棟の建物の被害が出ると想定している。
また国のデータをもとに、職場など発災時にいた場所から自宅までの距離が10kmを超えると、帰宅困難者になる人が増え、最大で約453万人に上ると見積もっている。
一目で情報把握 都が開発進める最新システム
都がこの帰宅困難者に対し、必要な情報を迅速に伝えるために開発を進めているのが、GPS情報等を利用して都内の混雑状況や一時滞在施設の開設・運営状況等を把握する「帰宅困難者オペレーションシステム」だ。
このシステムでは、人の流れや一時滞在できる施設などの情報を地図上にまとめ、人の密集度を一目でわかるように赤・オレンジ・黄色・緑で表している。
高層ビルの多いエリアでは、各階ごとに人が滞在しているので合計人数は多くなるが、必ずしも密集しているとは限らない。
今後は、移動の際の判断のために、道路上での人の密集度も確認できるようにする。
なるべくリアルタイムの情報を得られるよう、当初は1時間だったタイムラグを15分まで短縮し、さらに予測を加えてほぼリアルタイムの人流を伝えられるようにするという。
都はこのシステムを2023年度中に関係機関に提供し、説明会や訓練を行いたいとしていて、「どのデータを提供すれば混乱が起きないか」についてさらに検討を進めた上で、災害時には帰宅困難者へ提供する考えだ。
課題は「3日間の待機」できる準備
また「帰宅困難者オペレーションシステム」活用の一環として、2023年2月に北区・王子で、8月には足立区・北千住で、LINEを使った帰宅困難者訓練を行った。
帰宅困難者がLINEにアクセスし質問に答えると、自らの位置情報から付近の一時滞在施設とそこまでのルートが案内される。
到着後は、一時滞在施設にLINE登録すると名簿が自動的に出来上がり、開設状況に反映されるという。
名簿には個人情報は反映されず人数のみが表記される。
そして、災害時に停電しても通信が途切れることがないよう、人工衛星を使った米宇宙企業「スペースX」のインターネットサービス「スターリンク」を2023年度から試験運用していて、足立区・北千住の訓練で初めて使用された。
東京都総務局総合防災局の西平倫治課長は「都としては最新の技術を使いながら、災害時には帰宅困難者による混乱が起きないようにしていきたい」と話すとともに、現在の課題として「3日間の滞在」をあげた。
都は東日本大震災の時に帰宅困難者による大渋滞が生じた経験を踏まえ、10年前の2013年に帰宅困難者対策条例を施行。
発災から72時間は救命救急が最優先となることから、すぐに自宅に帰るのではなく職場や学校などで待機し、事業者にも従業員を3日間待機させられるだけの食料などを備蓄するように求めている。
自分が3日間滞在することになったら何が必要か、どう過ごしたらいいのか、改めて確認しておく必要があるのではないか。
フジテレビでは9月3日(日)16:00から、当時の多くの映像や写真、手記などから100年の時を経て現代に伝えられる関東大震災の真実と、首都直下地震に備える現代への教訓について、特別番組で伝える。
(フジテレビ社会部・都庁担当 小川美那)